第2話 親友
「……ってことがあってねぇ! ハルカが! ハルカちゃんが! 男だったんだよぉおおお!」
「ありゃ〜。それは大変だったねぇ、ゆぅくん。よしよし、お姉ちゃんがもふもふおっぱいで慰めてあげるねぇ〜」
「ナナ的には最大のライバルが減って万々歳だわ。バイバイ、お兄ちゃんの初恋のハルカ!」
「あああああああ!」
お土産の温泉饅頭を頬張りながら、姉は俺を抱きしめてよしよし、妹は呑気にお茶を啜っている。
「で、どうだったの? 温泉は」
「満天の星空の下、露天風呂が最高でしたよぉぉお!」
「ハルカちゃんは?」
「ちゃんと男の子でした!! ああああ!」
「じゃあこれからはマブダチだ。両片想いの幼馴染同士じゃなくてね。ぷぷっ」
「ナナ、お前ぇぇ!」
これ以上傷口をえぐらないでくれ!
そりゃあ、男とはいえハルカは露天風呂じゃあ誰もが振り向き二度見するような美少女、いや、美少年っぷりでしたよ!
上気した頬が艶っぽくて、「星が綺麗だね」なんて言われたら思わずドキっとしてしまうような美少年でした!!
「でも! 俺の! 恋愛対象は女の子ぉぉお!」
「もはや半狂乱だねぇ」
「いいじゃない、ミチル姉も。お兄ちゃんが帰ってくるなり抱きついてくれてさっきからニッコニコ」
「だってぇ〜! 玉砕したゆぅくんも可愛いんだもん! ねぇ、もうハルカくんのことなんて忘れて、いっそお姉ちゃんにしない? 初めてはお姉ちゃんと♡」
「あ〜、ズルい! それならナナだって、もう大人の身体だもん! ね、お兄ちゃん♡」
「どっちもアウトだろぉぉぉ!?!?」
リビングで泣き叫ぶ俺を、「ごめんママも知らなかった(てへぺろ」で済ませる母。
「にしても、ハルカくん美人よねぇ。もういっそハルカくんに交際を申し込めば? ママは同性婚でもオッケーよ」
「オッケーじゃないよぉぉ!」
だが。思い返せば、ハルカが中学の頃プールの授業を受けている記憶がない。
ハルカは何かと理由をつけて、体育の授業を休みがちだった。
まぁ、今更気づいたところで時すでに遅しだけどな。
さっきの別れ際だって、
「これからも、ずっと仲良しでいてくれる?」
と上目遣いで聞かれたら「もちろんだ!」しか言えなかったし。
「本来ならあのとき告白する予定だったんだよぉお!」
で。今頃、「昨晩はお楽しみでしたね」な感じになっている予定だったのに!
今は! 姉の膝の上で膝を抱えている!
「
「あ〜ん♡ ゆぅくんにそうやって甘えられるのいつぶり? お姉ちゃん、なんでもお願い叶えてあげちゃうよぉ♡」
そうやって、ミチル姉は俺の顔におっぱいをたぷんと押し付けてくる。
ああ、もう姉ちゃんでいいかな、美人だし。なんて。
「もう好きにして……」
そう呟くと、姉妹はぎらりと瞳を輝かせる。
ああ、近親相姦とか気にするか。もうどうにでもなれよ。
半ばヤケクソになっているところに、スマホの通知が届いた。
『昨日の旅行、どうだった?』
親友の友也だ。
友也は中学からの大親友で、これまで何度もハルカに対する想いだったり関係だったりを相談してきた仲だ。
今回の件も事前に「ゴムってどこで買うの?」とか相談していたし、報告する義務はあるだろう。
「ちょっと、電話してくる……」
部屋に籠ってスマホを手にする。
温泉旅行の事の顛末を話すと、友也は「なんだそれぇ!?」と仰天して、これから会わないか? という話になった。
◇
夕方過ぎ、駅前のマックで待ち合わせしてかくかくしかじかと、俺は玉砕した旨を話した。
友也は笑うでも同情するでもなく、ただただ親身になって話を聞いてくれた。
それが嬉しくて、友也が俺よりイケメンで隠れモテメンであるという事実を忘れてしまいそうになる。
そう。友也は元々色素が薄く、バレンタインには思わず嫉妬するくらいのチョコを手にする男だ。
そんな友也と俺がなぜ仲がいいのか。それは、中学の入学式の日に、緊張して教室に入れないでいた友也に声をかけたという、なんでもないひょんなきっかけだった。
「
そう言って、友也はナゲットを口に放り込む。
だが、次の瞬間。
思いもよらない真剣な表情でたずねてきた。
「朱鷺宮にさ、性別のこと隠されてたって知ったとき、どんな気持ちだった?」
「え?」
「裏切られたって思った? 朱鷺宮のこと嫌いになった?」
その問いに、俺は食い気味に返す。
「それはない! たとえ性別が男でも、ずっと仲の良かったハルカはハルカだし、思い出は消えて無くならないし、絆だって……消えて欲しくないよ。ハルカだってそうだと思う。『これからも仲良くしてくれる?』ってハルカに聞かれて、正直安心したし、嬉しかった気持ちに嘘はない。俺はハルカと、これからも仲良くしていきたいと思うよ」
そう返すと、友也は「あはは! 悠は本当にいい奴だなぁ!」と背をバシバシ叩いた。
そういう友也こそいい奴だと、俺は思う。
「じゃあ、俺もバラしても問題ないかなぁ」
「へ? なに、を……」
「悠。俺、実は女なんだ」
そう言って、友也はこっそり、周囲からは見えないように、冗談っぽく胸を触らせてきた。
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