第2話 天然女子と放課後の図書室

 私が図書室へ入ると、友人のしおりが先に席へと着いていた。


「栞、お待たせ」


「夏樹! ごめんね、放課後にわざわざ」


 佐原栞さはらしおり。高校から仲良くなった私の親友。

 男友達の春一を除いた同姓の中では一番の私の友達である。


 そんな彼女がわざわざ放課後に私を呼び出すなんて。きっとあの事に決まっている。


「いいよ。相談事があるんでしょ?」


「うん……。夏樹にしか相談できなくて」


 わざわざ休館日である図書室を図書委員の特権を利用して開けてまで私に相談を持ちかけてきたって事は、それなりの理由のはず。


「それで、相談ってなに?」


 私が向かい側の席に腰をかけて事の内容を栞に問う。


「あ、あのね。同じクラスの透君の事でなんだけど」


 透君……。春一と仲の良い三木透みきとおる君の事だ。

 そもそも栞から聞く男の子の話は彼の事ばかり。本人は最近まで黙っていたけど、随分前から私は栞が三木君の事を好きなのを知っていた。


 だって、友達になったその日から一緒に帰ろうなんて誘うんだもん。

 奥手で大人しい栞からしてみれば、すごく大胆な行動。だからすぐに三木君に好意を寄せている事がわかった。


「うん、三木君がどうかしたの?」


「透君って……。好きな人いるのかな?」


「え、どうして?」


「だ、だって。好きな人に好きな人がいるのかどうかはやっぱり知りたいよ」


 いや違うよ。私が言いたいのはなんで自分たちが両思いだって気付いてないんだろうって事なんだけど……。


 私の親友は、時折天然なところを見せるけど。その中でも恋愛に関しては断トツである。

 今が初恋だっていうのもあるんだけど、これは重症すぎるでしょ。


 それに絶対、三木君だって栞のこと好きだろうし。それは去年も今年も同じクラスだから、外から見てる私ですら気付いてる。


 たぶん、春一も気づいてるよね。二人の事……。一応、私たち四人とも同じクラスな訳だし。


「栞から直接聞けば良いんじゃない?」


「だ、駄目だよ!」


「どうして?」


「だって恥ずかしいもん。それに、もしいるって知ったら私、どうしたらいいか……」


 三木君は好きな人いるし、それが栞だと伝えてあげたいけど、こういうのは見守るのが一番なんだよね。


 お互いに相当すれ違いが起こってるみたいだけど。


「だから、夏樹から千田君に聞いてもらいたいの!」


「春一に?」


 栞が急に春一のことを持ち出すから、何事かと思ったけどそういうこと。


「要するに、三木君と友達同士の春一からそれとなく聞いて欲しいってこと?」


「うん!」


「それなら別に栞からでも良くない? 全く知らない仲って訳じゃないんだし」


 あれ、どうしてだろう。今少しだけ胸がチクっとした気がする。


「ううん、夏樹から千田君に聞いてもらいたいの。ほ、ほら! 二人って前から仲良しだし」


 確かに私と春一は中学からの友達だけど、春一から聞くなら別に私じゃなくても……。あっ、でも三木君との事も話さなきゃいけないから頼める人が限られるんだ。


「わかった。栞がそこまで言うなら」


「やった! ありがとう」


 こうして、栞から私への恋愛相談は終了する事となった。

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