第4話-6 図録※
その日からしばらく、マリーは解体魔法を完璧に扱えるようになるまで動物の解体を行いました。手に入れた肉は食料にし、売ることもできるので扱いに困ることはありません。
身体検査は変わらず続いてはいましたが、アンドレアスは落ち着いた日々に安堵していました。
そんなある日、解体して余った肉を売ったアンドレアスが町を歩いていると、カランに声を掛けられます。
「久しぶりじゃないか、アンドレアス」
「……あ、えっと、カランさん」
「はは、覚えててくれてたか」
成長したカランはアンドレアスの隣に立ちました。
「最近は家に籠っていた2人が外で見ることが多いって皆が噂してたよ。突然どうしたんだ?」
「俺が解体魔法を覚えたから、動物を試しに解体してるだけだよ。マリーも動物の内臓の位置とか人間との違いとか学べて楽しんでるよ」
「ああ、だから最近動物の肉の売り出しが多いのか。……これをきっかけにもう少し外に目を向けてくれればいいんだけどな」
村よりも大きいとはいえ、この町の住人は交流を大事にする人たちばかりでした。それこそ、全員が友人や家族のようにです。そんな中で1人引きこもっている人物は避けられ、下手をすれば危険人物とみられて町からつまみ出される可能性もあります。
「マリーのご両親もマリーのことを放置してる。むしろマリーをいない者のように扱ってる。……アンドレアスはマリーのこと見捨てないでくれよ?」
「……もちろん。俺はマリーのことが好きだよ。ちょっと嫌なこともしてくるけど、それでもマリーから離れるつもりはない」
「そうだよな。……よかった」
カランはアンドレアスの頭を撫でようと手を伸ばします。しかしその手は空を切りました。
突然現れたマリーがカランから守るようにアンドレアスを抱きしめていました。
驚いたカランが何か言う前に、マリーは声を上げます。
「アンドレアスに触らないで!」
「え……」
「自分の書人がいないからって、アンドレアスを私から奪うつもりなんでしょう!? 近づかないで!」
マリーの声に、周囲の人の視線が集まってきます。
カランは慌てて首を振ります。
「そんなつもりはない! 俺はただアンドレアスと話してただけで」
「うるさい! アンドレアス、帰るよ!」
マリーはそう言ってアンドレアスを抱き上げて家に向かって走り出します。後ろからのカランの声も、耳元から聞こえてくるアンドレアスの声も、マリーには届いていないようでした。
家の中に入ったマリーは研究室に向かい、大きなテーブルの上にアンドレアスを座らせます。
「マリー! カランはただ俺と話してただけだよ! 俺を持っていこうとかはしてない!」
「アンドレアスを奪われるわけにはいかない。アンドレアスがいなくなったらこれ以上知識を増やせなくなっちゃう。それだけはできない。させない」
アンドレアスの声が届かず、マリーは1人で何かを呟いています。アンドレアスがマリーの肩を揺らそうと手を伸ばすも、その手はマリーに掴まれました。
「ま、マリー……?」
「そうよ。奪われる前に、もっと知識を手に入れるためにやらなきゃ。もう十分扱えるようになったのだから、私ならできるわ」
「マリー……っ、い、痛い! 手を離してよマリー!」
アンドレアスを掴むマリーの手はどんどん力がこめられます。
マリーはテーブルに叩きつけるようにアンドレアスの手をテーブルに押し付けます。そして、テーブルに括りつけて置いたロープでその手首を縛りました。
「ま、マリー!?」
「ふふ、ふふふ。大丈夫。ねぇ、アンドレアス、協力してくれるよね? 私の書人、私の物なんだから」
「きょ、協力するよ。知りたいこと、僕の魔法で調べるから、だから、このロープを解いて」
「そうよね。私の物なんだもん。私がどうしたっていいんだから」
マリーは普段から解体時に使っているナイフを手にします。その刃をアンドレアスの手首に向けました。
「マリ……マリー!? まさか、や、やめて! やめてよマリー!!」
「じゃあ、まずはその手の中身から、確認させてちょうだい」
「アンドレアス。大人しくなってくれた?」
「血液は人と変わらないみたいね。足とかも調べたけれど、やっぱり内臓を調査したほうが変化がわかる気がするわ」
「ああ、大丈夫よ。書人は髪の毛を大事にするっていうからね。髪の毛を切ってしまわないように縛っておくわ」
「駄目よアンドレアス。そんなに暴れたら」
「新しい魔法を覚えたのね。でも、こんなの使う機会がなさそうね? 情報を消す白紙魔法なんて、何に使うのかしら?」
「アンドレアス、聞いて。やっぱり内臓は見比べた方がいいと思って、あなたと歳の近い協力者を連れてきたわ。あなたの白紙魔法は便利ね。記憶も消せるなんて、おかげで簡単に協力してくれたの」
「うーん、見た目も配置も違いはないわね。でも、ここまでしてアンドレアスは生きているのは不思議ね。こっちは痛みのせいでか死んでしまったのに」
「んー……肉の柔らかさも味も違いはないわ。育ち方の違いはあるのかもしれないけど、中身は普通の人間と全く同じということね」
「……そうか。書人は人間とは違って死ねないのかしら? そろそろ新しい知識が欲しかったし、あなたの身体から知れることもなくなってきたものね」
「髪の毛はちゃんと縛って上にあげて……。さ、アンドレアス。いくわよ」
「首を切れば、人間は流石に生きられないもの。これで書人が死ぬかどうか、わかるわ」
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