第2章

1 盗賊

「おっと、そこまでだ。身ぐるみ剥がせてもらうぜぇ」


 いつの間にか囲まれていた。


「お前たちは――」


 全部で二十人くらいだろうか。

 見た感じ、盗賊団のようだ。


「こんな場所に二人だけで来るなんて命知らずもいいとこだな」

「こっちは二十一人だ。勝ち目がねぇのは分かるよな?」

「もちろん逃げ場もねえよ。諦めな」


 彼らは手に手に剣やナイフなどを持っている。


 こっちは俺と、万全じゃないミラージュの二人だけ。

 スキルが解放される前の俺だったら、恐怖に震えていたようなシチュエーションだ。


 けれど、今は違う。

 恐怖も不安もまったくなかった。


「俺が出る。ミラージュは援護を」

「承知」


 剣を抜いて前に出る俺と、背後で剣を構えるミラージュ。


「……できれば殺さずに気絶させてほしいんだけど、できるか?」

「この程度の相手であれば造作もない」


 おお、頼もしい。


「剣を抜いたってことは、斬られる覚悟もあるってことだよな?」

「殺されたいらしいな、へへ」


 盗賊が二人まとめて斬りかかってきた。


「遅すぎる」


 ミラージュが一歩踏み出す。


 次の瞬間、二人は剣を弾き飛ばされ、地面に倒れていた。


 すさまじい速さの剣閃、そして峰打ち。


「すごい……」


 感心している俺に向かって、さらに右側面から一人、背後からも一人、遅いかかってきた。


「うわっ、感心している場合じゃない――」


 一瞬焦りかけるが、


「……ん、あれ?」


 奴らの動きが遅く見える。


 こちらに向かってくる動き。

 剣を振りかぶり、振り下ろす一連の動作。


 それらすべてに俺は余裕で反応できていた。

 しもべの数や質に応じて、主である俺のステータスが上がっているからだ。


 しかもミラージュの戦闘能力は、下級とは思えないほど圧倒的だ。


 その恩恵を受ける俺の戦闘能力は、おそらく一流の騎士か、それ以上――。


「見えるぞ――」


 彼らの攻撃は、スローモーションのようによく見える。


 繰り出される剣やナイフをあっさり避け、反撃した。

 俺自身に剣の心得なんてないけど、体が勝手に反応し、動いてくれた。


 どごっ、どすっ……!


 次々に峰打ちで気絶させていく。

 モンスター相手と違って、さすがに躊躇なく殺せる覚悟はなかった。


「全員気絶させて、憲兵にでも引き渡すか」


 俺は残った盗賊たちを見据えた。


「ぐっ……」


 後ずさる彼ら。


「殺しはしない。法の裁きを受けてもらう」


 俺は彼らに宣言した。


「く、くそっ、全員でかかれ――ぐあっ!?」


 そのとき、空中に突然――『長剣』が現れた。


 その長剣が彼らの一人の首を刎ねる。


 さらに二本、三本――。


 次々に現れた長剣が、彼らを斬り殺し、あるいは突き殺していく。

 あっという間に十人以上が殺された。


「ひ、ひいいいいっ!?」

「な、なんだこの攻撃はぁぁぁっ!?」


 生き残った山賊たちがパニック状態に陥る。

 そこへ、


 ごうっ!


 前方から火炎の塊が押し寄せ、残った連中を飲みこんだ。

 あっという間に、残った山賊全員が消し炭となって倒れる。


「今のは……」


 剣と炎――どちらの攻撃も見知ったものだった。


 勇者のスキルだ。


「なんだ、時雨じゃねーか。行方不明って聞いてたけど、生きていたのか」

「そのまま死んでればよかったのに」


 二人組の男女が歩いてきた。


 男は坊主頭でがっしりとした体格、女は明るい茶髪を肩のところで切りそろえた、派手な容姿をしていた。


「田中と鈴木……」


 つぶやく俺。


 男が田中で、女は鈴木……クラスメイトの二人とこんな場所で出会うとは。

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