消えた

「出れちゃいましたね……」

「出ちゃったわね……」


 手を繋いだままの俺とアリアさん、あまりの驚きに見つめ合ったまま動けなくなった。


「……ふむ」


 なぜ……どうして出れたんだ?

 分からないことだらけだったけれど、なんだ簡単なことなんじゃないかと拍子抜け感が凄い。


「これが外なのね……うわぁ凄いわ!」

「おっと……っ」


 興奮した様子のアリアさんに手を引っ張られてしまう。

 アリアさんは廊下から覗ける城の外を見た……その表情は驚愕と共に感動に包まれており、その横顔に俺はしばし見惚れた。


「……?」


 しかし、そんな彼女を見ながら俺はおやっと首を傾げる。

 それは俺とアリアさんの繋がれた手……まるで、俺自身が彼女の手を離せないと思っているのかギュッと握りしめている。

 ……おかしい、あまりにも変な感じだ。


(この手を離したらダメだ……そんな気がする)


 正直、手を繋いでいるかどうかなんてどうでも良いことだろう。

 けれどこの不安な感覚……今までに感じたことのないこれは間違いなく従っていいはずのものだと俺は解釈した。


「アリアさん」

「なに!?」


 興奮しているところ申し訳ないが伝えさせてもらおう。


「どうして外に出れたのか分かりません……けど、どうか手は離さないようにしましょう。何となく離してはダメな気がするんです」

「……分かったわ」


 興奮した様子のアリアさんも、俺の真剣な空気を感じ取って頷いてくれるのだった。

 ただ物は試しということでアリアさんは繋がれていない方の手を俺に差し出す。


「ローラン君、試しに指輪を取ってくれない?」

「え?」


 アリアさんの中指に嵌められていた指輪……間違いなく売ったらとてつもない額になりそうなそれを外してくれと頼まれ、俺は驚いたが言われた通りにゆっくり外していく。


「それを落としてちょうだい」

「……はい」


 言われた通りに指輪を落とす……すると、指輪は跡形もなく消失した。


「……………」

「ローラン君に触れていないともしかしたらダメなのかもしれないわね」

「……なるほど」


 だとしたら一体どういう法則があるってんだ?

 そもそも俺に何かあるのか……? 俺に何かあるから本来ダメなことが可能になっているのか?


「……うん?」

「どうしたの?」


 待て……俺の体から完全に離れたアリアさんの持ち物が消失した。

 それってつまり……アリアさんの体が俺から離れたら彼女はどうなるんだろうか……それを考えた時、すぐに引き返すべきだと思った。


「アリアさん、部屋に……」


 いや……せっかく外に出て色々見れそうな機会なのに、こんなにも嬉しそうにワクワクするアリアさんの期待を裏切るのか?

 違う……違うだろ俺。

 彼女に何か危険があるのだとすればそれはどうあってもそれは回避するのが当然だろう。


「……ローラン君、私があなたを悩ませてるわね」

「……………」

「部屋に戻りましょうローラン君、残念だけれど」


 ……それが賢明だろうか。

 何があっても離さなかった良いだけではある……でも、何かあってこの手が離された時に取り返しの付かないことが起こるのはごめんだ。


「……あ、ちょっと待ってね」

「どうしました?」


 その時、アリアさんは何かを思い付いたようだった。

 軽く魔法の詠唱をしたかと思えば、薬指の辺りが少し熱くなり……しばらくして立派な白銀の指輪があった。


「これは……」

「祝福のエンゲージリングよ。あ、別に深い意味はないわ――何となく私の推測なのだけど、どうにかあなたに繋がっていれば大丈夫なのではないかと判断したの。それを付けていれば魂そのものが軽く繋がっている状態なのよ」

「……なるほど?」


 ……え?

 それってつまり……そういう状態なのか。

 指輪から感じる熱さ……間違いなくアリアさんの存在感で、これに包まれているだけでどこか安心出来る。

 アリアさんはクスッと笑い、手を離した。


「はい、これで――」


 手が離れてすぐ、アリアさんの姿は消えた。

 それこそさっきの指輪と同じように消え、俺はしばらく口を開けたままだった。


「……ちょっ!?」


 慌てた俺だったが更に変化が起こる。

 それは与えられた指輪さえも消えてしまった……まるでアリアさんという生み出した存在が居なくなったからこそ、存在する力を失ったように。

 早くなる動悸、焦燥も恐ろしいほどに襲い掛かってくる。

 俺は慌てたようにアリアさんの部屋に向かう……そして強い勢いそのままに扉を開いた。


「アリアさん!!」

「あ、ローラン君」

「……………」

「……………」


 ……なるほど?


「……戻ってるんかい!!」

「戻ってたわ! だから手が離れても大丈夫みたいね!」


 そ、それは安心ですけどねぇ!

 たぶん今の俺はすっごく安心した顔と慌てた顔をしていたはず……でもそうかそれなら大丈夫なのか?

 どこからどこまで安心出来るのか分からないが、取り敢えずアリアさんに何もなくて良かった。


「アリアさん、座ってください」

「ローラン君……?」


 でも流石にお説教は必要だと思うんだ。

 怖がる姿を見せた彼女だったが、どこかワクワクした様子のはもしかしたら……そういうこと?


「もしかして怒られそうなのも初めてだからワクワクしています?」

「そ、そんなことはないわ!」


 ……ふぅ、怒る気もなくなってきたなこれは。

 けどアリアさんのこんな顔を見れるのは嬉しいこと……だな、それじゃあこの良い気分のまま怒るとしよう。

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