第6話 怪我人を回復してたら大事になっちゃったんだが
「ギャオオオォォ!」
「ぐはっ……!」
「キャアアア!? 」
おう、やってるやってる! 冒険者の方は四人パーティーかな? 既に三人怪我して倒れてる。……いいねぇ! で、今戦っているのは魔女風の女一人だけだ。
キマイラの方は凶悪そうな獅子の頭と山羊の頭を持ち、尻尾がヘビの化け物だ。今は山羊の角が切り落とされ、獅子の顔には切り傷がついている。冒険者パーティーが奮闘した結果だろう。
魔女に目を向けると、何やら呟き始めた。魔法か?
俺は急いで解析眼を発動する。
「……《ブリザード》!」
魔女が前方に両手を開いて叫ぶと、手から氷雪を含む白い風が吹き出しキマイラに襲いかかる。対してキマイラは、獅子が口を大きく開けると、ゴオオォオ!と全く同じ白い風を吐き出した。
両者は宙でぶつかり合い、あたりに爆発音が轟いた後、姿を消した。どうやら魔法が相殺されたらしい。
するとピコンッ!という音と共に、視界にスキルの説明が表示される。
〔ノーマルスキル《氷魔法》の《ブリザード》。吹雪で対象を凍らせる〕
「キ、キマイラが氷属性の魔法を使うなんてありえない……! まさか、変異種!?」
なんだそれ? もしかして強いのかこいつ……? 他のメンバーは倒れているし、魔女の魔法も通じないなんて。このままじゃ彼らが全滅してしまう。助けるしかないか……。
だが俺がいくら剣聖並みのスキルを持っていたとしても、あんな氷魔法をくらったらおしまいだ。隙を突いて不意打ちで攻撃するぐらいしか手はない。
……そうだ、さっき解析した《隠密》スキルの忍び足でこっそり近づくことにしよう。魔女が必死で逃げ回っているから、多少準備する時間はありそうだ。
パソコンは無くさないよういつも持ち歩いている。すぐにバッグから取り出して開いた。スキルのデータ取り込みが完了し、《忍び足》のプログラムを見るとこうだった。
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スキル :隠密
足技 :忍び足
プログラム :
魔力を2ポイント分練り上げる
↓
魔力を風属性に変化させ、衝撃吸収・防音の性質を持つ気体を作り出す
↓
その気体で足の裏を覆う
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忍び足は意外にも風属性のスキルらしい。単純に歩行技術なのかと思ってたけど、この世界では違うみたいだ。じゃあとりあえず魔力は『2ポイント』から『5ポイント』にして、『足の裏』を『全身』にしちゃおう。これで一切俺の音は聞こえなくなる……気がする。
そういえば《忍び足》の効果ってどのくらいで切れるんだろう。よく分からないから、切れたらもう一度スキルを起動する命令も入れておこう。途中で効果が切れて見つかったら目も当てられないからな。
これを忍び足・改と名付けよう。
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スキル :隠密
足技 :忍び足・改
プログラム :
魔力を5ポイント分練り上げる
↓
魔力を風属性に変化させ、衝撃吸収・防音の性質を持つ気体を作り出す
↓
その気体で全身を覆う
↓
魔力が切れたら、もう一度、初めの命令に戻る
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準備はオッケーだ。早速インストールする。
すぐにこれを起動した。そして、ゴブリンからゲットしたイケてる仮面を装着し森の中からキマイラの背後を狙う。
しばらくしてキマイラは、魔女に魔法を放つべく動きを止めた。今だ!
全力で走って奴に近づき、蛇の尻尾に攻撃を加える。
「《閃光斬》!」
スパン!
「ギャオオォォォオオオ!!!」
尻尾を切られた痛みでキマイラが地面でのたうち回る。……相当痛がってるな、もしかして急所だったのか?
まだ俺がどこにいるか把握できていないらしい。《忍び足・改》が優秀なようだ。止めを刺そう。頭に狙いを定め、剣技を放つ。
「《疾風突き》!」
剣の切先が途轍もない速さで空を切り裂き、獅子と山羊の頭を串刺しにした。
ふぅ、終わったか。
「きゃあああああ! な、なんでゴブリンリーダーまでいるのよぉ!?」
え? ゴブリン……なんだって? ゴブリンなんてさっき退治したし、もうどこにもいないけど。
「今キョロキョロしてるあんたよ、あんた! なんでゴブリンリーダーがキマイラを倒すのよ! 訳が分からないわ!」
あ、俺のこと? ……この仮面のせいか。
「落ち着いてくれ。俺はゴブリンじゃなくて普通の人間だ! この仮面はさっき倒したゴブリンが持っていたやつで、とても気に入ったから着けてるんだよ。安心してくれ!」
「へ……? そんな三歳児が適当に作ったようなデザインの仮面を気に入るなんて、随分変わってるのね……」
なんだと? まさかこの格好良さが分からないのか?
