26 解放だと? (スローカム伯爵視点)

  国王の宮殿は王都の中心にそびえる巨大な建造物で、その中に貴族を裁く裁判所が設けられている。宮殿は広大な敷地を有し、重厚な城壁に囲まれていた。城壁には王家の紋章が刻まれ、堂々たるエントランスが宮殿への入り口を飾っている。


 裁判所の位置は宮殿の中心に近く、重要な場所として王家の権威を象徴していた。法廷は壮麗な大空間で、高い天井には彫刻や絵画が施され、王の紋章が誇らしげに掲げられている。王の玉座は法廷の最前列に据えられ、玉座の前方には主席判事や法学者たちが座っていた。


 法廷の後方には、観衆が座るための席が整然と配置されており、法廷の裁きに興味津々な市民や貴族たちが集まった。王の玉座からは法廷全体を見渡せるようになっている。


 いよいよこの日がきてしまった。緊張で足の震えがとまらない。


「スローカム伯爵よ、貴殿の行為に関わる告発がなされている。今日はそれを審理し、正義の判決を下す日である」


「陛下、私は真実を申し上げます。成績簿の件はナサニエルの独断でして、あいつが勝手にしたことですので、スローカム伯爵家は関係ないです。クラークの件も同様に全てはナサニエルの引き起こしたことですから、被告席に立つのはナサニエルです!」


 私の隣にいたマクソンスが余計なことを言い出した。ナサニエルがグラフトン侯爵のお気に入りだとわかった時点で、ナサニエルに責任を全て押しつけることは得策ではないと話し合ったというのに。


「マクソンス、黙りなさい。国王陛下、私が真実を申し上げます。えぇっと、あれはクラーク本人が勝手に偽造しました。全てはクラークのしでかしたことです。しかも、当家は既にクラークとは絶縁しておりますので、慰謝料や学費等も払う必要はありません。どうか公平な裁きをお願いします」


「異議あり! クラーク君本人が勝手に偽造したとしても、それを持参したのはスローカム伯爵だ。その成績簿を確認もせずに私に渡したのかね? だとしたら、スローカム伯爵は今すぐ改名した方が良い。オロカナ伯爵とかマヌーケ伯爵に。いや、ウソーツキ伯爵がお似合いか?」


「なっ、なんてことを言うんだ! いくら何でも失礼ですぞ。いくら、グラフトン侯爵閣下の身分が上だからといって、下の爵位の者になんでも言って良いわけがない」


 くっそ。腹が立つ。くらえ、水魔法だっぁあーー


 手のひらから湧き上がる水しぶきは、優雅な舞いを見せながら宙を舞った。グラフトン侯爵めがけて直撃だ。


「愚かなことをしないでください。スローカム伯爵の魔法など、グラフトン侯爵閣下に通用するはずないでしょう」


 証人席に座っていたナサニエルが私の放った水魔法を瞬時に氷に変え、ナサニエルの横にいたデリア嬢がその氷を火魔法で蒸発させた。こうして、跡形もなく私の魔法は消え去った。


「国王陛下。この者は神聖なる法廷で原告に対して危害を加えようとしました。この行いは法廷に対する冒涜、王家に対する挑戦です」


 グラフトン侯爵が勢いを増して、私を追い詰める。


 おいおい、大袈裟になってきたぞ。

 つい、興奮してしまっただけなのに。

 どうしたらいい?


「国王陛下、ひとつ提案がありますわ。スローカム伯爵は乱心されたのかもしれません。だから正常な判断がくだせなくて、今のような常識外れなことをするのです。もはや、まっとうな仕事を貴族としてできるとは思えません。そこのマクソンス卿も虚言癖があるようですし、貴族の重い責務からしてあげたらいかがでしょうか」


 デリア嬢がすらすらと国王陛下に進言した。


「は? どういう意味だ?」


 貴族からだと? それって、貴族籍剥奪だろう? 単純にきついお仕置きじゃないかぁああーー!


 




 →27話に続く(夜にまた更新します)



 

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