第2話 交渉ってむずかしい
「プ、プログラミングというのは、元の世界にしか存在しないパソコンという道具がないと、実は全く何もできないものなのです……」
「そ、そうなのか? それは困ったのう……」
良いぞ良いぞ、王が頭を抱えてる。今だ! 畳み込むぞ!
「そんなスキルではきっと皆さんのお役には立てないでしょうし、魔王と戦うなんて自殺行為です……。なので私としてはここを出て、元の世界に帰れる日まで一般人として生活したいのですが、いかがでしょうか……?」
「この城を出たいと申すか……。……ふむ、分かった」
よっしゃあ! うまくいったぞ!
なんて思ったのも束の間、先程の貴族ゲオルクが話に割り込んできた。
「お待ち下さい、王よ。その『ぱそこん』とやらがないなら作ってしまえばいい。魔導具として開発するのはいかがでしょう? そうすればこの者の本当の力も明らかになるというもの」
はぁ……!? 嘘でしょ!?
「ふむ、確かに。だがその『ぱそこん』とやらは作れるものなのか?」
「や、止めたほうがいいと思います! 俺には作り方が分かりませんし、前の世界ではとんでもない時間をかけて開発されたものなんです! 仮にこの世界に優秀な技術者がいたとしても、少なくとも十年、いや百年はかかりますよ!」
「なんと! それはあまりにも時間が掛かり過ぎじゃのう……」
よし、あっぶねぇ!
「ですが王、この者は解析眼も持っております。分析官としてもそれなりに使えるのでは?」
「ふむ、確かに……」
なんだよコイツ、しつこいぞ! 俺のこと好きなの!?
「待って下さい! 皆さんの配下に解析眼を使える人はいないのですか?」
「いや、何人もおるのう」
「な、なら俺みたいな役立たず、絶対に必要ないですよ! 本当に邪魔なだけの、穀潰しになるだけですから!」
「お、お主……。そこまで自分を卑下せんでも良かろうに……」
何か王から哀れみの目で見られてる。いつの間にか高校生達も俺を似たような目で見てる。
何か変なこと言ったかな……?
「王様、このおじさんの願いを聞いてあげて下さい!」
「俺達がその分頑張りますから!」
やだこの子達、優しい……。さすが勇者召喚されるだけある。女の子なんかちょっと涙ぐんでる子までいる。
後押ししてくれるのは感謝だ。でも、みんなから哀れみの気持ちがひしひしと伝わってきて少しだけ辛い……。
「あい分かった! では、お主はこの城から出て一市民として暮らすのを認めよう。王の決定である!」
「あ、ありがとうございます!」
おっしゃあ! 俺頑張った! あと高校生達ありがとう!
ゲオルクは悔しそうな顔をしてる。なんでかよく分かんないけど、ここは「ざまぁ」という顔をしておこう。
「ではお主にはこちらでの暮らしに慣れるまで困らぬよう、いくらか金貨を渡しておこう。召喚してしまった詫びの気持ちもある。気をつけて生活するのだぞ」
「これはご親切に、どうもありがとうございます。それではこの場で失礼いたします」
金貨を受け取り深々と王へ礼をする。続けて高校生達にも一礼してから、後ろを振り返り俺は歩を進める。すると、後方からパタパタと俺を追いかけてくる足音が聞こえた。
「わ、
「……はあ、ありがとうございます」
声の主は王女様の列の一番端っこに並んでいた人で、金髪の長い髪に碧眼のすごい美人だ。
「こちらですわ」
俺は彼女の後ろについて部屋を出た。廊下で彼女が話しかけてくる。
「はじめまして、私はフリーデリーケ・ベルクヴァインと申します。勝手に召喚し、勝手にお城から追い出すような形になってしまい、本当に申し訳ありません」
そう言って頭を下げる。
へぇ、ちゃんとした子だな。王様も、やり方はちょっと好きじゃないが悪い人ではなさそうだった。結構普通の国なのかね、ここ。
「いえいえ、こちらこそ我儘を聞いていただきありがとうございます。私は椎井 絃剛と申します。よろしくお願いします」
「ではゲンゴー様とお呼びしますわ。ゲンゴー様はとっても丁寧な方ですのね。それに、お父様と交渉して要望を通してしまわれるなんて、すごいですわ!」
「そ、そうですか?」
「ええ! お父様もゲオルクもその道のプロなので、交渉ごとで言い負かされたのは見たことがありません」
交渉というか、可哀想アピールが妙に刺さっただけな気がする……。
「……お話は変わるのですが、もしご迷惑でなければ、しばらくしたら様子を見に伺いたいのですが構いませんか?」
様子を見に? なんで王女様が?
……正直、王族と関わるのは面倒な気がする。ただ、王女様の申し出を断るなんてしていいのか? 今城の中でそんなことをして揉め事にでもなったら、最悪捕まるかも知れない。……うん、断るって選択肢ないわ。
「も、もちろんですとも。でも、なぜです……?」
俺が理由を聞こうとすると、どこから現れたのか執事らしき男が姿を見せた。
「フリーデリーケ様はお困りの方を放って置けない、大変尊い精神をお持ちの方なのでございます」
そういって深々とお辞儀をする。
「ちょっとセバス!? 何を言っているのです!」
王女様が恥ずかしそうに頬を赤らめる。
いいねぇ、セバス。いかにも異世界の執事って感じで最高。
「なるほど、フリーデリーケ様はなんと親切なお方なのでしょう」
「も、もう、ゲンゴー様まで……。 ……そうですわ! ゲンゴー様はどちらにお住まいになる予定ですか? それに、お仕事はどうなされるのです?」
「いやあ、この世界のことは全く分からないのでなんとも……」
「そ、そうですよね……。すみません。でしたら、お仕事はどなたでもなれる冒険者がおすすめですわ! ですので、冒険者ギルドの近くでお家を借りると何かと便利ではないでしょうか?」
冒険者かぁ。なんか危険だけど自由に働けそうなイメージだ。簡単な依頼もあるだろうし、結構自分に合ってるかもな。
「なるほど。ではそうしたいと思います。アドバイス、ありがとうございます」
「いいえ、当然のことですわ。では冒険者になられるのでしたら、是非こちらをお持ちください。私が身分を保証するという証明書です」
「え、いいんですか?」
「はい。冒険者はギルドにその仕事ぶりや人格が認められるまで、まともな仕事を回してもらえないのです。ですが、こちらの書類があればそのようなことは無くなると思いますわ」
まじか。仕事が選べないってかなり厳しいもんな。これは本当にありがたい。
「それではありがたく頂戴します。心から感謝します」
俺が頭を下げて礼を言うと、王女様はまた恥ずかしそうにしている。
いい子だな。推せるわー。
そんなことを思っていたら、いつの間にか城の出口まで来ていた。王女の姿を見て、門番は慌てて敬礼する。
「では、どうかお気をつけて。そのうちお伺いしますわ!」
「はい、それじゃあまた」
俺は王女様と別れの挨拶をして城を出た。
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