第4話-2 図録

 町の大きな公園は迷うことなく辿り着くことができた。2人が辺りを見渡していると、丁度休憩中らしい、ベンチに座っている暗い赤髪の男を見つけた。


「すみません、ちょっといいでしょうか?」


 ロプが声を掛けると、男はベンチから腰を上げ、そしてロプと視線を合わせるようにしゃがんだ。


「どうしたんだい、お嬢ちゃん。迷子かい?」


 ロプは顰めそうになる顔を堪え、笑顔のまま言葉を続ける。


「町の入口にいた警備の人から、貴方は書人のことを知っていると聞きまして、話を聞きに参りましたの」

「書人のこと?」

「ええ。僕は人から頼まれて書人を探して集めておりますの。お話いいかしら?」


 男は少し考えてから、ロプの後ろにいるジュスティに視線を向ける。ジュスティは何も言わず頷いてみせた。


「んー、確かに俺は家族に書人がいたけれど、今はいないよ。お嬢ちゃんの探す書人はわからないな」

「……では、この町にはもう書人はいない、と?」

「うん……あ、いや」


 一度頷いた男だが、何かを数えるように指を折り、それからロプに改めて視線を向けた。


「俺の幼馴染が書人と暮らしているよ。期間的にもまだ一緒に暮らしているはずだ。……最近は姿を見ないから憶測になってしまうけどね」

「そうですのね。よければその人に会わせてもらえないかしら。幼馴染の貴方の紹介があればスムーズに話せそうですわ」

「んー……スムーズに、いくかなぁ?」


 どこか歯切れのない男に、黙っていたジュスティが口を開く。


「何か、その幼馴染さんに問題が?」

「まぁ……その、うん。お嬢ちゃんたちは旅人さんだし、いいか」


 男は2人にベンチに座るよう促す。ロプが座り、その傍にジュスティが座らずに立って聞く姿勢をとったのを見てから、男は口を開いた。


「今更ながら、自己紹介からさせてもらうよ。俺はカラン・バハター。この町の警護隊に所属している」

「僕はロプ・ラズワルドといいますわ。先ほども伝えたように人に頼まれて書人を探し集めて旅をしていますの」

「小生はジュスティ・ガイラント。共に旅をしている……」


 ジュスティは言いかけてロプを見る。それに気づいたのか、ロプが続きを言う。


「共に旅をしている書人ですわ」

「え、書人? それにしては成長していないか? 書人は15歳程で人の姿をとれなくなるのだろう?」

「ジュスティは例外な書人なのですわ。……カランさんがそれほど書人に詳しいのは過去に書人と関わっていたからですか?」

「ああ。俺が幼い頃から家族として書人がいたんだ。アメジールという姉のような存在の人だったが、11年程前に15歳を迎えてただの魔導書になってしまったんだ」


 その言葉にジュスティは顎に手を当てる。

 今まで魔導書となってからの書人の未来は見たことがないことから、夢で見た書人はそのアメジールという書人ではないのだろう。となれば、カランの幼馴染と共にいる書人が夢の書人の可能性があるだろう。


「幼馴染は、マリーという奴だ。あいつはアメジールが魔導書になったのと同じ頃に書人と暮らし始めていた。よくその書人と走り回っているのを見ていたんだが、6年ぐらい前から引きこもるようになったからそれから姿は見ていないよ」

「そうなのですか。引きこもっているから会うのが難しいんですか?」

「それもあるけど……。前に様子が気になったから、書人が外に出ている時に話しかけたんだが、書人を盗もうとしていると誤解されて、それ以来会ってないんだ」

「……盗もうとしていると誤解?」

「人の話を聞かないし、思い込みが激しい奴だったから」


 昔から苦労していたのか、カランの目がどこか遠くを見ているように見える。

 ロプとジュスティは一度顔を見合わせ、頷き合ってからロプは腰を上げる。


「お話ありがとうございます。もしよければ、そのマリーさん……?の家を教えていただけますか? 僕らだけで伺います」

「いや、俺も行くよ。俺だってあの子が元気でいるか気になるし、いい加減外に出て欲しいからな。それでもいいか?」

「助かります」


 ロプが頭を下げ、ジュスティも一緒に下げる。それからふと、ジュスティはカランを見た。


「あの、そのマリーさんの元にいる書人の名前はわかりますか? この国にいるのなら小生と同じ図書院出身かもしれないと思いまして」

「ああ、彼はアンドレアス・フェレエットと名乗ってたよ」

「アンドレアス……!」


 知っている名前だったのか、ジュスティの表情が明るくなる。


「知ってる子でしたの?」

「はい。2歳頃に図書院から去っていったのであっちが覚えているかはわかりませんが……。そうか、あの子が……」


 明るくなったジュスティの表情だったが、夢を思い出したのかすぐに暗くなる。

 ロプは話題を変えるように、町の入口で聞いた行方不明の子供の話をカランに聞いた。


「そういえば、入り口にいた警備の人も言っておりましたが、行方不明の子が出ていたのですよね? 家出でもないのですわよね?」

「ああ。友達と遊ぶ約束もしていたからそれはないと皆が思っている。君と同じくらいの歳で行方不明になったから、君を見ていると少し思い出してしまうよ」


 カランはロプに手を差し出す。ロプはその手を取った。


「些細なことでも、情報が見つかるといいですわね」

「ああ、本当に」

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