71 お祭り当日(ナサニエル視点)

 三日目の式典は私を讃える盛大なお祭りとなった。お祭りの会場となった広場は王都の中心に位置し、教会や城、行政建物に近い。 日常的には市場が開かれ、人々が物品を交換・販売する場所だった。


 この日は王都ばかりでなく国じゅうの町や村で、私を讃えるお祭りが開かれる。どの村の広場にも、神獣グリオンドールと私を形どった像が置かれ、それは木材、布、紙などを利用して民たちが作ったものだった。


「なんということだ! 各地に建てられた像を見て回ったが、間違っているものが多すぎる。正しい像は王都の広場に建てられたものだけだ。他は小さすぎるし、色も違うし、竜やペガサスになっているものまであったぞ! 我はもっと堂々とした存在だ。けしからん」


 朝からぷりぷりと怒っているグリオンドールだが、目は嬉しそうに輝いていた。


「形がいろいろなのは仕方がないよ。実際にグリオの姿を見たことがない者たちにとっては、想像で作るしかなかったろうからね。そのうち、宮廷絵師たちがグリオの姿を広めるだろうから、1年もすれば正しい姿に修正されるさ。間違った姿を思い描いた人々もグリオが大好きなんだよ。君はこの国を護ってくれたからね」


 そう言ってやると、ポワンと猫の姿に・・・・・・なると思いきや、今度は白いまん丸な小鳥に変身して、私の肩に止まった。


「グリオ。なぜ、いろいろな動物に変身するようになったんだい?」

 


「グラフトン侯爵家の図書室にたくさんの本があってな。そのなかに、さまざまな動物を描いた本があった。デリアはこの鳥を可愛いと言った。デリアが可愛いと言った動物に、我は毎日変身することにしておる」


「なるほどね。グリオはグリオらしく、その姿のままサイズを小さくすれば良いと思うよ。そのままで充分可愛い」


「・・・・・・ホントか? まだこの世には存在していないが、我はお前たちの子供にも変身できるが」


「あぁ、あの姿は本当に可愛いと思うよ。でも、どんな姿だって私とデリア嬢はグリオが可愛いと思うさ。賢いし、美しいし、頼りになる」


「・・・・・・我は見回りに行ってくる」

 照れながら窓から飛び立ち、宙でグリオンドールの姿に戻った。グリオは毎日空から魔獣たちの動向を確認していた。魔の森は魔獣を生み出す森だから、魔獣が完全にいなくなることはない。そのため、常に警戒している必要があったのだ。


「グリオーー。お昼には帰ってくるのよ。今日はグリオの好きなシチューだからねぇーー」

 庭園に出ていたデリア嬢がグリオに向かって叫んでいた。すっかりグリオはグラフトン侯爵家になじんでいて、デリアにとても可愛がられていた。


「わかったぁーー」


 最近、グリオがデリア嬢の前で子供化している気がする。やはり、デリア嬢は神獣でさえも懐いてしまう人徳があるのだ。


 この私も、デリア嬢が何気なく見せる優しさや思いやりに、どれだけ心が温まり慰められたことか。 彼女の一言一言が、どんなに平凡な日も特別なものに変えてくれる。愛おしい女性に相応しくなるために、私はこれからも精進しようと思うのだった。

 

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