第15話 ゲオルクの野望
※今回はゲオルク視点です。
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ここは王城にある執務室の一つ。
「やつは、異世界人のゲンゴーはどうなっている?」
ベルクヴァイン国貴族の一人であり、宰相でもあるゲオルクの鋭い視線に、配下の一人は震え上がり目を伏せた。
「そ、それが……、ゲンゴーの従魔がいつも目を光らせており、近づくことができません……。ベヒーモスの暴威にさらされれば、一瞬であの世行きですから……」
「たった一匹のモンスター如きに怯えるとは情けない。それでもお前たちは優秀な魔族か? その程度の覚悟で、魔王様の野望を叶えられると思っているのか?」
ゲオルクは呆れて首を振る。しばらく前からゲンゴーの説得を指示していたが、このざまなのだ。
ゲオルクの表の顔は、宰相であり人間の貴族だ。しかし裏の顔は、ベルクヴァイン国が敵対する魔王軍の幹部であり、魔族だった。
ゲオルクとその配下は、魔王の計略の一環で、ベルクヴァイン国を内部から崩す役割を担っていたのだ。
それほど大事な計画にもかかわらず、たった一匹のモンスターに足止めを食らうとは情けない。
「一人で行くのが無理ならもっと大人数で行け。ゲンゴーの力はどうしても欲しい。やつを説得し、必ず城に連れ戻すのだ!」
「……はっ」
配下は青ざめた顔で返事をする。
「それで、前に冒険者ギルドへ依頼を出した《憎魔の球晶》は手に入ったのか? あれがあれば、我らの計画も加速するはずだが」
「……はっ、こちらです」
配下が机においた水晶にはヒビが入っていた。
「手には入ったのですが、このような状態に……」
「……な、なんだと!?」
そんな馬鹿な……。
ゲオルクは頭を抱える。
《憎魔の球晶》は昔、この国の宮廷魔術師が作り出した呪いのアイテムだ。
簡単に言えば瘴気を発生させる装置で、生物の恨みや嫉妬を増幅する効果がある。魔族にとっては素晴らしいアイテムで、開発した人間は魔族の中でも尊敬されていたほどだ。
しかし、当時の間抜けな国王は邪悪な研究だと激怒し、宮廷魔術師を処刑してしまった。
彼らは《憎魔の球晶》を破壊しようとしたが、どんなに衝撃を加えても破壊できなかったため、諦めて宮廷魔術師と一緒に埋葬したのだった。
「一体、どうやって破壊したというのだ……?」
「分かりません。しかし、依頼を達成した冒険者はゲンゴーだったらしいのです……」
「ま、まさか、やつが……!? それともベヒーモスか!?」
ゲンゴーはともかく、ベヒーモスならありえないことではない。
「なんということを……」
《憎魔の球晶》を使って、王族の恨みや嫉妬を操り、自分の支配下に置く。それがゲオルクの計画の一つだったのだ。
やつめ、邪魔ばかりしおって……。
最近聖女ともてはやされているフリーデリーケに力を授けたのもゲンゴーだというではないか。
聖女の回復魔法によって、長い時間をかけて削いできた兵や冒険者の力が少しずつ戻ってきている。
それに、聖女という存在は魔王軍にとって邪魔でしかない。人間にとって信仰は大きな力になるからだ。
……もうこれは使い物にならんな。《憎魔の球晶》なしで事を進めるしかない。
しかし、ゲオルクのスキルならば、時間はかかるがそれは可能であった。
すでに第三王女のクリスティーネには、彼のスキルをかけることに成功している。第三王女を使えば、いずれ聖女フリーデリーケを亡き者にできるだろう。
彼は気を取り直して話題を変える。
「勇者たちの方はどうなっている?」
「はっ。強化は順調に進んでおります」
「よし。後はこの私のスキル《思考操作》で奴らを欺き、魔王様の元へ連れていけば、勇者魔族化計画は成功するというわけだな。ククク!」
勇者魔族化計画とはゲオルク自身が発案したものだった。その中身はこうだ。
まずは王の思考を誘導し、勇者召喚をさせる。次に、城の騎士や宮廷魔術師を使って勇者を育成する(人間を育てるには、人間が最も適しているのだ)。最後に魔王の下に連れて行き、魔王のユニークスキル《魔族創造》で、勇者を魔族に作り変えるのだ。
魔王軍は現状人間相手に苦戦しており、戦力アップが不可欠だった。勇者を仲間にしてしまえば、当然大幅に戦力が上がり、世界征服も夢ではなくなるのだ。
その昔、ゲオルクは普通の人間の貴族だった。しかし二十年前、この計画を手土産に魔王に下り、魔王のスキルで魔族になった。
その理由はただ一つ。ゲオルクは王になりたかったのだ。
自分は一生宰相でいるような小さい器の人間ではない。もっと上の身分が相応しいのだ。しかし、王とは世襲制であり自分がなれるわけがない。
そこで魔王に魂を売り、自分の野望を叶えることにしたのだ。
──ここに来るまで、非常に長かった。もう少しでこの国の王になれる。後はゲンゴーを手に入れることができれれば……。
ゲンゴーという異世界人は、どういうわけか自分や他人にスキルを習得させることができるらしい。《プログラミング》とかいうスキルの能力だろう。
あまりに規格外の能力だ。世界のバランスを容易く変えてしまうほどに思える。
以前、ゲンゴーは『ぱそこん』なるものがなければスキルは使えないなどと言っていた。しかし、使えるということは嘘をついていたわけだ。
この私に嘘をつくなど、許しがたい男だ。しかし、やつのスキルで様々な能力を習得できれば、自分はどれほどの存在になれるのだろう。
……いつか、自分が魔王になることも夢ではないかも知れない。
ゲオルクの欲望に反応し、彼の目が魔族特有の色──白目が赤、瞳が濁った黒──に変わる。
どうしても、やつが欲しい……。
先程は説得などと言ったが生ぬるい。捕まえてしまえば、自分のスキルでどうとでもなるはずだ。
「手段は問わない。やつを、ゲンゴーを必ずここに連れてくるのだ!」
『はっ!』
配下は了承すると、すぐさま部屋を出ていった。
「……楽しみだ。早く来い、ゲンゴー』
ゲオルクの瞳が妖しく光る。
「……クックックッ。ハッハッハッ! クァーハッハッハッ!!」
部屋には、自分が王になる姿を想像して興奮した、ゲオルクの哄笑が響いた。
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次回から主人公の視点に戻ります。
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