おっさんプログラマーの異世界業務日誌
深海生
第1話 俺のスキルはチートらしい
どうやら俺こと
さきほど王を名乗る人物が勇者召喚の経緯を説明していた。曰く、世界は魔王の侵略を受けており、人類は劣勢に立たされている。そこで強力な力を持つ異世界の勇者達を召喚したと。
俺の他にも、若い男女十名が一緒に召喚されていた。彼らが着ている制服は近所の高校のものだからそこの生徒だろう。
みんな今の状況に驚いているようだが、それでも王の話を真剣に聞いていた。
初めは異世界転移なんて信じられず夢かと思ったが、どうやらそうじゃ無いらしい。自分の頬を幾らつねっても目が覚める気配はない。っていうか凄く痛い……。
なんでこうなった……? さっきまで家で仕事をしていたはずなのに……。
いや、テレワークでずっと家にいると気が滅入るから、気分転換に喫茶店で仕事をしようと出かけたんだったな。ちょっとお洒落な店に入って席に着いたら、たまたまキャッキャ盛り上がっている高校生集団のテーブルの隣。そこでコーヒーを飲んで一息ついてたら突然光に包まれて、気づいたらここにいた。
……もしかして俺、巻き込まれただけなんじゃないか? なにせ俺なんてどこにでもいる普通の社会人だ。平日はスマホゲームの開発をして、たまに休日も働いちゃったりする、仕事が好きなだけのアラフォーおじさんだ。
隣の高校生なんて若さでもうキラキラしてて完全に主人公感出てるし、絶対この子達が勇者でしょ……。
「魔王の軍勢はすぐそこまで来ている。どうか君達の力を貸してくれぬか?」
「ちょ、ちょっと待てよ。オレ達はそんなこと知ったこっちゃない。今すぐ元の世界に戻してくれ……!」
「……そ、そうだ! 魔王と戦うなんて、ありえないだろ!?」
高校生が王に向かって文句を言っている。……そりゃあそうだよな。随分勝手な話だし、俺だって元の世界に戻りたい。
しかし、返ってきた答えは無情なものだった。
「それはできん。異世界召喚を行うために必要な魔力は膨大なのだ。再び行えるようになるのはかなり先になる。……早くても一年後じゃな」
はぁ!? 一年後!?
「そ、そんなぁ……」
落胆する高校生。俺も同じように心底がっかりした。一年か。
そんなに長い間プログラミングができないなんて……。
すぐに思ったのがそれだった。
俺がプログラミングを始めたのはちょっと遅くて、社会人になってからのことだ。当時スマホが流行り始めたから、ゲーム好きだった俺はスマホゲームを作ってみたくなったのだ。もし面白いのができたら一儲けできるかもっていう下心ももちろんあった。
別の仕事をしながら、プログラミングの基礎とか、専門知識とか、覚えることがいっぱいあって大変だった。けどいちおうRPGゲームのキャラクターを作って、初めて剣を振らせた時、もう言葉では言い表せないほど感動したのだ。すごく小さなことに聞こえるかも知れない。けど、俺は途轍もなく大きな衝撃を受けたのだ。
それからはもうハマりにハマった。仕事が終わったらすぐに家に帰ってゲーム作り。休日もその時間に当てた。そして三ヶ月で作ってリリースまでした。全然人気は出なかったけど……。
最初は一儲けしてやろうというのが目的だったけど、いつの間にかプログラミングすること自体が毎日の楽しみになっていた。
その後、ゲーム開発の経験を活かしてゲーム会社に転職できた。それから今日まで、仕事でも休みでもプログラミング三昧と言っていい毎日だった。
なのにしばらくできないのかぁ……。つまらん。つまらなすぎて死んでしまいそうだ……。
心底がっかりする俺をよそに、王は話を続ける。
「君達を呼び出したのはこちらの勝手な都合である。ゆえに、できる限りの支援を約束しよう。では早速スキルの鑑定を始めようではないか」
スキル……? この世界、スキルがあるのか。まるでゲームの世界だな。
いつの間にか、透明な水晶玉が俺たちの前に運ばれて来ていた。
「誰が協力するなんて言ったんだ!? ふざけるな!」
高校生の一人が激怒して叫ぶ。
気持ちは分かるが、王に対してそんなことを言うと──
「おい貴様! ベルクヴァイン国の国王、レオポルド・フォン・ベルクヴァイン様になんたる口の聞き方だ……! この場で叩き切ってやる!」
貴族らしき男が青筋を立てて激昂すると、俺達の周りを兵士が剣を抜いて取り囲んだ。
怖えぇ!