「そういえばこの人、気配を全然感じなかった。もしかして、気配を遮断するレアアイテムだから、我慢してでもダサい仮面をつけているのかしら……?」
ちょっと失礼だな、この魔女。全然ダサくないだろ。たくさん角とか目とか付いてて悪くないデザインだ。確かにレアアイテムだよ、俺にとってはな。
「ふん。それはそうと、そこに倒れている人達は無事なのか?」
「はっ!? そうだわ! 酷い怪我だから急いで街の教会に連れて行かなくちゃ……。申し訳ないのだけど、あなたも運ぶのを手伝ってくれないかしら?」
よぉし、チャンスだぁ!
「なら、回復は俺がしよう」
そう答えると、彼らに手をかざす。
「《ミドルヒール》!」
切り傷や刺し傷なんかもあって、結構酷い怪我みたいだけどどうかな?
……おお、綺麗に治ったぞ! こんな怪我でも《ミドルヒール》で十分なのか。魔法の負荷で少し頭痛がするが、この程度ならなんとか我慢できる。
「け、怪我が完全に治った!? こんなに高度な回復魔法、初めて見るわ……!」
「え、そうなの?」
「とっても心配だったの……本当にありがとうございます!」
「あ、ああ」
魔女が俺に深々と頭を下げて礼を言う。俺はテストのために来ただけだし、怪我人を提供してくれて、むしろこっちがお礼を言いたいぐらいだ。
「う、ううっ……。ん? キマイラは、どうした? 俺の怪我は、どうなった?」
パーティーメンバーの一人が意識を取り戻した。すると他のメンバーも次々に意識を取り戻し、似たような言葉を口にした。
「こちらのお方、仮面の騎士様が、私達を救ってくれたの! なんと変異種のキマイラを美しい剣技で切り裂き、高度な回復魔法でみんなの怪我を治してくださったのよ!」
か、仮面の騎士様? ちょっとダサいな……。
「ま、まじかよ……!?」
「「ありがとうございます、仮面の騎士様!!」」
「は、はぁ……」
「それで、助けてくださったお礼ですが──」
おっと、そんなものを貰いたくて来たんじゃないんだ。別の魔法のテストもしたいし、すぐにでも次の現場に行きたい。
「はっはっはー、気にしないでください! 全然大したことじゃありませんのでー!」
俺はそう言い残し、全力でその場を去った。
ギルドに戻ってゴブリンの討伐報告をしたら、群れがいたのは想定外だったらしい。ゴブリンリーダーがいなかったのは不幸中の幸いでしたね、なんて受付嬢が言っていたが、多分いた気がする。仮面のゴブリンがそうだろう。
ゴブリンリーダーはゴールドランクの冒険者が対等に戦えるレベルらしいので、俺が倒したとなると目立ってしまう。だからその報告は止めておいた。そして受付嬢からは平謝りされた後、感謝の言葉とゴブリンの群れ討伐分の報酬ももらった。
それから数日間、回復魔法のテストのために討伐依頼の現場を回った。ついでに街中で怪我人を見つけたら治療した。その結果、《ミドルヒール》と《ハイヒール》のテストがしっかりできた。
前者は比較的大きな怪我が回復でき、後者は命に関わるような深い傷でも綺麗に治すことができた。なら《エクストラヒール》って、例えば失った腕を元に戻すぐらいできちゃうんじゃないか? 今すぐには試せないが、もう少しステータスが上がったら試してみたいところだ。こういった情報を地道に集めることで、さらにスキルを改善できるようになる。
そして、今このベルクヴァイン国の住民の間で噂になっていることがある。それは仮面の騎士についてだ。どこからともなく現れ、あらゆる危機を救ってくれる人物がいると。……完全に俺のことだ。
ちなみにあらゆる危機は救ってないから、話に尾ひれが付き始めている。仮面のデザインはかなりダサいらしい、なんて話も耳にする。仮面は控えめに言っても格好良いので、やはり噂話というのは間違いも多いのだ。
なんとその噂は街中だけでなくベルクヴァイン国城内にまで届いており、王がどのような人物か関心を持っているらしい。
……やばい、目立ち過ぎた!
意外と実験台──もとい怪我人がそこらじゅうで見つかるもんだから、見境なくやってしまった……。王には絶対にバレたくない。もう大分テストはできたし、しばらく大人しくしてよう……。
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