第7話-1 書人も家族である
その日、ジュスティは金属が打ち合う音、そして何かが地面に落ちる音で目を覚ました。人の姿に戻ったジュスティの他にテントの中には人はいなかった。ジュスティは目を擦りながらテントから出ると、テントの側に座っているラピュがジュスティに気付いた。
「おはよう」
「おはようございます……。ラピュさん起きるの早いですね」
「さっき起きたばかり」
そう言ってからラピュは視線を移した。その視線を追うと、その先にはロプとジャンがいた。お互いにその手に剣を持ち、主にジャンのほうから斬りかかっているようだ。
ロプの手には普段はジュスティが持っている剣があり、ジャンの手にはジャンが持ってきたという愛剣がある。
ジャンは地を蹴りロプに向かって行く。剣先は下を向いており、どうやら下から上、もしくは横に薙ぎ払うつもりのようだ。ロプは小柄であるから上から振り下ろす動作をすれば懐に入られて逃げる隙も無く斬られるだろう。そう考えるとその狙いは正しいようにジュスティは思った。
「はぁあああ!」
ジャンは声を上げ、その剣を横に振るう。その動作はどこか力が入りすぎているようにジュスティには見えた。ロプは跳躍してその剣を避け、ジャンの頬に蹴りを入れた。
「あぶっ」
ロプの蹴りを受けたジャンは地面に倒れる。軽い蹴りに見えたが見た目以上の力が入っていたのか、ジャンは地面をしばらく滑って転がった。
地面に着地したロプはスカートの裾を正し、ジュスティに目を向けた。
「おはようございます、ジュスティ。よく眠れましたかしら?」
「お、おはようございます主。よく眠れはしました。それで、主とジャン殿は一体何を?」
ジュスティの問いにロプは剣を鞘にしまい肩をすくめる。
「いつものように起きて身体を動かしていましたら、起きてきたジャンが相手してくれと言いまして。ジャンも久しぶりだと言っていたので少し手加減をしたのですが」
そう言ってロプは地面に転がっているジャンに冷めた目線を向ける。
「口ほどにもありませんでしたわ。習っていたと聞いてましたのに」
「……な、習ってたのは本当だ。10年前だけど」
「ってことは、貴方が町を変えてからは剣を握っていなかったってことね?」
「ああ。その前にはちゃんと剣の先生がいて色々教わっていたけど、先生が別の国に行かなきゃいけなくなってからは自主練してたんだ。いずれ戻るとは言われていたし。……でも、そう考えると、先生がいない隙を狙って盗賊が来たのかもしれないな」
服についた土埃を払い、ジャンは立ち上がった。剣を鞘にしまうところをを見ながら、ロプは首を傾げた。
「もしかして、貴方の師は大剣使いではなくて?」
「よくわかったな」
「貴方の剣の振り方が大振りすぎるのよ。10年以上前なら幼い貴方にその剣は大きかったでしょうね。恐らく成長したら大剣が贈られて、それを使用していく予定だったのかもしれないわ」
ロプの言葉にジャンは己の剣を見る。使い込まれた様子の剣は今のジャンでは軽々と振れるものだろう。ただ、上手い使いかたを知らないだけであり、学べば今よりも強くなりそうだ。
「貴方がよければ剣の使いかたを僕が教えるけれど、もしくは次の町で大剣を探すのもいいとは思うわ」
「……そうだな。それなら大剣を新しく買いたい。先生の教えを無駄にしたくないからな」
そう笑んでみせたジャンにロプは満足そうに頷いてみせた。
テントを畳み、朝食の準備をしている途中でジャンはロプを見る。
「ロプは剣術すごいな。誰かに指南してもらったのか?」
「……そうよ。剣術と旅に関する事も教えてもらったわ」
「へぇ、何年ぐらい?」
ジャンの問いにロプは少し考えてから答えた。
「5年ぐらいかしら。その後、師匠と一緒に旅に出て、その道中でも学んだからもっと長いとも言えるわ」
しばらくしても何も返答が帰ってこず、ロプはジャンに視線を向けた。そこにいたジャンと、ついでにジャンの側にいたラピュも無表情ながら驚いているように見える。
「何かしら?」
「え、お前何歳?」
「18歳だけど」
ジャンとラピュは何度もロプの頭からつま先まで視線を上下に動かす。ロプの見た目はどう見ても7歳ぐらいの子供に見える。
「……年齢詐称?」
「実年齢ですわ。訳あって身体が小さいだけですの」
「……私と、1つしか違わない……」
「なぜラピュはそんなにショックを受けているの?」
受け入れられない様子の2人の手を見て、ジュスティは首を傾げた。
「それがお2人の朝食ですか?」
その声に我を取り戻したジャンは自分の手に持つものを見た。
「いや、この辺は調味料だよ。朝食はサンドイッチにするつもりだけど、少しでも美味しく食べれるようにしたいからな」
「……調味料」
ジュスティは自分の手に持つ物を見る。硬いパンにバターを塗り込んだだけのものだ。ロプがいつも朝食といえばこれを作るのでジュスティは特に気にしたことは無かった。何か言いたげなジュスティの視線を受け、ロプは眉を寄せる。
「調味料なんて、荷物が増えるのは困るから持ってないわよ。塩があれば十分、バターはたまにあればいいでしょう?」
「いやいや、食は大事だろ。美味しい物を食べてこそ、人生が楽しくなるものだし」
「ん。ジャンは料理上手だから、さらにいい」
ジャンの援護をするようにラピュが何度も頷いてみせる。しかしロプは納得していない様子だった。硬いパンを咀嚼するロプにパンに具を挟みながらジャンは聞く。
「ロプは食に関しては無頓着なのか?」
「そうと言われれば、そうかしら。食べられればいいと思っているところはあるわ」
「ええ……。ジュスティ、お前は家事が得意って言ってたよな。何か美味しいもの作ってあげたりしないのか」
ジャンに話を振られ、パンを食べていたジュスティは口の中の物を飲み込んでから答えた。
「えっと、小生は料理はできないんです」
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