第12話 ペットにスキルをインストールしてみた
まさか問答無用で宿を追い出されるとは……。
元の世界ではペット不可のホテルは多かったと思うけど、異世界もおんなじとは世知辛い。
「別の宿を探すか……」
「ニャウ!」
元気だな、シロは。少し前まで酷い目に会っていたのに、ちょっと感心する。
モンスター可の宿ってどこにあるんだろう。また戻るのはなんか恥ずかしいが、ギルドで聞いてみるか。
冒険者ギルドに戻り、受付嬢に事情を話す。すると彼女は頬を膨らませて怒りだした。
「なんですって!? こんなに可愛い子を追い出すなんて、そんな宿は潰れてしまえばいいんですよ! ねぇ、シロちゃん?」
「ニャウ……」
黒髪ロングで美しい切れ長の目。てっきり冷静沈着なタイプの女性かと思ってたけど、意外と激情型なんだな……。それとも猫好きなだけ?
シロなんてちょっと引いてるぞ。
……ちなみに、宿を追い出されたのはシロじゃなくて俺ね?
「でも、モンスター不可の宿って多いんです。一応モンスター可の宿もあるのですが、シルバーランクのゲンゴーさんには、まだ高いかも知れません……」
「いくらなんだ?」
「一泊、金貨一枚です」
高ぇ! さっきの宿は一ヶ月で銀貨三枚だったのに……。
そういえば、王様からもらったお金があったな。金貨百枚以上は入ってたし、しばらくはなんとかなるか。
でも、俺がたくさんお金を持っていたら明らかにおかしいよなぁ。
「て、手持ちのお金が少ないから厳しいなー。でも、頑張って稼ごっかなー! だから、その宿の場所を教えてくれるか……?」
「えぇ!? シロちゃんのために……? ……分かりました。なら、私も応援します……! 一刻も早く稼げるように、まずはゴールドランクに上がり、さらにその上のミスリルランクを目指しましょう!」
「え?」
「ミスリルランクに上がれる冒険者は一握りですが、ゲンゴーさんなら大丈夫ですよ!」
「あ、ああ、そうかな……?」
なんか、面倒なことになってないか?
俺ってプログラミングがしたいだけのおっさんだから、そんなに高い志はないんだけど……。
「できるだけ難しい依頼を探しておきますねっ!」
そう言って、ぐっと拳を握る受付嬢。
「た、頼んだ……」
仕方なくそう返事をし、宿の場所を聞いてギルドを出た。
「難しい依頼って、何をやらされるんだ、一体……?」
「ニャウゥ……」
そんなことを口にしていたらいつの間にか宿に着いた。
「でかいな」
宿というか高級ホテルのような建物だ。城に近い地区にあるだけあって、豪華な作りをしている。
「いらっしゃいませ」
中に入ると、小綺麗な格好をした受付の男が声をかけてきた。
早速部屋を借りる手続きをする。受付嬢の言っていた通り、モンスター込みで一泊金貨一枚だった。朝夕の食事をつけるとプラス銀貨五枚らしい。
めちゃめちゃ高いが、できるだけ引きこもりたいから、当然つけるよね。
とりあえず一ヶ月分払っておいた。金貨四十五枚だ。
案内された部屋はなかなか広い。机はちゃんとあるしベッドもふかふか。床には絨毯が敷かれていて、他の調度品も趣味がいい。
疲れるまで机でプログラミングして、腹が減ったら飯が運ばれてくるから食べて、疲れたらふかふかのベッドで寝る。
あれ? 最高じゃないか?
そういえば、ダンジョンで覚えたスキルをチェックしたかったんだ。
机でパソコンを開き、解析したスキルを取り込む。
とりあえず《ブレス》のソースコードを見てみるか。
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スキル :ブレス
息技 :ファイヤブレス
プログラム :
口を開けて息を吸い、肺に酸素を取り込む
↓
魔臓から魔素を5ポイント取り出し、炎属性に変化させる
↓
肺の酸素に炎属性の魔素を加えて引火させ、炎を生成する
↓
正面に向けて炎を吐き出す
----------------------------------------
魔臓って何だろう? 魔素とやらもよく分からん。
まぁスキルなんてそんなもんか。
とりあえず『魔素を5ポイント』を『魔素を20ポイント』にして、《ファイヤブレス・改》を作っておくか。
これをインストールっと。……あれ?
