第2話 初恋の君(岡田恭一目線)

 ずっと他人に興味がなく、ゲームばかりしていた僕は、高校に入って恋をした。前の席の上柿千佳さんは僕によく話しかけてくれた。提出物の出し忘れで先生によく呼びたされていたのを見ていたらしい。明日これの提出日だよ、と期限を教えてくれるようになった。


 それから彼女とよく話すようになった。ゲームをしていることをバカにしない彼女との会話はすごく居心地が良かった。お互いの家族のことや、好きなこと、趣味などを話した。学校行事でも一緒に活動することが多く、僕と彼女の距離は自然に近づいていった。彼女の明るさや素敵な笑顔などに惹かれていった。


 彼女に惚れたら、自分に惚れてほしいと思うようになった。まずは前髪を切って顔が良く見えるようにした。やっぱりちゃんと目を見て話したかったから。それから、提出物を忘れないようにしたし、黒板消しなど日直が忘れている仕事をやったりした。またある時は、教室で僕とカップルがいた時に彼らがいちゃいちゃしたそうだったので退出したこともある。以前気にせず自分の席にいたら、カップルには周りを気にせずいちゃいちゃしてほしい、という彼女に連れ出されたことがある。その時はよく分からなかったけれど、今なら分かる。僕ももし彼女と付き合うことになったら、他の人がいるところでいちゃいちゃしたくない。


 彼女のことが好きだと自覚してしばらくしたら、こんな噂を耳にした。『上柿さん、3年生の校内1イケメンの先輩に告白して振られたらしいよ』と。ショックだった。僕と仲良しでいい感じだと思っていたのは勘違いだったのか、と。彼女が好きになるような人はあの先輩みたいな、イケメンで明るくて周りを照らすような存在なのか、と。僕は自分の気持ちに蓋をすると決めた。


 でも彼女のことは好きだ。気持ちを出さずとも元気付けたいと思った僕は、今まで以上に優しくした。困っていたらすぐに助けたし、いたっ、と声をあげたらすぐに絆創膏をあげたりした。またある時は、彼女が好きなジュースを買って、あげたりした。それ以外に元気付ける方法が思い付かなかったが、彼女はいつも笑顔だったので、成功していると思っていた。


 その後3年生になったらクラスが離れてしまった。しかし彼女はよく僕のクラスに来て話しかけてくれた。僕も下駄箱や購買などで彼女の姿を見かけたら声を掛けるようにしていた。


 それから1年がたち卒業の日を迎えた。友達もいなく部活動にも入っていなかった僕は最後のホームルームが終わったらすぐに帰ろうとした。すると、校門を出ようとしたら彼女に呼び止められた。


「待って!」

「上柿さん? どうしたの?」

「連絡先、教えてほしい、です」

 彼女は大学合格祝いでスマホを買ってもらう予定だからまだ持っていない、と前に言っていた。だから僕たちはお互いの連絡先を交換していなかった。でも、高校卒業したら彼女のことを諦めようと思っていた僕は、彼女に連絡先を渡そうと思っていなかった。でも、彼女にこんなこと言われたら、渡したくなる。

「大学受かったらスマホ買ってもらってすぐに、もしダメだったら親に借りるかして絶対に連絡するから!」

「そんなに必死にならなくても。いいよ、ちょっと待ってね」

 僕はそう言って彼女が渡してくれたメモ用紙に連絡先を書いた。

「ありがとう! ちゃんと今月中に連絡するね! また会おうね!」

 そう言って彼女は、部活仲間と写真撮影をするからと言って、走って校舎に戻って行った。


 その時の僕は、彼女からの連絡をとても楽しみにしていた。いつ、どこに遊びに誘おうか、と浮かれていた。それにもかかわらず、いつまで経っても彼女からの連絡はなかった。


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