第11話 猫と従魔契約してみた

「うっ……」


 ここは……?


 そういえば、限界を超えてダンジョンで倒れたんだった。


 周りを見回すと、エビルキャットとマッドパンサーの死体があちこちにある。俺は倒した覚えがないが、一体?


 そして俺の腹の上でうずくまり、前よりも傷だらけになっている白猫。


 まさかこいつ、俺をモンスターから守ってくれてたのか?


 ヒィ……ヒィ……と呼吸が弱い。死にそうじゃないか!


「酷い状態だ……。なら、《エクストラヒール》!」


 白猫の傷がみるみる治り、欠けた耳や切れた尻尾も元に戻っていく。


 おお、やっぱりすごいなこの魔法。魔力はすっからかんだが、一応使えたぞ。


「ニャ?」


 白猫は起き上がり、小さく首を傾げる。耳をぴょこぴょこ動かし、尻尾振って、その存在に気づいたようだ。


「ニャーウ!」


 俺の顔を見てそう鳴くと、鼻をぺろぺろ舐めてくる。どうやら喜んでいるらしい。


「良かったな! 俺のことも助けてくれたんだろ? ありがとう!」


 白猫の顎を撫でると、ゴロゴロ鳴く。普通の猫にしか見えない。こいつ、本当にモンスターか?


 まぁいい。命の恩猫に感謝だ。


 ……そういえば、俺はこいつの親を殺したんじゃなかろうか。


「お前、俺のことを恨んでいないのか?」

「ニャ?」


 首を傾げる白猫。


 よく分からないな……。でも、恨んでいる存在を助けるようなことはしない気がする。もしかすると、親じゃなかったのかも知れない。色違うしね。


 俺は非常食で用意していた干し肉を取り出すと、白猫と分け合った。白猫の食いっぷりはなかなかのもので気持ちがいい。


 他にも食えそうなものは全部出した。パンとかチーズとか。それもむさぼり食う白猫。


 ……なんでも食うなこいつ。雑食なのか?



 しばらく休んだし、そろそろ帰るか。


 この白猫、意外と強いみたいだし、放っておいても大丈夫だろう。そのうち、こいつが喜びそうな食料でも持ってくるとしよう。


「じゃあ俺はいくぞ。またな」


 白猫は首を傾げる。伝わるわけもないか。


 ダンジョンの来た道を戻る。すると、後ろからてくてくと足音が聞こえてくる。


 振り返ってみると、白猫だ。


「ニャウ」


 なんか付いてくるぞ? こういうモンスターもいるのかな。


 まあダンジョン生まれなんだろうから、さすがにダンジョンからは離れないだろ。


 洞窟を出て街に向かう。やっぱり後ろから白猫は付いてくる。


「お前、付いてくる気か?」

「ニャウ!」


 元気よく返事をし、ぴょんと飛び跳ねる。軽々と俺の肩の高さまで到達し、乗っかった。


 ピコンッ!


〔レアスキル《身体操作》の《肉体操作》。自らの肉体を100%操作し、潜在能力を引き出す〕


 ……な、なにぃい!? この猫、レアスキル持ちだと……!?


 道理で強いわけだ。やっぱりただの猫じゃない。そこそこ上位のモンスターなのか……?


 白猫は俺の鼻をぺろぺろ舐めてくる。鼻好きだな、こいつ……。


 寂しい一人暮らし(宿屋住まい)だし、ペットがいてもいいか。


 そんなことを考えつつ、白猫と一緒に街へ戻った。



 俺は真っ先に冒険者ギルドへ向かった。


「ゲンゴーさん! 戻りが遅いから心配しましたよ? 何していたんです?」


 受付嬢が不思議そうな顔をする。


「遅い、とは?」

「え? だって依頼を受注してからもう3日も経ってるじゃないですか」


 3日……? つまり、俺はそんなに気を失っていたのか……?


