第6話 出逢い
時計でもあれば助かるのだが、生憎私は盲目。それに目が見えたとしても此処には時計塔なんかも無いし、あるのはアストラエアの加護が施された大鐘楼だけ。
手詰まりか。
いや、諦めるにはまだ早い気もする。新入生が何処に集まるかさえ分かれば後は教師がどうにかしてくれるだろうが、さて、何方に――。
「やぁ、ゲルマニカ」
「むん? その声は――」
突然人型の魔力を感知。
つまり転移魔法による人の発生。声のした方へ振り向けば、両脇に手を差し込まれて持ち上げられる。今の体は嫌いじゃないが、こうも簡単に大人に扱われるのは難点と言える。
「迷子かな?」
「ああ。時間を潰すには良かったのだが、生憎今の学園については理解が無くてね。せめてお前の部屋だけでも教えてくれれば、今後は転移魔法で移動するんだがな」
「あはは、それなら後で私の部屋に案内しよう。それと、新入生の集まる部屋は掲示板に貼ってあるけど、その様子だと気付かずに来たみたいだね」
「むっ、あっても見れないからな」
「そう不貞腐れないでよ。さて、迷子のお姫様を案内しようか。こうして君を抱えながら歩くのは……二年ぶりかな? 時が経つのは早いねぇ。あっはっはっ」
「ふむ、相変わらず楽しそうだな。ジャック」
「人生は楽しさというスパイスが必要なのさ。私達エルフには特に、ね」
学園長直々の案内によって迷う事なく新入生が集まるとされる空き部屋に案内される。
まさか正反対の位置を彷徨っていたとは。目が見えないのはどうにかなるが、文字が即座に分からないのはどうにも――これだと目が見えないのはどうにもならないのと同義か? いや、見えずとも私は問題無く過ごせるから考え過ぎか。
「君については知ってるけど、良い学園生活を」
「ああ、私も楽しみにしている。ジャック、君を楽しませてみせよう」
「……かの七帝からそう言われるとはね。これだから子供を見守る仕事は辞められない……! 可能性を、私に見せてくれるかい?」
「約束しよう」
「あはっ、そうかそうか。それではここで一度サヨウナラだ。私は学園長だからね。挨拶があるのさ」
下ろされて頭を撫でられる。転移魔法で気配が消えたのを感じ取って扉に手を伸ばすと、電流の様なものが流れた。思わず手を離しそうになるも、そのまま扉を開けば誰も居ない教室が待っていた。
教室に踏み入る瞬間、三騎士の力を感じたから此処でクラス分けをしているのか。結果、私にはアストラエアの加護が流れたといったところかな? 流石に新入生が一人も居ないというのは不自然だ。
私の様な特異な出自は真面な存在ではない。
ならば博愛精神を持つアストラエアの加護に選ばれるのも頷ける。それに近くには、それなりの魔力反応がある。
恐らくソレ等が新入生。
「むぅ、椅子に座ったは良いが、する事もないな」
入学式開始までどれだけの時間が有るのかは分からない上に、誰かが来ないとも言い切れないから眠る気分にもなれない。
机の中に一冊の本があるから、それを読んで過ごすとしようかね。本を手に取って開けば、普通の健常者が読む様な本で、読み取り魔法を指先に灯してなぞると文章が頭に流れてくる。
一章ほどを読み終えた時に体を解す為に伸びをしながら魔力を放てば、この部屋の隅に一つの生命反応。私以外にアストラエアの加護を得られる存在が居る事に驚きだが、魔力の巡りから常人では無いと読み取れる。
エルフか、ドワーフか、はたまた別の存在の可能性が高い。私としてもそういう普通の人間以外の種族とは極力仲良くしておきたい。そういう存在の血は得てして非常に有用な触媒足り得るから。
十七人の系譜ではない。
それは私の瞳――というか魔力の調べで分かっている。創設者の誰にも似ていない反面、魂に負担無く強力な力が施されている。それも意識して使えるレベル。
所謂
「君は何者だ」
私が近寄れば疲れた様子を見せるも、生憎私は盲人。見えていないのだから仕方がない。此処で綺麗な黒髪紅眼だと告げても良いが、それをしては私は瞳を隠す謎の存在になってしまう。
世ではそれを変質者と呼ぶらしい。その様な称号は不要だ。
「そういう君は? 俺は――」
「ベルーガ・ゲルマニカだ。よろしく」
「……ノクシャス・スパロウだ。君は、その……目が見えないのか?」
「ああ、全く見えないな。だから君について知りたいと思ってしまったんだ。魔力に敏感かな? 違うのか。それなら安心だ。私は常に魔力を放って周囲を理解しているからな」
「そうか。六年間よろしく頼むよ」
「こちらこそヨロシク。それじゃあ、君はこれからノックスだ。その魅力的な牙は私の知識では人狼と吸血鬼だが、君は何方かな?」
「……吸血鬼だ」
これは想定外の人材を手に入れられたのかもしれない。三騎士の加護が無ければ寝床は私が用意するしかないだろうし、恩を売ればその血を頂けるかもしれない。
それに、常識から外れている存在は嫌いじゃない。
私達七帝も最初はそういう集まりだった。アストラエアが受け入れていなかったら今の様な魔導界にはなっていなかっただろう。
「それにしても、入学する生徒は少ないんだな。魔力は多くあるのに此処には俺達しか――」
「違うな」
「は……?」
「気付いているのだろう? 君や私は普通ではないのだよ。それを知らぬ愚図には見えない。隠せると思ったか? 残念だが私には君が良く視える。その魂さえ鮮明に、ね。だからノックス、素直に君の出自を明かしたまえよ。私は君がどれほどの存在であったとしても受け止めてみせよう」
私の言葉は効いたのかノックスは隣の椅子を引いて私に座る様に促した。諦めた様な笑顔を浮かべているが、私は全てを知る存在では無いから隠したければ隠せば良いのに――ソレは口にしないけど。
「信じるかは自由だが、俺は二度目の人生を歩んでいる。転生と言えば良いのかな。一つ前の世界では魔法の研究をしていてね。その時の力とかが今に引き継がれてるんだ」
「ふむ、面白いな」
「ああ、それで……前の世界では神様が普遍的に存在していたんだ。魔法使い達は不老不死を一つの終着点にしていたんだが、とある組織が神を使った非道な研究をしていた。俺と仲の良い神がその巻き添えを食らって、命と引き換えに助けたら今に至るって訳さ」
「ふむふむ、その特異な魂は神様を救った故に得た、そう解釈して良いかな?」
「ああ、まぁ、俺からすれば運命を変える力だよ」
それだけ美しい魂の在り方は正に運命を変えるのかもしれないが、私と出会ってしまったのは間違いだったかもしれない。
私は君を利用するよ。同じ加護の下に在る存在として他の新入生とは違った感情も君に向けているが、魔導師の本質は究極的な独りだと私は考える。だからこそ私は――。
「鐘……綺麗な音だな」
「時間の様だ。部屋を出よう。待ちくたびれたツマラナイ入学式の始まりだ」
部屋を出ると百には届かないが、若々しい魔導師の卵が出揃っていた。どうやら引率者は一人らしく、簡潔に着いてきなさいとだけ告げていた。
自然と二列が三組出来て動いていたから私は動こうとするノックスを押さえて最後尾を二人で悠々と歩いた。
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