第3話 スキルのプログラミングって楽しい

 まずはパソコンの状況を見たい。早速もらったお金で宿をとろう。


 すれ違う人に質問して冒険者ギルドの場所を聞き、その近くにある宿に入った。


 宿は一ヶ月分支払うと銀貨三枚らしいので、さっきもらった金貨で支払う。まだまだお金には余裕があるし、寝る場所にはしばらく困らないな。


 早速部屋でバッグを下ろし、中を開く。


 やっぱりあった! 俺が愛用していたハイスペックなノートパソコン、『Kenta Book Pro』!


 見た目は全然変わってない。開いてみると、自動的に起動したのでログインする。


 デスクトップ画面も変わってない。……いや、よく見るとパソコンのバッテリー残量アイコンの横に魔力って書いてある。魔力を使って動かしてるのかこれ。いつの間にかこのパソコン、異世界仕様に改造されてるな……。まあ、むしろ助かるか。


 そんなことを思っていたら、突然画面の中央に真っ黒なウィンドウが表示された。そのウィンドウに何やら文字が書き込まれていく。


〔《プログラミング》が起動しました。《解析眼》と連携しますか? YES / NO〕


 スキルが勝手に起動した……?


 少し驚いたが、こんなふうに対話形式で質問してくれるのは分かりやすい。スキルを連携するとどうなるか良く分からんけど、多分困ることはないだろう。キーボードにYESと打ち込む。


〔《解析眼》と連携しました。《解析眼》で見たスキルの情報は、今後 《プログラミング》へ自動的に取り込まれます〕


 そりゃあ便利だ。……でも、ここから何をすれば良いんだ? 黒い画面には何も変化がないし、良く分からん……。待っていても仕方ないし、解析眼でスキルを見に行ってみるか。


 冒険者ギルドならスキル持ちがいるだろうと、早速来てみた。ギルドの奥には訓練場があって、簡単な剣や格闘の訓練ができるらしい。入り口の壁に何やら書いてある。


【 注意:ここはスキルを身につける場所ではありません! スキルとは先天的なものであり、後から訓練して身につくものではありません 】


 あー、質問する人が多いもんだから分かりやすく書いたのかな? スキルってそういうものなのか。俺の場合は違うだろうけど。


 訓練場に入ろうとしたら受付嬢に止められた。冒険者じゃないと入っちゃダメらしい。なので、王女様からもらった身分証明書を出して冒険者登録をお願いする。


「まあ、王女様とお知り合いなんですか? なら安心ですね!」


 なんて素敵な笑顔で言われた。どうやら王女様は人望があるようだ。色々説明を聞いて冒険者カードを受け取った。


 訓練場に入ると、筋骨隆々のベテランといった剣士が若い冒険者に剣の手ほどきをしていた。早速 《解析眼》を発動して、訓練を観察する。


「ふむ、良くなってきたな。じゃあ次はこの攻撃に耐えてみろ!」

「えっ? まさか……?」

「いくぞ、《閃光斬》!」


 筋骨隆々の剣士がロングソードを上段に構えて振り下ろした。まさに閃光のようなスピード。若い冒険者がその攻撃を止めようと出した剣は弾かれて、地面に突き刺さった。


 ピコンッ!という音と共に、視界に説明が表示される。


〔ノーマルスキル《初級剣術》の剣技 《閃光斬》。非常に高速な斬撃を繰り出す〕


 お、解析できたってことは、もうこれでプログラミングに取り込めるのかな?


「ちょっと、ルーカスさん!? オレを殺す気っすか!」

「わはははっ! なぁに、あれぐらいじゃ死にゃあしねえよ」


 若い冒険者はちょっとキレ気味だが、ルーカスと呼ばれた男には気にする様子がない。


「パウルは少し休憩だ。おい、そこでこっちをジロジロ見ているお前。冒険者だよな? お前も訓練するか?」


 え? 俺のこと? 俺みたいな普通のおっさんがあんな剣の撃ち合いできるわけないだろ!


「い、いえ、今回は見るだけで大丈夫です!」

「そ、そうか……?」


 困惑しているルーカスに一礼して、俺はその場から退散した。脇目も振らず宿に戻る。俺は剣を振るよりも、一刻も早くプログラミングがしたいのだ!


