第7話-2 書人も家族である

 4人がやって来たのはディナルターという村だった。


「さて、食料に関しては俺に任せてくれ!」


 村にある商店に訪れてすぐ、ジャンはそう言って胸を叩いた。その言葉にロプは眉を寄せる。


「何か余計なものを買いそうですわね」

「余計なのは買わない。最低限、美味しく食べる為に必要な物だけ買う。俺だって旅に大荷物は駄目なことはわかってるよ。でも、お前の食生活を聞いてると心配になるから、俺が食料に関して管理させてもらうからな!」


 そう宣言したジャンは、早速店の者と何か話しながら食料を買い込んでいく。買ったものはジュスティが抱えていた。


「ちなみに、食べられない物はあるか?」

「嫌いな物はないですよ」

「そうじゃなくて、アレルギーの話。……いや、その反応から見るにアレルギーを知らないか。後で詳しく教えておく」


 そう言いながら、ジャンは店主と値段交渉をしていく。出る幕はないとロプが辺りを見回そうとした時、ラピュがある方向を見ているのに気が付いた。その視線の先にいたのは1人の少年だ。藤色の長髪を1つにまとめている。


「ラピュ? どうしたんだ? あの男にそんな視線を向ける必要は無いぞ」


 ロプと同じようにラピュの視線に気づいたらしいジャンがラピュに声をかける。ラピュは首を横に振り、少年を指さした。


「彼、死の臭いがする」


 死の臭い、その言葉にロプは眉を寄せる。


「彼も、死んだのに死ねなくなっているってことですの?」

「違う、と思う。彼から、というより纏っている、みたいな」

「纏っている? ……彼の側に死者がいるということかしら?」

「多分……?」


 ラピュにもよくわかっていないのか、不思議そうに少年を見ている。ロプもラピュの言葉で少年に対し興味を持ったようだったが、特に行動を移す様子は無かった。

 ジュスティが持っている荷物を鞄に入れようとロプはジュスティの方に視線を動かすが、先程までそこにいたジュスティはそこにいなかった。


「こんにちは。この辺に住んでいる人ですか?」


 あらぬ方からジュスティの声がしてロプはそちらを見る。すると先程の少年の隣にジュスティがいた。突然ジュスティに声をかけられた少年は少し驚いた様子を見せながらも、頷いてみせた。


「は、はい。貴方は旅の方ですか?」

「そうです。今日この村にきたばかりなんですよ。小生は住んでいる人のことを聞くのが趣味でして、もしよければ貴方のことを聞いてもいいですか? 皆さんは普通の事でも別の国では変わったことだったりして聞いて行くのが面白いんですよ」


 ジュスティの言葉に少し警戒している様子の少年にロプはため息をつき、2人に近づいた。


「急にごめんなさい。驚きましたわよね」


 そう言いながらロプは少年に気づかれないようにジュスティの足を踏んだ。ジュスティは痛みに飛び跳ねそうになったがそれをなんとか耐える。


「僕はロプ、こっちはジュスティと申しますの。今日この村に来た旅人ですわ」


 幼い見た目のロプの言葉に少年は少し安心した様子でロプに笑顔を向けた。


「こんにちは、僕はイズキといいます。この村へようこそ」

「ありがとうございます。イズキさんは、お1人で買い物ですの?」


 ロプはそう言いながら周りを見る。

 見るにイズキは10代前半のようだ。周りにも同じぐらいの歳の子はいるが、その子たちは友人と駆けまわっていたり、親らしき大人の買い物を手伝ったりしている子がほとんどで、1人で買い物をしているのはイズキしかいなかった。


「はい。僕の母が足が不自由なので、僕が買い物を担当しているんです」


 そう言うイズキはその買い物が面倒と思っている様子はない。むしろ役に立てて嬉しそうに見えた。

 ロプが何を聞こうかと悩んでいる時、村人が1人近づいてきた。


「いたいた。イズキ君、おばあちゃんが探していたよ。早く帰ってあげな」

「えっ!?」


 村人の言葉にイズキの表情が焦りに変わった。


「ご、ごめんなさいロプさん。僕早く帰らないと」

「いいえ。僕の方こそ足を止めさせてしまってごめんなさい。早く行ってあげてくださいな」


 イズキは何度も頭を下げてからその場から走り去って行った。それを見送ってからロプはジュスティを睨む。


「ジュスティ、もう少し自然に話しかけれるようになってから声をかけなさいな。怪しくて人が逃げてしまうわ」

「す、すみません主。でも、ラピュさんの言葉が気になって」


 そう言ってジュスティは近づいてきたラピュを見る。ラピュは無表情のままだが、首を傾げていた。


「ラピュ、まだ気になるのか? 気にする程ではない男だったよ」

「ん……」


 ジャンの言葉を無視するようにラピュは何か考え込んでいる。これ以上はどうしようもないとロプはラピュの腕を叩いた。


「また会う機会があればもう少し聞いてみましょう。今はとにかく、宿を探しましょう。泊まる場所がない方が困ってしまうわ」


 ラピュは不服そうにしながらも頷き、一同は宿を探しに歩き出した。

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