第5話 スキルのテストがしたいので依頼を受けてみた

 とりあえずギルドで貼り紙を見てみる。薬草の採取依頼とか、ダンジョンの調査依頼なんかがあるな。


 さて魔物の討伐依頼は……、あったあった。森の洞窟に巣食うゴブリン退治や、下水に溢れているスライムの除去、鉱山を占拠したロック鳥の殲滅、森林を荒らすキマイラの狩り、などなど。なんとなく想像ができる魔物ばかりだ。


 今ある依頼の中だと、目的地が近いのはゴブリン退治とキマイラ狩りで、どちらも森だ。俺の冒険者ランクはブロンズだから、前者のゴブリン退治しか受けられない。キマイラ狩りはゴールド向けと書いてある。ちなみに冒険者ランクは、ブロンズ、シルバー、ゴールド、ミスリル、オリハルコンと上がっていくらしい。


 なので、ゴブリン討伐の依頼をこなした後に、キマイラ狩りで怪我した冒険者を探し、回復魔法のテストをする方針でいこう。


 受付で依頼の手続きをした。そういえば、こうやって自由に依頼が選べるのはフリーデリーケ様のおかげらしい。受付嬢から、もしあの身分証明書がなかったとしたら、今頃どぶさらいや害虫駆除の仕事なんかをお願いしていただろうと爽やかな笑顔で言われた。


 どんな依頼だろうと、スキルのテストになるならいくらでもやるが、依頼の内容からそれは難しそうだ。やっぱり仕事を選べるっていいな。王女様に感謝だ。


 森に向かう前に、一応装備などの準備を整えることにした。剣がないと剣技すらも使えない。武器屋や防具屋を回って、鉄製の剣や革製の鎧を購入した。合わせて銀貨十枚だった。身につけたらどちらもずっしり重いし動きにくい。でもスキルのテストの為だ、頑張ろう。


 もらった地図を見ながら早速森に向かい、ゴブリンが根城にしているという洞窟を探す。


 あったぞ! 小学生ぐらいの身長のゴブリンが洞窟を出入りしている。


 その様子を少し観察していたら、見張りのゴブリンに見つかった。ゴブリンが「ギャア!」と叫びながら、両手に持った棒で太鼓のようなものを叩くと、ドンドンドンドンッ! と大きな音が鳴る。


 それを合図に、わらわらと武器を持ったゴブリンが洞窟から飛び出してきた。


 ……こんなにいるの? ゴブリン討伐とは書いてあったけど、群れって書いてたっけ? すでに目の前には二十体ぐらいいるし、今もどんどん出てきてる。それにコイツら、俺を殺る気満々って顔してる。


 ついに一匹が俺に向かって駆け出し、「ギャア!」と叫びながらダガーを突き立てようとしてくる。


「《パリィ》!」


 キィン!


 俺は剣技を発動し、ゴブリンのダガーを軽々と弾いた。


「《閃光斬》!」


 凄まじい速度で振り下ろされた剣がゴブリンを縦にぶった斬る。敵はドサッと地面に倒れた。その様子を見て、他のゴブリンは何が起きたのか分からないらしく、ぽかんとしている。


 ……ふっふっふっ、驚いたようだな、俺のスキルに。筋骨隆々の男ルーカスとの模擬戦で、俺のスキルが実戦で役立つことは証明されているのだ。


 この前ルーカスは俺が剣聖だからと「胸を借ります!」なんていって、本気の本気で剣を打ち込んできた。頭がおかしいんじゃないかと疑ったが、俺も剣聖を名乗った以上やめてくれとは言えない。死ぬ気で立ち向かい、プログラミングで強化した《無限パリィ》で奴の攻撃を全て受けきってやった! ゴブリン程度の攻撃など、俺に当たるはずがない。


 そういえば、《パリィ》の強化もなかなか楽しかった。《パリィ》のプログラムはこんな感じになっていた。


----------------------------------------

スキル :下級剣術

剣技 :パリィ

プログラム :

剣を両手で握る

剣を中段に構える

正面からの攻撃が接近するのを待つ

攻撃が来たら、剣を時速100キロで振り、側面から叩きつける

----------------------------------------


 この技の問題点にはすぐに気づいた。正面からの攻撃にしか対応できないのだ。つまり、攻撃が来る方向へわざわざ体を向けて、そちらを正面にした状態でスキルを放たないと成功しない。


 そんなことは熟練の戦士でなくては無理だ。なので『正面からの攻撃が接近するのを待つ』を『あらゆる方面からの攻撃が接近するのを待つ』に変更した。ノリで『時速100キロ』も『時速200キロ』にしておいた。


 また、ルーカスの連続攻撃に耐えられるように、プログラムを自動で繰り返す命令も加えておいた。最後に『もう一度、初めの命令に戻る』と一文加えただけだ。するとこうなった。


----------------------------------------

スキル :下級剣術

剣技 :無限パリィ

プログラム :

剣を両手で握る

剣を中段に構える

あらゆる方面からの攻撃が接近するのを待つ

攻撃が来たら、剣を時速200キロで振り、側面から叩きつける

もう一度、初めの命令に戻る

----------------------------------------


 これで「パリィ! パリィ!」なんて繰り返しスキルを叫ぶ必要はなくなるのだ。


 それはそうと、まずはゴブリンを倒さなくては。近くでぽかんとしているゴブリンを《回転斬り》で倒した。俺はまともに剣を振ることなんてできないから、攻撃する時は全て剣技を使うしかない。


 今の攻撃で他のゴブリンが我に返り、激怒した様子でギャアギャア叫びながらこちらに向かってくる。俺は相手の攻撃を《パリィ》で弾き、《閃光斬》や《回転斬り》でどんどん倒していく。


 ふと、背後から「シュー、シュー」と空気が漏れるような音が聞こえる。後ろを見ると、なんとゴブリンがいる……! いつの間に!?


 そのゴブリンは棍棒で俺の背中を殴りつけてきた。


 ボゴッ!


「うっ……!」


 鎧ごしに強い衝撃が背中を襲う。ど、どうなってるんだ? まさか……スキル!?


 前方にいるゴブリンを先に始末し、すぐに振り返って俺を殴りつけたゴブリンも斬り倒した。


 大したダメージはないので、すぐに《ヒール》で回復する。そして、突然背後を取られた理由を探るべく《解析眼》を発動した。


 すると、ゴブリンの群れの後方で森の中に姿を消すものが見えた。ピコンッ!という音と共に、視界になにやら説明が表示される。


〔ノーマルスキル《隠密》の《忍び足》。自身の足音を消し去り、存在を相手に気付かれにくくする〕


 やっぱりだ! 魔物もスキルを使うのか……。でもこの程度なら、背後に気をつければ十分に対処可能だろう。


 俺は敵に背後を取られないよう、周囲に目を向けながら下がりつつ戦う方法に切り替えた。その後は何事もなく、ゴブリンの群れを倒しきることができた。


 結局五十体も倒してしまった。ちょっとした虐殺じゃないか……。結構時間もかかってしまったし、急いで討伐証明となるゴブリンの耳を集めよう。


 ゴブリンの指揮官らしき個体は、理由は不明だが仮面をつけていた。なかなかイケてるデザインだ。魔物のくせにやりおる。顔バレしないように、スキルのテストの時はこの仮面を付けておくか。


 さて俺の依頼は終わったし、キマイラ狩りの方はどうなっているだろう。どこかのパーティーが依頼を受けていてくれればいいが。


 キマイラがいる場所は地図にメモしてきた。ここから北東だ。地図を見ながらその場所まで移動する。

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