9 帰還

 朝日が目にまぶしい。


「一体、何日ぶりだろうな……」


 ここは森の中のようだ。


 とりあえず王城に帰るか。


 クラスメイトたちが俺のことをどう報告しているか気になるけど――まずは戻らないとな。


 ――というわけで、俺は『幻影の白騎士ミラージュ』とともに森の中を進んだ。


 遠くの方にモンスターが見える。


 俺は思わず身構えるが、


 がうっ。


 モンスターの方は小さくうなると、すぐに逃げて行った。

 確かあれは獰猛な性質で、みんなと一緒に行動していたときに襲われたこともあったな……。


 ステータスが低いときの俺じゃ、とても太刀打ちできない相手だった。

 それが、まるで俺を恐れたように逃げていくとは――。


「……いや、恐れているのか」


 今の、俺を。


 そうだ、俺はもう今までの俺じゃない。

 遺跡の戦いを経て、生まれ変わったんだ。


「それに頼もしい味方もいるし」


 ミラージュを振り返る。


 といっても、鎧があちこち破損しているし、当面は戦力ダウンだな。

 俺が、がんばらないと。




 俺たちは森の中をさらに進む。


 道中、モンスターを何度か見つけたが、いずれも遠くから俺たちの姿を見ただけで逃げていく。


 いっさい戦わなくて済むし、まったく襲われないので楽でいい。

 半日近く進み、日が沈んできた。


「うーん、今日は野宿かな……」

「では、私が見張りをしよう。マスターは少し休むといい」


 ミラージュが提案した。


「ダンジョンではロクに休めなかったはずだ」

「それはそうだけど……お前は疲れてないのか、ミラージュ? それに体が万全じゃないだろう」

「私はアンデッドだ。疲れない」


 ミラージュが言った。


「体も徐々に修復が進んでいる。それに、夜になると昼よりも修復が進みやすくなる」

「なるほど……」


 アンデッドは夜の方が回復速度が速い、ってことなのかな。

 まあ、この辺りにいるモンスターなら、万全じゃないミラージュでも十分に対応できるよな。


 俺の方は生身だし、いざというときのために休めるときは休ませてもらうとするか。


「しかし、マスターはアンデッドである私に気遣いを見せるのだな」

「えっ」


 ミラージュの言葉にキョトンとする俺。


「そりゃ、仲間だし……いや、まあアンデッドなんだから疲れない、ってことに気づかなかったのもあるけど」

「その心根の優しさは君の美徳だ」


 ミラージュが言った。


「そ、そんな風に言われると照れるな。俺、褒められ慣れてないし……」

「そうなのか?」

「むしろ馬鹿にされてばかりだったよ。向こうでも、こっちの世界でも――」

「私がマスターを馬鹿にする理由はない」


 ミラージュが俺を見た。


 仮面の奥の赤い瞳は、どこか優しい色をたたえているように見えた。


「君は私を救い出してくれた恩人だ。それに――ダンジョンでの君は実に勇敢で、機転も利いていた。私は君に心からの敬意を払う」

「だから照れるって」


 言いながら、俺はちょっと泣きそうになっていた。


 ここまで純粋に――ストレートに他人から褒められたことが、今までの人生で一度でもあっただろうか?


 きっと、なかったと思う。


「……ありがとう、ミラージュ」

「ん、何に対しての礼だ? 私は率直な意見を述べたまで」

「それが嬉しかったから……礼を言ったのさ」


 俺はミラージュに微笑む。




「おっと、そこまでだ。身ぐるみ剥がせてもらうぜぇ」




 突然、茂みの向こうから声が聞こえてきた。

 複数の気配が近づいてくるのが分かる。


 なんだ――?





****


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