二日後

1月10日



 俺は妹を必死に探した。

 思い当たる場所をしらみつぶしに探しつくした。


 もちろん危険な場所もあったが、そんなのは関係なしに動きまくった。


 そして……ようやく彼女を見つけることができた……。


「あぅ……あぅ……」

灯里あかり……」


 ――ぬいぐるみの“熊五郎”


 力なくぶらんと下がった腕には、俺がクリスマスにプレゼントしたぬいぐるみが握られていた。それが目印になって、俺は灯里あかりを見つけることができた。


 義妹は俺が通っていた高校の周辺を彷徨っていた。


 あんなに色白だった肌が完全に浅黒く変色している……。

 目は完全に焦点を失っており、白目のところは真っ赤に染まってしまっている。


 口元にはだらしなく涎が垂れ下がっている。いつも身だしなみだけはちゃんとしていたあいつからは考えられない姿になってしまっている。


灯里あかりっ!」


 俺は彼女に抱きついてしまった。


「あぅ……あぐぅ……」


 感染のリスクなんて考えていなかった。

 いや、別に感染してしまってもいいと思っていたのかもしれない……。


「んがっ……あぅ……」


 いつもの反応がない……。

 いつものこいつなら「気持ち悪い」って言って俺のことを突き飛ばすはずなのに!


灯里あかり! 帰ろう! 俺たちの家に帰ろう!」

「あぅ……あぅ……」


 俺から離れようとする灯里あかりを必死に繋ぎとめる。


「あぅっ! がうぅうっ!」

灯里あかり! 駄目だって! 行っちゃダメだって!」 


 灯里あかりが噛みつくしぐさを何度もしているが、一向に噛みついてはこない。灯里あかりの頬に一筋の涙が伝わったのが見えた。


「いいよ! 俺のことを噛んでもいいから! 正月に約束したじゃんか! ずっと一緒にいようって!」

「あぅ……あぅ……」


 自然と涙が溢れてくる。


 こんな世界でも二人ならなんとかやっていけると思っていたのに……。

 灯里あかりがいないなら俺だって――。











「一ヶ月前から、避難所で治療の方法を聞いていたという男性はあなたでしょうか?」


 ふいに後ろから女性の声が聞こえてきた。


「……」


 俺は警戒をしながら後ろを振り返った。

 そこには見慣れない、白衣を着た中年の女性がいた。


「ワクチンの話は聞いたでしょう!? 早くその子をこちらに!」

「えっ……?」

「事態は一刻を争います。まだ治る可能性がありますよ!」


 俺は一縷の望みを託して、その女性に義妹を引き渡した。











義妹がゾンビから回復するまで後5日

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