恋愛相談を受けた俺たちは、互いに鈍感と天然に頭を悩されるのである

桃乃いずみ

第1話 鈍感男子と放課後の教室

 

佐原さはらさんって、好きな人とかいるのかな?」


「急になんの話し?」


 放課後、夕日が照らす教室で相談があると友達のとおるに、この俺 千田春一せんだはるいちは呼び出されていた。


「佐原さんって百瀬ももせさんと仲良いじゃん?」


「うん、そうだね」


「そこで春一はるいちの出番だろ」


「いや意味わからないんだけど。その辺詳しく教えてくれない?」


 突然時間を欲しいと声をかけられ何かと思ったら恋愛相談のようだ。幸いクラスには俺たち二人だけだから誰かに聞かれる危険はないにしろ、校内には少なからずまだ生徒がいるというのに。まさかその相談が恋バナとはな。


「つまり、佐原さんの身辺調査を依頼したい!」


「それなら透の方が詳しいんじゃないの?」


 佐原さんはうちのクラスでは大人しめな子だ。あまり目立つ方ではないが、清楚で時折見せる笑顔に胸をときめかせる男子が少なからずいるらしい。その一人が透という事なのだろう。


 どうしてそこまでの事を知っているのかというと、俺が透が佐原さんの事を好きな事は前から知っていたからだ。


 高校二年生になった今でも、昨年から同じクラスの佐原さんの事を透はよく視線を送っていたからな。それになにより、二人はすでに側から見てもだいぶ仲が良い。


「いやいや、俺よりも百瀬さんの方が仲良いって。女の子同士だし」


「そりゃあ、まぁ、そうだろうな」


 異性に話しにくいことだってあるだろうしな。


「春一はさ、百瀬さんと仲良いだろ?」


「まぁ、夏樹とは中学から一緒だからね」


 百瀬夏樹なつき。中一から同じクラスで高校も一緒。

 いわゆる腐れ縁という奴だ。席も近い時期があったから、今や女子の中では確かに仲が良い友達ではある。


 そんな夏樹とも今年も同じクラスなわけで、だからこそ透は俺に相談を持ちかけてきたのかもしれない。


「だからさ、佐原さんの好きなタイプとかそれとなく聞いてくれないか?」


 俺は夏樹とは仲が良いが、佐原さんとは友達の友達という感じでそこまでの関係は築けていない。むしろ、先程俺が言った通り、透の方が俺なんかよりも仲が良いはずだ。なぜなら。


「透はよく佐原さんとは二人で帰ってるじゃん。俺から見ても十分にもう仲が良いと思うんだけど」


 しかも、誘ってくる比率でいえば佐原さんからの方が多いと客観的に見てそう思う。


「いや、それと好きなタイプは別の話だろ?」


 おいマジか、どう考えても同じだろう。ここまで透が鈍感な奴だとは思わなかった。


 そもそもなんとも思わない男子を女子から一緒に帰ろうなんていうはずがない。その辺を透はよくわかっていないみたいだ。


 佐原さんから直接聞いた訳ではないから断定はできないけど、それなりの好意を彼女も持っているはず。


 おそらく、二人はいわゆる両片想いというやつだ。

 なのに、どうしてこうも互いに気付かないのだろう。


 そのせいで、俺と仲の良い夏樹との繋がりに期待したんだろうな。


「だからさ、佐原さんが俺の事どう思ってるか百瀬さんにそれとなく聞いてくれねーかな?」


「いや、自分で聞きなよ」


「だってそんなの、俺が佐原さんの事好きだって言ってるようなもんじゃん」


 それ俺が聞いても同じなのでは?


 はぁ、仕方ない。ヒントくらいは与えてやるか。


「でも確か、佐原さん好きな人はいるって噂だけど?」


「は?」


 俺が勝手に相手の想いを伝えるのは間違っている。それなら、こう伝える事でいくら鈍い透でも気付くことはできるだろう。


「誰だよそれ!」


 えーと、これはダメだ。完全に火に油を注いでしまったみたいだ。


「と、透。落ち着いて」


 なんでそんな考えになるんだ。相当重症だなこの鈍感さは。


「放課後にいつも佐原さんと帰るのは透なんだからチャンスはあると思うよ」


 簡単に事を納めるはずが、ついフォローするような事を口にしてしまう。

 でも、自暴自棄にでもなってしまっては大変なので少なくともそういった事に走らないようにする義務が発端である俺にはあるのだ。


「だ、だよな。それに噂ってだけなんだろ?」


「そ、そうだよ。大丈夫だって」


 いや気付けよ。その好きな相手が自分だという可能性もあるかもしれないとどうして考えられないんだ。


「なぁ、春一は好きな人とかいないのか?」


「えっ」


「俺の相談に乗ってもらったんだ。俺だってお前の力になりたい」


 こんなにも好きな相手に一直線な透の後だ。

 俺もそれなりにきちんと答えてやらないとな。


「名前は教えられないけど。……いるよ、好きな人は」


「やっぱり……じゃなかった!」


「え?」


 気のせいか? 今やっぱりって言わなかった?


「だ、誰だよそれ!」


「言ったでしょ。名前は教えられないって」


 俺ももう高校二年生だ。とっくに好きな人だって出来ている。当然まだ付き合えてはいないけど、いつかは俺も透のように前向きに想いを伝えられたらと思っている意中の相手が一人いる。


「そ、そうか……」


 何だ。俺の答えを聞いてから透の様子がおかしい。


「あ、一応言っておくけど佐原さんじゃないから安心しろよ」


「っ! だよな! 良かったー。お前が相手だったらどうしようかと思ったぜ! あははっ!」


 やっぱり様子が少しおかしいような……。本当にその心配をしていたのかよ。


「んじゃ、日も暮れてきたし帰るわ」


「ん、相談にそこまで乗れなかったのにごめん」


「いいや、色々話せてスッキリしたよありがとな!」


 それを最後に透は俺よりも先に教室を出ていく。今日あった事を誰かに話すつもりはないけど、それとなく夏樹には二人のことについて話してみるか。

 俺もすぐに帰りの支度を済ませて教室を後にした。

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