40 恨みごと(嫌味?)を言ってきたキャサリン

 ナタリーのすぐ上の姉はキャサリンという名前だった。私が近づくとビクッと肩を震わせた。長女のほうはセシルといい、こちらは穏やかに微笑みながらカーテシーをする。


「ようこそ、グラフトン侯爵家にいらっしゃいました。グラフトン侯爵家のデリアですわ。お二人とおはなしするのは初めてですわね」


「なぜ、私たちを招待してくださったのですか? 従兄のお情けで領地の小さな別荘で暮らす私たちに、幸せを見せつけるためですか?」


 キャサリンは可愛いらしい顔立ちで、ほんの少し小首をかしげながら、緊張と不安が交錯する表情のなかで敵対心をにじませた。

 その声は密やかで、私にだけ聞こえるように言っているつもりでも、きっと私の両親には聞こえている。


「そんなつもりはありませんわ。キャサリン様やセシル様には、いろいろお辛いことがあったはずですので、お力になりたいと思いました」


「ずいぶんとお優しいことです。ますます社交界での評価があがりますね。私たちを好感度をあげるための材料になさるおつもりなのですね。さすがは、グラフトン侯爵令嬢ですわ。どんなことも自分のステップアップの踏み台にできる」


 キャサリンの私に対する憎悪がすごい。とても辛いことがあったんだわね。そう思うと、私だけがナサニエル様との恋で浮かれていたことが恥ずかしい。


「キャサリン、そのようなお門違いの恨み言を言ってはいけません。恨むのならナタリーを恨みなさい。でも、きっとあの子も今頃は苦労してぼろぼろになっているかもしれません。誰のせいにしても空しいだけですよ。デリア・グラフトン侯爵令嬢、初めてお目にかかります。私はセシルと申します。お目にかかれて光栄です」


 キャサリンの隣に立つセシルは、落ち着いた大人の女性の風格を漂わせていた。彼女の髪は艶やかで瞳には経験豊かな知恵と思慮深さが宿っている。挨拶もほぼ完ぺきだと思う。セシルはすがすがしいほど、あの事件を過去のものとして捉えているみたい。


「本日はこうして出席してくださって嬉しいわ。少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです」


 やがて、私のお父様もキャサリンやセシルに声をかけ、お母様は「新たな嫁ぎ先が決まるまで、デリア付きの侍女となりなさい」とおっしゃった。


 その直後から、わらわらと二人に向かって話しかける貴族たちがあらわれた。グラフトン侯爵家の一人娘の専属侍女になるということは、二つの国の王族と会う機会もある。お気に入りの侍女になると、嫁いだ後も交流は途切れず、多大な支援をうけることも稀ではない。


(つまり、キャサリンとセシルの結婚市場における価値は爆上がりしたわけよね)


 常に彼らは大貴族の動向を見て、自分たちの利益になるような行動をとる。その結果、キャサリンは多くの男性からダンスを申し込まれて、頬を染めながらそれに応じていた。


(うん。なかなか出だしは好調ね。あのなかで、キャサリンを幸せにしてくれる男性がいれば良いけど……あらっ、そんな、まさか……)


 その中には彼女の元婚約者のアンドレ卿もいた。アンドレ卿はキャサリンに婚約破棄を告げてすぐに、別な令嬢と婚約したはずなのだった。






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 ※アントワーヌをキャサリンに変えました。アントワーヌは男性の名前だったらしい。直っていないところがあったら教えていただけると助かります。


 ※インスタにこの小説の宣伝動画があります。bluesky77_77です。こちらではいろいろなタイプの主人公たちをAIイラストでイメージしています。金髪碧眼はナサニエルで黒髪茶目(黒目のはずだったんですがイラストでは茶目になっています)はブレインです。赤毛赤目はデリアです。ナサニエルの少年時代もイメージしました。AIイラストに抵抗のない方はご覧ください。

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