ピアス
@d-van69
ピアス
私たち夫婦は共働きだ。夫はIT系の企業に勤めているので週末が休み。私は百貨店で販売員をしているから主に平日が休み。そういうことでお互い自分が休みの日には家事を担当するよう決めていた。二人とも仕事の日は、早く帰ったほうがすることになっている。
その日は夫が家事当番だった。私が仕事を終えて帰宅すると、すでに夕食の準備が整えられていた。テーブルに着くと、彼ははいこれと言って私の前に何かを置いた。
「掃除してたら、ソファーの隙間から出てきたよ。それ、ヨウコのだろ」
ハートの形をしたピアスだった。片方だけ。でも、私のじゃない。そこでピンときた。
「知らないわよ、そんなピアス」
「え?」と夫が眉根を寄せる。
しばらくその表情を眺めてから、
「ねえ。それって、あなたの浮気相手が落としたピアスじゃない?」
「はぁ?」
「私が仕事してる間、女連れ込んでるんでしょ」
「な、なんでそうなるんだよ。バカなこと言うな」
「じゃあそのピアスはなに?もしかして自分の存在を私に気づかせるために、その女がわざと置いたのかもよ」
「おいおい怖いこと言うなよ……って、違う違う。俺はそんなもの知らないんだって」
「本当に知らないの?」
「本当にホント。マジで知らない。俺は潔白だよ」
「ふーん」
夫はどぎまぎした顔で私を見返している。その様子がおかしくて思わず笑ってしまった。
「なんだよ、急に」
「ごめんごめん。これ、たぶんアヤのピアスだわ」
「アヤって、確か大学時代の友達って言ってた?」
「そう。きっとこの前遊びに来たときにでも落としたのね」
「なんだよ。もしかしてお前、カマかけたのか?」
ぺろりと舌を出して見せてから、
「ごめんね。あなたが浮気してないかどうか、確かめるチャンスだと思って」
「勘弁してくれよ。マジでビビッた……あ、言っとくけど、浮気は本当にしてないからな」
「わかってるって。ちょっとしたいたずらよ」
私はそっとピアスをポケットにしまった。
「これ、あなたのでしょ」
アヤの手のひらにハートのピアスを置いた。彼女はそれをしげしげと眺めてから、
「そう。これ私のよ。どこにあったの?」
「リビングのソファーの隙間。ダンナが見つけたの」
「ありがとう。探してたのよ」
「またまたご冗談を」
私の言葉にアヤは不意を付かれたように固まった。
「あんた、そのピアスわざと置いたでしょ。アヤはうっかり落し物をしたり忘れ物をしたりするタイプじゃないもの」
彼女はばつが悪そうにうつむいていたが、やがて諦観の眼差しを私に向けた。
「ごめん。ばれちゃったか」
「どうしてそんなことしたのよ」
「だって、淋しかったんだもん。このピアスがきっかけで、ヨウコちゃんたち夫婦に溝が入れば、もっと私と一緒にいる時間が増えるかと思って」
しょんぼりとうなだれたアヤの顎に手を沿え、こちらを向かせると、
「バカね。あいつにはもうこれっぽっちも気持ちはないんだから」
そのやわらかい唇にキスをした。
夫は、今もアヤのことを大学時代の友人だと思い込んでいる。
ピアス @d-van69
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