「そ、そうか。依頼がなかなか大変でね……。でもこうして討伐証明を持ってきた」


 カウンターの上に、ドンと討伐証明の入った袋を置く。


「わっ、すごい数ですね? これならシルバーランクに昇格間違いなしでしょうけど、念の為確認させてもらいますので、ちょっとお待ちください」


 そう言うと、受付嬢は別の職員に袋を手渡した。


「ところで、ゲンゴーさんの肩の上にいるのは……モンスターですよね?」

「ああ、どうも懐かれてしまってね。仕方ないから飼おうかと思っているんだ」

「なんと! テイマーの才能がおありだとは驚きました。ちなみに、従魔契約はこれからですか?」

「……なんだ、それは?」


 受付嬢は少し驚いた顔をするが、プロらしく説明をしてくれた。


「簡単にいえば、主人とモンスターの間でお互いに協力を約束する契約を結ぶことです。これにより、モンスターが街で暴れるといったリスクを抑制できるので、街で暮らす場合には必須事項になります」

「なるほど」

「ギルドには《契約》スキル持ちがいるので、お金はかかりますが、いつでも従魔契約ができますよ。どうしますか?」


 俺は問題ないが、白猫の方はどうだろう。そう思って白猫の顔を見ると、「ニャウ!」と元気よく鳴いた。俺はOKと受け取る。


「じゃあ、従魔契約を頼む」

「かしこまりました」


 《契約》スキルを持った職員が現れる。


「モンスターの名前はなんですか?」

「名前? いや、決めていないが……」

「契約には名前が必要です。決めていただけますか?」

「……分かった」


 名前ねぇ。タマとかポチとか? 白いからシロなんてのもあるが、だいぶベタだな。……あ、そうだ。


「なあ、ぴょん吉はどうだ? お前、すごい飛ぶだろ?」


 ちょっと気の効いた名前を白猫に提案してみた。すると白猫はガルルルッ! と唸っている。どうやらダメらしい。


 その後、ぴょん太郎やぴょん之介など、洒落た名前を色々と提案したがどれも嫌がる。意外と面倒なやつだな。


 最終的にシロという名前を出したらニャウニャウ! なんて言って嬉しそうに返事をした。


 シロに決まりか。ベタだなぁ。


 後は職員が用意した書面に、俺とシロが手を触れるだけで契約が成立した。


「契約おめでとうございます。シロちゃん、とっても可愛らしいですね! 一体なんのモンスターですか?」

「実は知らないんだ。ダンジョンで出会ったんだけどね」

「ダンジョンですか。……シロちゃんって、ベヒーモスに似ているような気がしますね。私も実物を見たことがないので、自信はないのですが。ただ、ベヒーモスはそもそも黒い毛皮で覆われているはずですし、ミスリルランク以上でないと太刀打ちできないほど強いので、あそこにいるはずはないんですけど」


 黒い? ……まさか、俺が倒したあいつ、ベヒーモスだったのか? 妙に強いとは思っていたけど……。


 倒したなんて言ったら大事になるだろうし、そもそも信じてもらえないだろうから言うのはやめておこう。


 あの黒いのがベヒーモスだとすれば、シロもその可能性はあるな。実物と比べた感じかなり似ていた。それに、まだ子どもの割にかなり強いから、有り得ない話ではない。普通ベヒーモスは黒いらしいから、シロはアルビノとか、変異種とかか?


「討伐証明の確認が終わりました。いくつか黒毛の見たことがない尻尾が入っていたそうなのですが、なんのモンスターのものか分かりますか?」


 絶対ベヒーモスだな。


「いや、分からないんだが……エビルキャットのやつじゃないか?」

「……そうですかね。どちらにせよシルバー昇格おめでとうございます! それと、こちら報酬です。従魔契約の代金は差し引いています」


 無事昇格できたか。これでもっと幅広く依頼が受けられるわけだ。


「ありがとう。色々と助かるよ」


 この前王女様の執事から受け取ったお金に比べれば、報酬は微々たるものだ。だが自分で稼いだお金っていうのは悪くない。


 さて、仕事も終わったし、ダンジョンで解析したスキルのプラグラムでもチェックするか。



 冒険者ギルドを出て宿屋に入ると、主人に声をかけられた。


「おい兄ちゃん、うちはモンスター禁止だぜ? 悪りぃが出てってくんな」

「……え?」

「……ニャ?」


 宿を追い出された俺は、シロに鼻をぺろぺろされながら、途方に暮れるのだった。

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