第4話 念には念を
絵画の中で助かった。
外でやっていればホブゴブリンが医者を呼び出して私の魂に関する力を開示せねばならなかっただろう。
誰だって秘密にしておきたい力はあるだろう? 私はそれが魂に関わる事なだけ。前世が暴かれても私に何の痛痒も無いが、魂を自由に扱えるとなれば研究施設が私を捕らえにやってくるだろう。
自身の改造が終わったのを認識して、立ち上がる。
魔力の感知は今までよりもスムーズで、体には熱い何かが流れるのを感じる。前世の力も扱えるのは分かっていたが、こうして実感させられると何でも出来そうな万能感を覚える。
しかしそれでも、アストラエアには及ばないだろうが。
「ふむ、魔導の一つでも放っておきたいのだが、誰ならこの感覚を理解してくれるだろうか」
単純な魔導ではツマラナイから、杖を剣に変えて持ち手を握り直す。龍血が満たされた今、私の
刃に魔力を流して炎へ変える。
魔力の属性変性は魔導師なら出来て当たり前の技術であり、今の私が剣に宿す炎は数千度を超える大火力。剣を無造作に振って斬撃を飛ばせば、暗い世界は照らされたのだろうが、生憎私の瞳には映らない。
されども満足感は得られる。絵画世界が壊れていない事を確認してから外に出て、ソファに腰掛ける。
「ふぅむ……ホブゴブリンも強化しておくか?」
家を当分空けるとなれば護りが堅いに越した事は無い。我が家には様々な禁書と呼ばれる魔導書や魔道具があるから、ホブゴブリンに日頃の感謝を伝えると同時に少しだけ、細やかなプレゼントをしよう。
あいつが私を前にして、魂の変質をどう耐えるのかも気になる。執事の真似事をする存在がその態度を崩すだなんて、面白そうじゃないか。
呼び鈴を鳴らせば直ぐにホブゴブリンが来る。
手紙は書き終わってレーヴァンに持たせて休憩していたのか僅かなコーヒーの香りがする。飲めないが、その香りは嫌いじゃない。
「何か御座いましたか?」
「ふむ、少しな。立っていられるとも思えないから、座ると良い。日頃の感謝さ。世話になっているからなぁ」
「は、はぁ」
困惑しているが、無視。
立ち上がってホブゴブリンの前に立つ。これに耐えられなかったら新しい奴を雇うだけ。こいつに比べると、どの個体も劣るだろうが、仕方の無い犠牲というやつだ。
「手を取れ」
「……かしこまりました」
手に触れた瞬間、かつて勇者として仲間と共に何体も屠った龍の魂を与える。触れた感じだとホブゴブリンに存在する許容量は魂二つ分。
それがどれだけの進化を促すかは分からないが、魂を流し込んむと何かに耐える様にホブゴブリンは私の手を強く握った。
「私の
「グッ……か、かしこ……まりッ……!!」
まさか喋れるとは。
耐える姿というのは良い。私は何かに耐える姿を見るのは嫌いじゃない。この瞳から光が失われていなければ、今のホブゴブリンを見て私は満足していただろう。
魔力でしか視えないのが残念だ。
苦悶の声が漏れるのを必死に堪えるホブゴブリンを思わず抱き締めそうになったが我慢して、ある程度落ち着くのを待つ。
「終わったらしばらく休むと良い。私とてそこまで鬼では無い。何なら私が――」
「ゲルマニカ様のお手を煩わせる訳にはいきません」
「……終わったか。早いな」
「それにしても何をしたのですか? 妙に体が軽くて、若返った気分です」
「そういうものだ。ふむ、後は自由にすると良い。私も少し疲れていてね。今日の夜は冷たいココアが飲みたい」
「かしこまりました。それでは、失礼致します」
時間にすれば三十分程度か? 個体によって痛みを覚える時間は変わるのかもしれないな。
それにしても、私は一つ思い付いてしまった。
虫の帝、龍血の勇者、今世の異能。
この人生で死んだとして、次に記憶を保持したまま生まれる可能性は低いだろう。それは面白く無い。それにこうして生まれたのならば、何か意味があると私は思う。
ならばどうするか。
老いて死ぬのも、世界の為にと犠牲になるも、もう経験したから赦されるだろう。
私は不死の恐ろしさは知っている。不死殺しをした際に彼等が私に感謝した事は忘れられない。だから魔導師としての高みの一つ、不老不死――ではなく不老を目指そうじゃないか。
学園に行けば触媒は有り余る程に、そして私の体にも龍血という触媒が流れている。これを利用しないというのは、魔導師を辞めたと言われても反論出来ない。
学生の間に不老を目指そう。
若い体のままで居られる様に成果は早めに出さなくてはな。その為にも、現存する不老不死の論文を集めなくてはならないな。集まらなくとも、最終手段として
ホブゴブリンを酷使するだろうが、今のあいつになら片手間に終わる事案だろう。
「学生生活が楽しみになってきたな。ジャックもまさか私がこんな夢を抱いているとは思うまい。奴は長命種だからなぁ。羨ましい限りだ」
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