第10話 新しい魔法を開発したので使ってみた

 冒険者ギルドの掲示板で依頼を探すと、あったあった。ダンジョン関連の依頼書。


 あまり旨味がないから誰も寄りつかないらしく、放置気味のダンジョンらしい。モンスターが溢れ始めているので、間引きの依頼だった。最低十体は討伐して欲しいという。


 ダンジョンの名は《猫の巣穴》。その名の通り猫型のエビルキャットや、豹型のマッドパンサーといったモンスターが出没するようだ。ちなみに猫型と言っても、図鑑を見る限り可愛い要素は全くない。とにかく邪悪な顔をしていて恐怖を感じるぐらいだ。


 こういうモンスターとはこれまで戦ったことがないが、冒険者ランクがシルバー以上なら対等に戦えると受付嬢から聞いた。俺のランクはまだブロンズだから微妙ではある。


 しかし、この依頼を達成すればシルバーにランクアップできるらしい。


 とりあえず、ランクアップを目指すか。俺の目的であるスキルのテストとステータス上げのついでにできそうだし。


 そう考えて依頼を受注し、地図を見ながらダンジョンに向かった。



 ダンジョンはよくある洞窟みたいな感じだ。入り口の周りにはエビルキャットが数匹うろちょろしている。本当にモンスターが溢れ出しているらしい。


 《忍び足・改》で気配を消し、後ろから《閃光斬》でぶった斬る。討伐証明は尻尾らしいので切って集めておく。


 ちょっと暗いので、事前に買っておいたランタンを腰につけて洞窟の中に入った。


 中を進むたびにエビルキャットやマッドパンサーが次々と現れる。噂通り、中はモンスターだらけだ。まずは筋力と技量のステータスを上げたいので、一匹残らず剣の錆にしていった。


 《隠密》スキルの《暗視》を使用しているモンスターがいたので、しれっと解析もしておいた。後からインストールしておこう。



 かなり進んだところでやや開けた場所に出た。


「ンギャァァアアア!?」


 動物の悲鳴? 人間じゃないのは間違いない。


 ランタンを前にかざして前方を照らすと、真っ白くて体の小さい猫が、複数の体の大きい黒猫に噛み付かれている。ダンジョンにいるんだから、もちろんどっちもモンスターだろう。


 白猫も黒猫も見た目は何となく似ているけど、仲間じゃないのか?


 白猫は片耳が欠けているし、尻尾も切れているのか短い。状況からして黒猫にやられたようだ。なんかイジメられているみたいで嫌な感じだな。


 そして、さらに奥には体が10メートルはありそうな大きい黒猫、というよりは獰猛そうな漆黒の獣が目をつぶって寝ている。


 猫たちの親ってところか。ヤバそうなモンスターだ。


 先手必勝。俺の存在がバレる前に攻撃を仕掛けるか。


 そろそろ魔力や知力を鍛えたいから魔法を使おう。試したい魔法が一個あったんだよね。


 この前盗賊団を壊滅させたときに冒険者が使った《風魔法》の《ウォルウィンド》。プログラムはこうだった。


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スキル :風魔法

魔法 :ウォルウィンド

プログラム :

魔力を5ポイント分練り上げる

その魔力を右手に集める

魔力を風属性に変化させ、風速10m/sの風を作り出す

その風を手のひらから放つ

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 この前の感じだと、『風速10m/s』で傘が吹き飛ぶような強風だった。でもこれだけじゃつまらないから、とりあえず『風速50m/s』の魔法を作っておいた。魔力は30まで上げとかないとエラーで作れなかったから、仕方なく上げといた。


 魔法名は《タイフーン》としておいた。やっぱり強力な魔法になると、使用する魔力も上げないとダメなんだな。


 でも魔力30の魔法なんてまだ使えないから、他の魔法も作ってみることにした。


 《ブリザード》と《ウォルウィンド》のソースコードを眺めていたら似てたので、混ぜたら面白いんじゃね? ってことで合わせてみた。


 そうして、こんな魔法を作った。


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スキル :氷風魔法

魔法 :アイスストーム

プログラム :

魔力を10ポイント分練り上げる

その魔力を右手と左手に集める

右手の魔力を氷属性に変化させ、手のひらに氷の礫を含んだ冷気を生み出す

左手の魔力を風属性に変化させ、風速10m/sの風を作り出す

冷気と風を両手から放つ

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 クックックッ、どうなることやら。早速ぶちかまそう。


『ガルルルルルッ!!!』


 あっ、バレた。黒猫たちがこっちを威嚇している。白猫はその隙になんとか逃げだすと、壁に空いた小さな穴に隠れた。


 で、いつの間にかでかい猛獣が目を覚ましてる。


 突然、黒猫たちと猛獣が襲いかかってきた。


「クククッ、お前らは実験台だぁ! 《アイスストーム》!」


 両手を前方に突き出して魔法を放つと、白い暴風が吹き荒れた。


 冷気と風圧でモンスターたちは身動きが取れない。そこに野球ボール大の氷塊が襲いかかる。


 ズドドドドドッ!!!


『ギャイィンンンン!!』


 地獄の千本ノックを浴びて、次々と崩れ落ちるモンスターたち。


 うむ、良い感じ。魔法の反動でちょっと頭痛がするが、ちょうど良い負荷だと思う。こうして少しずつステータスを上げていけばいいのだ。


 全てのモンスターを倒したと思ったが、漆黒の猛獣だけがボロボロな体で立ち上がった。さすがにタフらしい。


 猛獣はおもむろに口を開いた。すると中から真っ赤な炎が吹き出し、凄まじい勢いでこちらに向かってくる。


 ピコンッ!


〔レアスキル《ブレス》の《ファイヤブレス》。超高熱の業火を吐き出す〕


 はぁ!? レアスキルってなんだよ! いきなりずるいだろ!


 あんなのを食らったらおしまいだ。仕方がない。


「跳ね返す! 《タイフーン》!」


 俺の両手から爆風が吹き出す。体がその勢いでジリジリ後方に下がっていく。


 爆風が炎とぶつかり合う。一瞬両者の威力が拮抗するも、爆風がじりじりと巻き返し、炎を跳ね返した。


『グギャアアァァアア!?』


 自らが放った炎に包まれ、地面にのたうち回る猛獣。しばらくして、そのまま息絶えた。


 よっしゃあ! …………あ、頭痛ぇええ!? ついでに気持ち悪い! 死ぬぅううう!


 俺もまた地面にのたうち回る。


 くっ……前にもあった、限界を越えすぎた反動か……。


 慌ててステータスを確認する。


 体力: 45/45

 魔力: −30/30

 筋力: 21

 知力: 25

 技量: 18

 敏捷: 20

 運 : 11


 いや、魔力マイナスはダメだって……。こんなところで倒れたら、マジでやばいぞ……?


 ズルッ……ズルッ……ズルッ……。


 音のする方に目を向ける。


 白猫だ。噛まれて怪我をした足を引き摺りながら近づいてくる。


 や、やばい。こんな弱々しいモンスターでも、今はダメだ。


 やられる……!


 しかし、白猫は俺の顔に近寄ると、鼻をぺろっと舐めた。そして、体を擦り付けながらゴロゴロ鳴いている。


 ……あれ? 敵意は……ない……のか……?


 俺は猫の微かな体温を感じながら、いつの間にか気を失っていた。

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