 部屋に入ってパソコンを開いた。すると、先ほどの真っ黒な画面が表示され、文字が書き込まれていく。


〔新規スキルデータの取り込み中です……〕

〔新規スキルデータの取り込みが完了しました。スキル開発ツールを起動しますか? YES / NO〕


 おぉ! でもなんだ『スキル開発ツール』って? とりあえずYESっと。


 すると、真っ黒な画面は消えて、見覚えのある画面が立ち上がった。以前スマホアプリの開発で使っていたアプリの開発ツールだ。


 開発ツールっていうのは高機能なテキストエディターみたいなものだ。画面上には剣術スキルの剣技、《閃光斬》のものと思われるプログラムのソースコードが表示されている。


 キター!! これだよ、これ! 俺がやりたかったのはこれ! プログラミング言語は以前俺が使ってたやつだから普通に読めるぞ!


 プログラムっていうのは、簡単に言えば命令文の集まりだ。《閃光斬》のプログラムを読んでみると至ってシンプルで、重要な部分を翻訳するとこんな感じだった。


----------------------------------------

スキル :初級剣術

剣技 :閃光斬

プログラム :

剣を両手で握る

剣を上段に構える

右足を前方に踏み込む

時速100キロで対象に向けて剣を振り下ろす

----------------------------------------


 命令文というよりは宣言文といった感じだが、これを上から順番に実行することで、スキル使用者に対して動作を命令するわけだ。


 こうして命令だけを見ると、なんだか簡単そうで、スキルなどなくてもできそうに見える。だが、例えば剣を両手で握るにしても、普通ならどんな握り方をすればいいか、どの程度の力で握ればいいかなんて分からない。学んで練習してを繰り返し、初めてできるようになるものだ。


 しかし《初級剣術》を使えば、その辺りを半ば自動的にサポートしてくれるのではないだろうか。スキルがあるからこそ練習の必要はなく、自動的に最適な行動が取れるのだ、多分。


 ……そういえばこのプログラムのソースコードを読む限り、《閃光斬》って振り下ろすことしかできないみたいだ。なんか不便。


 『剣を上段に構える』を『剣を下段に構える』にして、『対象に向けて剣を振り下ろす』を『対象に向けて剣を振り上げる』にして、別のプログラムを作ってみる。


 この技は《閃光斬・下段》とでも名付けるか。どっちの閃光斬も『時速100キロ』から『時速200キロ』にしちゃおうっと。


----------------------------------------

スキル :初級剣術

剣技 :閃光斬・下段

プログラム :

剣を両手で握る

剣を下段に構える

右足を前方に踏み込む

時速200キロで対象に向けて剣を振り上げる

----------------------------------------


 さて、開発ツールにあるインストールボタンを押してみる。


〔《初級剣術》をインストールしますか? YES / NO〕


 黒い画面が出てきた。もちろんYESだ。


〔インストールの準備をしています〕

〔インストールを開始しました〕

〔インストールが完了しました。現在のデータ容量:100,010 / 1,048,576 GB〕


 おお、できたっぽい! データ容量って、スキルをインストールできるデータ容量ってことか。1,048,576 GBギガバイトは1,024 TBテラバイトで、1,024 TBは1 PBペタバイト


 ……やべぇよ。元の世界でもこんな容量見たことない。俺って一体いくつスキルをインストールできるんだ……?


 ま、まあそれは置いといて、《初級剣術》を試してみなくちゃな。プログラマーはテストができないと始まらない。でも手元に剣がない。……仕方ない、さっきの訓練場に行くか。


 俺は再びさっきの訓練場に戻った。


「おっ? なんだ、やっぱりやる気になったか?」


 タオルで汗を拭きながら、ルーカスが声をかけてくる。若い冒険者パウルは大の字になって倒れ込んでいる。


「ええ、まあ。少しだけ訓練させてもらってもいいでしょうか?」

「もちろんだ! さあ、そこの剣を持て」


 剣立てに差してあるロングソードを引き抜く。重い。めちゃくちゃ重い。


「よし、どこからでも打ち込んでこい!」

「な、なら、お言葉に甘えて。……《閃光斬》!」


 剣技を叫ぶと体が自動的に動きだす。


 俺は剣を両手で握ると腕を真上にあげて上段で構え、前方に右足を踏み込み、一気に振り下ろした。


「なにぃぃい!?」


 ルーカスは急いで剣で受け止めようとする。


 ギィン!!


 しかし、俺の剣技がそれを弾き飛ばし、地面に突き刺さった。


 よしよし! ちゃんと使えたぞ!


