2 田中と鈴木(前半クラスメイト視点)
「はあ、はあ、はあ……」
けだるい快感が下半身全体に残っている。
視線を向ければ、すぐ側には裸の少女が横たわっている。
クラスメイトの
二人が交際を始めたのは二か月ほど前だった。
日本では中々踏ん切りがつかずに一線を越えられなかった彼らだが、異世界に来たことで実家暮らしの時と違って両親の目もなくなり、二人だけになれる場所にも不自由しなくなったこともあり、早々に体の関係を持っていた。
田中にとって初めての女性だったが、鈴木の方は過去に別の男と経験があったらしく、それが彼には不満だった。
とはいえ、若い彼はすぐに肉体の快楽に夢中になり、鈴木が処女ではなかったことなど些細な問題だと、若い女体に溺れていった。
今日もそんな風に燃え滾るような肉欲をぶつけ合い、今は事後というわけだ。
「異世界生活も悪くないかもな」
田中がニヤリと笑う。
毎日のようにセックス三昧だし、ここ一週間で何度か命令をくだされた『魔族討伐任務』もはっきり言って楽勝だった。
任務で倒したのは低級の魔族ばかりだったが、田中と鈴木の攻撃スキルの前に一秒ともたずに死滅した。
この分なら中級や上級、そして魔王も大したことはなさそうだ。
あまりにも早く任務が終わったため、こうして手近の森の中でむつみ合っているわけである。
「さっさと倒して元の世界に戻るか……いや、その前にもっと鈴木と存分に楽しみたいな」
「……もう、エッチね」
鈴木が上体を起こした。
豊かな乳房が揺れていて、いい目の保養になる。
「いい体してるよな、お前って」
「またヤリたくなってきた?」
「お前って締まりがよくて気持ちいいからさ」
田中は表情を緩めた。
そう言いながら、早くも下半身に欲望が流れこんでくる。
「いいよ。しよっか?」
鈴木が妖艶に微笑む。
その笑顔に吸い込まれるように、田中は彼女を押し倒していた。
その後、二回ほど体を重ねた田中と鈴木はようやく立ち上がり、衣服を整えると歩き出した。
あとは王城に戻り、魔族討伐の報告を行うだけである。
その途中で盗賊を発見した。
「ねえ、どうする?」
鈴木の問いに田中はニヤリと笑った。
「盗賊だろ? 悪人じゃん。殺そーぜ」
躊躇も罪悪感も何もない。
日本ならもちろん許されないことだが、ここは異世界で、自分たちは勇者である。
人を殺したところで罪に問われず、しかも相手が盗賊ならなおさら何も言われないだろう。
「むしろ褒められるんじゃねーの?」
「それもそうだね」
鈴木もケラケラと笑っている。
それに――何よりも、スキルを使うのは楽しい。
人間を超えた力を振るうと、それだけで全能感を味わえる。
「なら、決まりだな」
そして、二人は盗賊たちにスキルを放つ――。
※
――俺の目の前で、盗賊たちは惨殺された。
クラスメイトの田中と鈴木のスキルによって。
「田中のスキル、あいかわらず超強いじゃん」
「はは。お前のスキルも火力高くていい感じだぞ」
田中と鈴木は互いを褒め合っていた。
盗賊たちを殺したことについて何も感じていない――それどころか、まるでゲームのハイスコアを競っているかのような雰囲気だ。
「殺す必要はなかっただろ」
俺は盗賊たちの死体を見て、
「捕らえて、憲兵に引き渡せば――」
「ああ? どうせ生きていても人に迷惑かけるだけの連中だろ」
「害虫駆除みたいなもんでしょ、ふふ」
やはり田中と鈴木には罪悪感なんてなさそうだった。
「だいたい、ここは日本じゃないんだぞ」
「しかも、私たちは『勇者』――特権階級なんだからね」
「だからって、無意味に人を殺していいわけじゃない」
俺は二人をにらんだ。
「あ?」
田中が俺をにらみ返した。
こいつは野球部のエースピッチャーで、身長は190センチ近くある。
俺より頭一つ以上大きな体が、威圧感たっぷりに詰め寄ってきた。
「時雨ごときが俺たちに意見する気か」
「俺は思ったことを言っただけだ」
俺は動じない。
以前なら確実におびえていただろうけど――。
今は不思議なほど恐怖心を感じなかった。
「ちょっと時雨のくせに態度が大きいよ」
鈴木が田中の側に並んだ。
「へへへ」
「ちょっとビビらせる?」
二人は目配せした。
「――【フライングソード】」
ヴンッ!
空中から突然長剣が出現する。
田中のスキル【フライングソード】。
その名の通り、長剣を召喚して攻撃するスキル。
長剣は最大で33本まで召喚でき、そのすべてが田中の意志に応じて、空中を自由自在に動き回る――。
がきんっ。
俺は空中から迫る長剣を、腰から抜き放った剣で撃ち落とした。
「な、何……!?」
「危ないだろ。いきなり攻撃するなよ」
「て、てめえ……!? 時雨のくせに防ぐなんて生意気なんだよ!」
ヴンッ!
さらに三本、空中に長剣が現れた。
それぞれが別々の角度から襲ってくる。
並の人間なら反応もできずに斬り刻まれるだろう。
さっきのを防がれて頭に来たのか、今度は容赦なく来たようだ。
だけど――以前よりも格段にステータスが上がった俺の目には全部見えている。
三本の剣の軌道が、すべて。
がきいいいんっ。
俺は剣を振るい、続けざまに三本の剣を弾き飛ばす。
そのすべてが田中の足元に突き立った。
「本気で俺を狙うなら、次はお前の体に向かって弾き返す」
俺は剣の切っ先を突きつけた。
「ぐっ……」
田中の顔がサッと青ざめる。
「……た、ただの冗談だよ。本気で狙うわけないだろ」
言いながら、田中の体は震えていた。
「な、何、こいつ……」
鈴木も驚いたように俺を見ている。
二人とも気づいたんだろう。
俺の動きが、反応が、今までとは明らかに違うことを。
それとも単なるマグレと判断したんだろうか。
「城に帰るよ。お前たちはどうするんだ?」
「俺たちは……」
「あ、あんたに言う必要ないでしょ! 行こう!」
と、鈴木が田中の腕に自分の腕を絡めた。
あれ、この二人って付き合ってるのか?
雰囲気が友だち同士ではなく、恋人同士のそれに思える。
「王都で適当に遊んでくるだけ。本当、娯楽が全然なくて最悪よね、この世界って」
「そう言うなよ。慣れれば結構楽しいだろ」
「まあ……あんたと一緒なら」
「ひひひ」
あ、やっぱり付き合ってそうな雰囲気だ。
正直、相手がいるのはちょっと羨ましい。
たぶん彼らは遊んでいる最中に、たまたまここを通りがかったんだろう。
王都から別の都市に向かう街道だからな。
「俺は……帰るか」
王都への道を歩き出す。
最後にもう一度、盗賊たちの死体に視線を向けた。
悪党とはいえ――いちおう黙とうをした。
少しだけな。
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