tyaputa02――彼ら①――

「大丈夫、この先はもう別のところですよ」


 促がされるまま処置室の扉の先進むと、埃っぽい場所についた。

 これは本当はもっと複雑な、人の生活が発する匂いだったのだけれど、まだこの時は理解していない。わたしがこれまで生活してきた部屋や仕事場が、いかに清潔で無臭だったことか。

 そこは物がごちゃごちゃしていた。薄い布の束のようなものがいたるところで積み重なり、あちこち配線コードがむき出しで、張り巡らされている。隅には埃が溜まっていた。

 もう少し片づければいいのに。

 オレンジ色のライトで照らされているそこを、コードを踏まないように避けながらそのまま進むと、急に開けた部屋に辿りついた。

 そこには、壁一面にいくつものモニターがあった。

 わたし達が仕事をする時に使うような、空間に浮かぶ映像媒体ではない。四角いプラスチックの枠に収まっていて、それらには色んなものが映っていた。

 あるモニターでは人々が廊下を行きかっていた。それも、わたし達が全員集まっても足りないような、大勢の人間だ。皆何かに追われているように忙しそうに進んでいる。

 ぶつかることなく交差していくのは見事だった。

 あるモニターでは誰かが人々の前で何かを話している。彼の前に立っている、あれはなんだろう?何かの機械?

 あるモニターでは見たこともない毛だらけの生き物が映っていた。人間ではないはず。

 わたしが茫然と室内のモニターを見回していると、モニターの前のソファに、誰かがいることに気づいた。

 配線コードを更に複雑に絡ませたような頭をしたその人は、どうやらそこで眠っていたようだった。

 わたしが驚いて悲鳴をあげると、その人はゆっくりと身体を起こした。


「――ああ、成功したのか」

「成功した?」

 

 わたしは繰り返す。

 わたしをここへ招いた、彼が答えた。


「スカウトに成功したってことですよ」


 ソファの彼は、身体を起こしてあくびをした。これまたくしゃくしゃの白衣の袖が見えた。履いているのはサンダルだろうか?こちらもくしゃくしゃだった。


「さぁて、ここからどうするんだ?」

「どうもしない。彼女の疑問に答えるだけだ」

「疑問ねぇ、疑問。処分されるなら、同じことだったろうに」

「試してみようという話に、君は乗ったんだと思った」

「否定はしていない。だが、肯定もしていないぞ」


 二人はよくわからない話をした。わたしがここに来ることはどうも、予定にないことだったらしい。


「わたし、どうすればいいんですか?」


 二人がわたしに注目する。


「ここは、どこなんですか? あなたは誰なんですか? ドクターとは別の方なのでしょう? ほかのあなた方は? どこにいるんですか?」


 わたしはすでに、居心地が悪くなっていた。

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