〔インストールに失敗しました。失敗理由:魔臓が見つかりませんでした〕
えー、まじか……。いや、普通に考えたら人間に魔臓なんてないけど、転移したときにできたのかと思うじゃん?
使ってみたかったな、ブレス。なんか面白そうだし。
ベヒーモスは魔臓を持ってたってことだから、シロも持ってるのか?
「シロ、試しに《ブレス》をインストールしてみていいか?」
「ニャウ!」
多分OKという返事だろう。インストールをポチッと押すと、対象の候補にシロがあった。
それを選択して実行する。
〔インストールの準備をしています……〕
〔インストールを開始しました〕
〔インストールが完了しました。現在のデータ容量:70 / 1024 GB〕
うまくいったらしい。《ブレス》のデータ容量は35GBだから、シロが元々持っている《身体操作》も35GBなんだろう。
それにしても、まだまだ空きがある。シロはずいぶんポテンシャルがあるな。
新スキルのテストは必須の作業だ。モンスター相手に試してみないとな。
ちらりとシロを見ると、自分の手をぺろぺろ舐めて毛繕いしている。
愛らしい猫型モンスターといえど、一人前の大人ならば、必要な生活費は自分で稼ぐのが常識だ。しっかり働いてもらうとしよう。この際シロが人でも大人でもないということは、気にするべきではない。
──ゆっくり体を休ませて、翌日。
「シロ、仕事の時間だ」
「ニャ!」
ふむ、良い返事だ。
俺たちは宿を出て、早速冒険者ギルドに向かった。
「ゲンゴーさん、お待ちしていましたよ」
掲示板を見ていると声をかけられた。受付嬢だ。
「待っていた?」
嫌な予感しかしない。
「うふふ、良い依頼が見つかったんですよ! 少し前に来たものなのですが、怖がって誰も受注しなかった依頼なんです。そのおかげで、この依頼を達成すれば評価が爆上がりです!」
「……へえ、なんでみんな怖がっているんだ?」
「アンデッドが出るからですよ。怖いじゃないですか、ゾンビとかレイスとか」
この世界の冒険者が怖がるぐらいなら、普通のおっさんはちびるどころじゃ済まないからな?
「ほ、他に良い依頼はないだろうか?」
「それがあいにく、一度でゴールドランクに上がれる依頼はこれしかないんです……」
一度で上がる必要はないと思う。
「この依頼でもいいかしら、シロちゃん……?」
「ニャ!? ニャウ!」
「え?」
なぜシロに聞いたんだこの人? 主人は俺だぞ……?
シロはといえば、鼻をふんふん鳴らしてやる気に満ち溢れている。
今回はシロのスキルのテストだし、シロがやる気あるならいいか……。別に初回のチャレンジで依頼を達成する必要はないから、ヤバそうだったら戻ってくればいいしな。
「分かった。受注しよう」
「はい、頑張って下さいね! では、依頼の詳細ですが──」
依頼の詳細は初めに説明して欲しい。仕事が終り次第、上司にクレームを入れておこう。
場所は《呪怨殿》という禍々しい名前のダンジョンで、朽ちた神殿型の建物らしい。
昔はベルクヴァイン国の共同墓場として使われていた場所だが、百年ほど経過したらダンジョン化してしまい、次々とアンデッドが現れるようになったという。
とはいえ近づかなければ何も問題はないのだが、今回の依頼は《呪怨殿》最奥の祭壇に祀られているアイテムを取ってきて欲しいというものだった。
依頼主は呪いのアイテムのコレクターらしい。ってことは、お目当てのアイテムもそっち系なのだろうか。
「あっ、ゲンゴーさん。《呪怨殿》には昔宮廷魔術師だった方なんかも安置されているらしいので、ちょっと強めのアンデッドが生まれているかも知れません。くれぐれもご注意を」
「えぇ……」
「ニャウ!」
なんかもう行きたくない……。
しかし、強い足取りでダンジョンに向かおうとするシロの姿を見て、ついに俺は観念し、その後を追うのだった。
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