49 ナサニエル様を甘やかしたい

「お母様! 見てくださいな。どれも素晴らしいわ。キャサリンはちょっとアレなところはあるけれど、素晴らしい才能があるのね!」


「えっ? アレって、どういう意味でしょうか? セシルお姉様、デリア様が私をアレっておっしゃいましたわ。アレって?」


「キャサリンはうっかりさんと言いたかったのよ。あなたは口を開いて言葉を発する前に10数えなさい。気持ちに正直すぎるのよ」


 セシルの言う通りよ。言葉を発する前に数をかぞえる、これは大事なことかもね。


「デリア様。そのスケッチブックを私にも見せていただけませんか? うわっ。これは素晴らしいな。キャサリン様は服飾デザイナーの才能があるんですね。このドレスを見ると、これに合った宝石のインスピレーションが湧いてきます。私と一緒に働きませんか?」


 ヴァーノン様がキャサリンに、まさかのお仕事スカウトをするなんてびっくりよ。さて、キャサリンはどう答えるのかとハラハラするわ。きっと、安易にはしゃいでヴァーノン様について行ってしまうわね。


「それはできませんわ。このドレスはデリア様だけのために考えました。グラフトン侯爵夫人も私に良くしてくださるし、ここにはお姉様もいます。ですから、私はグラフトン侯爵家の侍女でいます」


 これには私たちも意外な気持ちで嬉しい驚きだった。これは絶対褒めてあげても良いと思う。セシルはキャサリンの模範解答に満足して、抱きしめながら頭を撫でていた。まるで母親ね。私にもお姉様がいたらこんな感じだったのかしら?


「良いお返事でしたよ。きっちり根本的なことはわかっているようです」


 お母様から合格点をもらったキャサリンはにこにこと微笑んだ。スカウトを断られた形のヴァーノン様は笑っていたけれど、キャサリンに興味を覚えたようで頻繁にグラフトン侯爵家を訪ねてくるようになった。


 同じ時期にナサニエル様が魔法騎士団で仲が良いというゴロヨ小隊長を招き、グラフトン侯爵家のディナーはたちまち賑やかになっていく。


「我が家に娘と息子がいっきに増えたようで嬉しいな。食事は大勢で賑やかに食べた方が楽しい」


 お父様は朗らかに笑い、ナサニエル様にもっと頻繁に、魔法騎士団の同僚を連れてくるようにおっしゃった。私もお母様も大賛成だわ。人が集まる家には幸せもたくさん積もって、愛もいっぱい溢れるわ。


 私はナサニエル様をいっぱいの愛でくるんで、思いっきり甘やかしたいのよ!


 


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