「うおぉ!? ルーカスさんの剣を吹っ飛ばした!?」


 倒れていたはずのパウルがいつの間にか起きていて、なにやら驚いている。


「ま、まさかお前も俺と同じ《初級剣術》持ちだったのか!?」

「……まあ、一応そうですかね」

「さっきの一撃、俺の《閃光斬》より速かったような……?」


 俺のは『時速200キロ』だからなぁ……。


「そんなばかな……。くそっ、なら今度は俺の番だ! 行くぞ、《閃光斬》!」

「えぇ!?」


 ルーカスは地面に刺さった剣を引き抜くと技を放つ。


 まずい! 怒らせてしまったか! 俺みたいな一般人がルーカスの攻撃を普通に受けたら死んでしまう!


 こうなったら、あれを使うしかない。


「《閃光斬・下段》!」


 俺の体が自動で動き、下段から剣技を放った。両者の技がぶつかり──


 ガギィィィィン!!!


 ルーカスの剣が吹き飛び、天井に突き刺さった。


「またルーカスさんの剣を吹っ飛ばしたぁあ!? ば、化け物だ、この人……」


 テスト結果は完璧。パウロは妙に驚いているが、スキルがプログラム通りの動きを実行してくれたに過ぎない。俺自身が凄いのではなく、プログラムが優秀なのだ。


 だが、少し目立ってしまったか……。俺のスキルのことが王に知られたりでもしたら、きっと連れ戻されてしまう。ここからは目立たないように行動しなければ。


「ま、負けた……? まさか下から《閃光斬》を切り上げるなんて、そんなことができるとは信じられん……」

「あははっ、いやぁ、まぐれ、ですかね……?」

「まさか。まぐれでできるはずがない。こんなことをできる人物がいたとは。……も、ももも、もしやあなたは、かの剣聖ギュンター・フォン・ファイアージンガー​​様では……?」


 ……誰? 全然違うけど。


「マジっすか!? お忍びで世界を周り、《初級剣術》スキル一本で剣聖と呼ばれるようになった今でも、自分の技を磨き続けているという、あの……?」


 へぇ、ノーマルスキルも高めれば剣聖と呼ばれるぐらいになれるってことか? そりゃ面白い。


 ……とにかく、この誤解されている状況を利用しない手はないぞ!


「バ、バレてしまったかぁー……。確かに我こそは、ギュウタン・フォー・ジンジャーエールである!」

「……? ふふっ、こんな時におかしなことを言って場を和ませようとは、なんと偉大なお方か!」

「剣聖様は面白い方だなぁ!」


 なにが? 真面目に言ってるけど? まあ、場が和んだしいいか。


「それでだ、君達も知っての通り、我はお忍びで世界を周っておる。ゆえに、他の誰にも我の存在を知られたくないのである」

「なるほど、左様でしたか。では、なぜこのような訓練場にいらしたのです?」

「ぐっ……。そ、それは、何やらこの訓練場からただならぬ才能の気配を感じてな? それを辿ってきたらルーカス殿とパウル殿がいたというわけよ」

「な、なんと……。俺にそのような才能が……!?」

「オレにもっすか……!?」


 よしよし、なんか嬉しそうにしているぞ! 才能ってのはふわふわした概念だ。存在なんて誰にも証明できないから、適当に言ったとは思われまい。


「では、もし宜しければ、こちらに滞在している間、俺に稽古をつけてもらえないでしょうか……?」

「オ、オレもお願いしたいっす!」

「えぇ……」


 流石にそれは俺が偽物だってバレるだろ……。でも断って、万が一俺の話を誰かにされたらまずいもんなぁ。……あっ、そうだ。他にも《初級剣術》の剣技をプログラミングして覚えちゃえば、偽者だってバレないかも。なんなら色々な剣技を繰り出しておけば剣聖っぽさが出るに違いない。


 プログラミングもできて楽しいし、一石二鳥じゃん!


「ふむ、若い才能を育てるのも年寄りの仕事か……。では、ルーカス殿。まずはそなたが使える剣技を見せてもらえるかな?」

「ギュンター様は俺と同い年か年下ぐらいでは……? そ、そうか、これも冗談。まったくギュンター様には敵いませんな! 分かりました。それでは、ご指導をお願いいたします!」


 そう言ってルーカスは色々な剣技を見せてくれた。俺はそれを全て解析していく。《パリィ》、《回転斬り》、《疾風突き》など、《初級剣術》スキルには様々な剣技があった。


 一旦お腹が痛いといって宿に戻り、プログラミングで簡単に改造して自分にインストールした。その後急いで訓練場に戻り、模擬戦などと言って、俺が覚えた剣技のテストをさせてもらった。


 二人とも改造した剣技を見せたら「凄まじい威力だぁ!!」なんて感動していたし、俺は俺でプログラミングが楽しかったし、ウィンウィンだ。


 ちょっと異世界が楽しくなってきたぞ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る