優しい彼氏

佐々井 サイジ

優しい彼氏

 君島君から告白された夜、萌奈、由芽、朝菜に君島君と付き合うことをLINEグループで報告した。三人からは「おめでとう!」「ウチらのこと捨てないでね」「明日の放課後拘束するからね」と祝福のメッセージをもらった。


 翌日、教室で由芽と朝菜に「おはよう」と言うと引きつった笑いで返され、二人で廊下に出ていった。その後に登校してきた萌奈にも挨拶したけど、聞こえなかったように何も言わず由芽や朝菜のいる廊下に向かっていった。


 放課後、萌奈から「瀬里奈、残れるよね」と言われた。「拘束する」の意味合いはそのままのことだったとその時になって気づいた。


「私が彼氏と別れたばっかなの知ってて付き合ったの、当てつけだよね」と萌奈が言った。

「普通、そんな大事な報告、LINEで済ます? 最低でも電話しない?」

「キミと付き合えて調子乗ってんでしょ」

 

 三人は私を取り囲んで私をけなし続けた。先生が見回りに来て、ようやく終わった。


 体育祭で出る種目は二人三脚リレーで、ペアは萌奈だった。三人から疎外される前から決まっていた。

 本番を迎え、号砲が鳴った瞬間、引いた足を前に出した。とにかく早く終わりたい。その一心で萌奈の歩幅に合わせた。


 次のペアを目線の先に捉えたとき、視界が斜めに傾いた。 

 萌奈の肩とバトンを持っていて手が使えず、そのまま地面に顔を打ちそうになった。何とか膝を地面につけたけど、勢いで前に倒れた。萌奈は両手をついて転倒を回避した。謝ってすぐに立ち上がり、次のペアを見据えた。


 バトンを渡したあと、萌奈はそそくさと足を固定していた鉢巻を解いた。

 膝を見ると、赤黒い血と砂利が混ざっていた。途端に痛みが走り、グラウンドの端にある蛇口へ足を引きづって向かった。涙が出てきた。三人は笑っていた。


 君島君が私の前でしゃがみこんだ。周囲は「ヒューヒュー」と囃し立てている。


「膝洗ったら保健室行こう」と君島君に言われ、うんと頷いた。

 

 保健室まで付き添ってくれた君島君に、三人から疎外されていることを話した。君島君と付き合ったせいで友達と縁を切られたと思われると思い、今まで言えなかった。君島君はたどたどしい話し方だったのにひたすら頷いてくれた。


「瀬里奈は三人と元に戻りたい? もういい?」


 もういいかなと答えると「わかった」と君島君は言った。


「安心して。明日には瀬里奈とあの三人の立場を逆転させるから」


 保健の先生に消毒して絆創膏を貼ってもらった。出血ほど傷は深くなさそうだった。君島君はまた私の前にしゃがんだけれど、冷静になってきて皆の前でおんぶされたことが恥ずかしくて、断った。


「痛いだろうけど歩けるくらいで良かったよ」って言ってくれた。優しさにトクンと心臓が跳ねた。


 グラウンドに全生徒が集まっているので校舎はがらんとしていた。玄関でよろめいたら、君島君が両手で支えてくれた。君島君はそのまま私を抱きしめ、初めてキスをした。


 夜、君島君とキスしたことを思い出し、ベッドにうつ伏せになり足をバタバタさせた。膝が痛んだけどついニヤニヤしてしまった。


 インスタグラムを見ていると「K高生の闇を暴露」というアカウントがおすすめに出てきた。私の高校だった。アカウントの画面を開けると、体育祭の二人三脚の写真が投稿されていた。顔はぼかされていたが、私と萌奈の二人三脚の写真だった。私の肩を組んでいるはずの萌奈の手が不自然に背中を押していた。こかされた証拠写真だった。


 次の写真はプリクラだった。目に黒い線が入れられているが明らかに萌奈、由芽、朝菜だった。三人とも中指を立て「●●●ざまあ! 計画通り」と丸文字で書かれていた。コメント欄はすでに三人が特定され、「クズ」「同じ目にあっても知らね」「こいつら前にも違う子いじめてた」と炎上していた。


 翌日学校に行くと、三人とも欠席だった。君島君が耳元で囁いた。


「な、立場が逆転しただろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

優しい彼氏 佐々井 サイジ @sasaisaiji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