「「きゃあああ!?」」
女子高生が悲鳴を上げる。他のみんなも怯えた様子だ。
「待てゲオルク! 我が国の救世主に何をするつもりだ!」
王が一喝すると、ゲオルクと呼ばれた男は「申し訳ありません」と頭を下げた。兵士達もそれに合わせて剣を収め、頭を下げた。
「驚かせてすまなかったな、勇者達よ。後からこやつらは厳しく叱っておくゆえ、先ほどの無礼は許されよ。もしそなた達が協力してくれるのであれば、それ相応の礼はするつもりじゃ」
王がそういって指をパチンと鳴らすと、金銀財宝の乗った台車が運ばれてきた。
「無論、これだけではない。大きな功績を残した者には更に素晴らしいものを与えよう」
王がそう言うと、彼の後ろに控えていた超絶イケメンと超絶美女たちが一斉に前に出て、優雅に挨拶をした。
身なりからして王子と王女かな。ん、もしかして今の流れだと、良い働きをすればこの人達もくれるってこと……?
「どうか、この国を救ってくれないだろうか?」
王は頭を下げる。
今のやりとりで高校生達の目の色が変わった。金銀財宝に釘付けの者や、王子と王女に目を奪われている者ばかりだ。
「こ、こんな綺麗な王女様が困ってるなら仕方ないか……」
「た、確かにな……」
そんなことを言い出す男子も出始めた。
……ふむ、この国ヤバいな。アメとムチを使い分けて、俺達の思考を誘導しようとしている。最初に武力というムチで怖がらせておいて、そのあとに褒美というアメで関心を引き、『お願い』を聞かせようとする。断るという選択を考えさせないようにしているんだろう。
随分慣れた感じもするし、こういう交渉事はよくやってるんだろうか。まあ王ともなればこの程度、日常茶飯事なのかも。
とりあえず、こういう怪しい相手からは逃げるのが一番な気がする。はっきり言ってやり方が気に入らない。でもどうやって……? 仮に逃げたとしても、一人で生きていけるのか……?
「そう言ってくれるとは、なんて頼もしい勇者達だ! では早速スキルの鑑定に移るとしよう」
王の言葉を合図に、高校生達が次々と水晶玉に触れていく。まずは言うことを聞くしかなさそうだ。
どうやら水晶玉はスキルを鑑定できるらしく、高校生達がもつスキルが次々と明らかになっていく。
聖剣術と筋力上昇、神速抜刀術と技量上昇、聖光魔法と魔力上昇、精霊魔法と知力上昇などなど、基本的にスキルは二つずつ持っているらしい。
「珍しくて強力なスキルばかりだ!」
「噂通り、勇者様はスキルを二つ持っているのか! すごい……!」
周りから賞賛の声が口々に漏れ、高校生達も満更ではない様子だ。なんか聖剣術とか聖光魔法とか、完全に彼らが勇者じゃん。確定だよこれ。
ついに俺の番になったので水晶に触れた。すると、上方にスキルが浮かび上がった。
〔プログラミング 解析眼〕
……え? プログラミング!?
「おいおい、プログラミングって……。この世界にパソコンなんてないだろうし、もしあっても異世界でそんなことしてどうすんだ……?」
「確かに……。大丈夫かな、あのおじさん……」
なんか高校生達から心配そうな目で見られてる……。確かにパソコンがなきゃプログラミングなんてできない。けど、実は心当たりがある。もともと喫茶店で仕事しようと思ってたからバッグに入っているはずだ。この世界でも使えるか分からんが……。
「プログラミングという言葉は初めて聞くが、この世界では役に立たぬものなのか?」
王が俺に聞いてくる。どうやらさっきの高校生の言葉で、王も心配になっているらしい。
実際どうなんだろう? 役に立たないように見えても、スキルって使い方次第で化けたりするパターンもあるだろうし。
なんとかスキルについて調べられないものか。あ、もう一つのスキルの解析眼って、なんか鑑定系のスキルだったりして。これが使えればなにか分かるかも。
適当に、解析眼、発動! なんちゃって。
……おおおおおっ!?
なんか少しだけ世界の色がグレーに変わった。そして、今俺が見ている水晶玉の上の文字だけがくっきりと視界に映る。どうやら解析眼のターゲットだけが色づくらしい。
解析が終わったのか、ピコンッ!と視界に説明が表示される。
〔世界に一人しか持つことを許されないユニークスキル。プログラミングによりスキルを作成または改変することでき、そのスキルは対象にインストール可能〕
……え、スキルを作れる? それってチートなんじゃ……?
い、いや、落ち着け落ち着け! まだ分からないことばかりだ。色々確認してみないことには断定できない。でもこのスキルがあれば、なんとか一人でも生きていけるかもな。
多分、役に立たないと思われているだろう今が、この城を安全に抜け出すチャンスだ。後になって勝手に抜け出したら最悪捕まってしまうかも知れない。相手を納得させた状態でこの城を去るべきだ。
ここからの交渉次第で俺の運命は大きく変わるぞ。
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