第3話 とある運送業者の話

 え、取材? なんの? ・・・オカルト雑誌?  取材なんて初めてだから緊張するなぁ。

 まあ確かに、トラック運転手として全国あらゆる所走り回ってるから、そういう話の一つや二つ持ってることには持ってるよ。んじゃあ一丁、とっておきの話を・・・・

 ・・・・え、⚫⚫町の話はないかって? おいおい、俺のとっておきの話っていうのもその町での話なんだよ。よく分かったな。

 ・・・あの町の話で特集を組む? あー、確かに、あの町はなんというか・・・異様というか不気味というか・・・、とにかく、雑誌の特集組めるくらいはそういう話多いだろうからな。・・・でも、俺の話はその特集の目玉になれるようなスゲェ話だからさ! 期待してくれよ! さて・・・・。

 ゴホン、えーっと、あれは・・・・、そうそう、クリスマスイブだ。雪がちらほら降ってる中俺は⚫⚫町に通ってる県道を走ってたんだよ。本当はその日のうちに⚫⚫町から隣県に抜けたかったんだけど、昼間に立ち寄った建設会社の社長に昼飯誘われてさ。積み荷下ろすだけの筈が余計時間食っちゃったんだ。んで、なんとか今日中に抜けようと思って急いだんだけど、隣県に繋がってる道路は冬期制限で夜の七時までしか開いてなくて、ギリギリ間に合わなくって。配送自体は明日の昼まで余裕あるからよかったんだけど、その日の夜をどこで過ごそうか困っちゃってさ。いつもならどっかのコンビニにでも駐めて車中泊するんだけど、そんときに限って毛布とか持ってなくて、クソ寒い日のクソ寒い車ん中で何も着ずに寝るなんて嫌じゃん? だからどっか素泊まり出来るとこないかなーって探してたら、あったのよ。走ってた県道から逸れて少し行くとその町のシンボルみたいな・・・何だっけ・・・・、あ、薬師山だ! その山に続いてて、その麓に大きめの温泉旅館があったんだよ。⚫⚫町は観光出来るとことか全然無いつまらない町だと思ってたから、そんな温泉に旅館まであるなんて知らなかったんだよな。それなりに立派で駐車場もかなり広く取られてたんだけど、車は数台しか無くて「クリスマスイブとは言え日曜日なのに誰も居ないのかよ」、とか思いつつ車駐めてそのの旅館に入ったの。そしたら中はすごい綺麗で、わざわざ支配人だとか言う人が出迎えてくれて。外からのお客様は久しぶりで嬉しいですー、今日は全室開いておりますー、クリスマスイブなんでお部屋代半額ですー、とか言われて。なんか不気味なくらい支配人が喜んでたのは引っかかった。でもめっちゃ豪華な部屋に案内されるわご飯は美味しいわ温泉は最高だわで、至れり尽くせりだったな。んで、こっからが本題なんだけど、ご飯やら温泉やら一通り堪能して、さあ寝ようって電気消して布団被ったとき、それが聞こえたんだよ。

「たぁーりなーいなぁー・・・・・」

 って。初めは聞き間違いかと思ったんだけど、結構近くから聞こえんの。なんなんだよって思いつつ起きて部屋を見渡すんだけど、どうやら声は部屋の外から聞こえるんだよ。連日働きづめだったから体は怠くて、正直無視して寝ても良かったんだけど、なんでかその時は好奇心が勝っちゃったんだよな。

 疲れた体にむち打って、部屋を出て、最低限の照明が付いた暗い館内を未だに聞こえる声を辿って歩いてたら、旅館の奥の方にある大広間に着いたの。

 襖は全部閉められてて隙間から光と声が漏れだしてたからこの中に何かが居るっていうのは分かったんだけど、いきなり入っていくのも怖いからこっそり覗いてみようと思って、襖をホントに少し開けて中を見たんだよ。

「たぁーりないーよぉー?」

「すいません! 誠に申し訳ありません!」

 正直、これは夢だと思ったよ。現実な訳がないって。

 アンタさ、時代劇とか大河ドラマ見た事ある? あれでさ、よく畳敷きの大広間みたいなとこで、お殿様とか、大名?とかがふんぞり返ってる前に家臣とか家来の人が並んで姿勢正して話を聞いたり、頭下げたりするじゃん? ははーっ、みたいな。

 正にそんな感じで、さっき俺を案内した支配人が先頭で一人座ってて、夕飯持ってきてくれた人とか、温泉の清掃やってたおばちゃんとか、だいたい三十人くらい? がその後ろで何列かになって座ってんの。

 それで、一番先頭の支配人がずっとぺこぺこ頭下げて謝ってて、後ろの人たちも神妙な面持ちで俯いてて。で、結局支配人は誰に謝ってのかって言うと・・・・

「たーーーーーりーないんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 旅館の従業員達の前には、”化物”が座ってた。

 なんて言えば良いのかな・・・・、真っ白で、体が羽根みたいな毛で覆われてて、熊みたいに大きいんだけど手足は猿みたいで・・・・顔は、黒い点が三つ、目と口の辺りにチョンチョンってマーカーペンで書いた感じ。とにかく人では無かった。

 そいつは猿みたいな手に何か抱えててさ。よーく目を凝らしてみると、人だった。女の子、しかも血だらけの。ヤツの背後には人骨が積まれてて、頭蓋骨が二つ並んでた。

 もう怖くて怖くて。さっき風呂に入ったばっかりなのに全身汗でびちょびちょで、なのに寒気がヤバくて。すぐに逃げ出さないとって思ったとき、謝ってた支配人がこんなことを言い出したんだよ。

「すみませんすみません! 今、新たな餌をご用意してますので! すみません!」

 餌?って少し考えて、それが俺だって気づいたとき、走り出してた。

 すぐに部屋戻って荷物纏めて、汗と涙で顔ぐちゃぐちゃにしながら死に物狂いで旅館を出たよ。

 飛び込むように車に乗って、震える手で何度も間違えながら車のエンジン点けて、ブロオオオォンって音立てて車走らせたとき、ふとミラーで後ろ見たんだよね。

 そしたら旅館の玄関が見えて、そこにはいかにも悔しそうに歯食いしばって拳を握りしめる支配人と、その肩をがっしりと掴む真っ白な手が見えた。

 

 その後俺は無事に県道に出て、県道沿いのコンビニで震えながら一睡もせずに夜を明かしたよ。

 あの化物はなんだったのかとか、支配人はあれからどうなったのかとか色々気になることはあるけど、あれ以来俺は絶対にどんな仕事であれあの町は通らないことにしてるよ。

 ・・・・・どう? 怖かったでしょ?  

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