27 スローカム伯爵家から解放されたい(ナサニエル視点)

「この不届き者を拘束せよ。ナサニエル、魔法が使えないようにスローカム伯爵に魔道具をはめて良いぞ」


「御意。封魔の拘縛。首に掛けし飾りよ。愚か者の力を閉ざし、水魔法を封じよ」


 私の詠唱とともにスローカム伯爵の首に、魔法封じの首輪がかけられた。もう彼を父上と呼ぶことはやめていた。とても恐れ多いことだけれど、父という言葉で思い浮かぶのはグラフトン侯爵閣下になっていたから。


 魔法封じの首輪をはめられたスローカム伯爵は、私を鋭く睨みつけたが急に猫なで声を出す。


「ナサニエル。私たちの間にはちょっとした誤解があったようだ。お前はスローカム伯爵家の誉れだ。魔法省のエリートだし、なにより人並み外れて美しい。そのように、光り輝くような美貌と才能に恵まれるように、生んでやったことに感謝するべきだろう?」


 私はなんと返して良いか言葉に詰まってしまう。生んでもらった恩義はあるとは思う。だが、それはどこまで感謝するべきなのだろうか。


(自分の幸せや夢を犠牲にしてまでも親に報いるべきなのか?)


「生むだけなら猫や犬でもできますわ。それから、生んだ子供を養育するのは親の義務ですので、育ててやったなどと恩着せがましく言うのもやめてくださいね!」


 デリア嬢が当然の如く言った言葉に、私も目が覚めた。もう、私はこの男から解放されなければならない。ずっと我慢してきたのだから。


「スローカム伯爵がグラフトン侯爵に提出した成績簿は、間違いなく私の成績簿を偽造したものです。当時の家庭教師も同じく証言してくれます。加えて、クラークの学費と慰謝料をグラフトン侯爵家に払わないと勘当と言われた言葉を、喜んで受け入れたいと思います。『親子縁断の提訴』を追加的併合とします」


「馬鹿者がっ! スローカム伯爵家から縁を切れば、お前は平民に成り下がるのだぞ」


「いっそ、その方が清々しく生きられます。私は爵位に拘って生きていませんから。仕事もあるし、今では気持ちを暖めてくれる居場所も見つけました。ですから、問題ありません」


「ふん、愚かな奴め。平民になったらグラフトン侯爵閣下だとて、今ほど親しくしてくれるわけがないんだ。侯爵閣下と平民が一緒に昼飯なんか食えるか? もう、親子ごっこはできなくなるんだぞ! 権力者にすり寄って、乞食みたいなまねをするんじゃない! 浅ましい」


(平民になったら、省内で声をかけにくくなるのは間違いない。グラフトン侯爵家にお邪魔する機会も減っていくのかもしれない。だが、今までの思い出があれば充分だ。ひとりに戻っても、思い出して微笑むことができる。家庭の温かさを知らなかった私にはそれだけでもありがたい)


「国王陛下。平民になっても構いません。私をスローカム伯爵家から解放してください!」 


「スローカム伯爵は法廷内での魔法使用により、法廷侮辱罪や不敬罪に問われ、当主の座から降りることとなる。国外追放も検討されるだろう。しかし、『親子縁断の提訴』については、証拠が不足しているために容認は難しいぞ。幼い頃からの虐待に関する具体的な証拠があれば、速やかに審理を行い公正な判断を下せるがな」


「国王陛下。虐待の証拠ならあります。恐れながら、上半身だけ服をぬいでもよろしいでしょうか?」


「「きゃぁーー」」


 観衆側の席に座っていた貴族の令嬢たちが一斉に黄色い声をあげた。デリア嬢が涙目になって、私の服の袖を引っ張る。


(なぜ、泣くんだ? 背中を見せるだけなのだが・・・・・)


「ダメです。他の女性なんかに見せちゃいけないのよ。だって、世界の至宝級のお顔と身体なのに・・・・・・」


 なにやら不思議なことをつぶやいた。


(幼い頃から鞭で打たれた傷跡を見せたいだけなのだが・・・・・・世界の至宝って・・・・・・?)




 

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 ※世界の至宝級の肉体美♪ 次回に続きます!


 ※心の中の声がわかりづらいとのご指摘があったので、このお話から()で囲みました。


 


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