第2話
その神社は学校の裏手にある小高い丘の上に存在していた。
正式な名前は知らないけれど、小学生の頃は『クビナガさん』という名前でその神社のことを呼んでいた。たしか、あの裏山で首長竜か何かの化石が発見されたことがあったとかで『クビナガさん』って呼ばれるようになったはずだ。
そんな話を梨乃にすると、梨乃は頭の上にクエスチョンマークを浮かべるような顔をしてみせた。
「なにそれ、知らないけれど。わたしたちは『首なしいぬの神社』って呼んでた」
梨乃はそう言い、ベロを出して狛犬のマネをしてみせる。
あの神社には狛犬があり、そのうちの一体の首が無い状態だったそうだ。だから、『首なしいぬの神社』というわけだそうだ。
神社に狛犬なんてあったかな?
わたしは記憶を呼び覚まそうとしたが、全然狛犬のことを思い出すことはできなかった。
さらにいえば、梨乃のした狛犬モノマネはすべてが間違っていた。首なしなのだから顔真似は出来ないし、ベロを出している狛犬なんて見たことはない。
「え、そっちの方が知らないんだけれど」
「いやいや、それはこっちのセリフ」
そんなことを言い合いながら、わたしと梨乃はキャッキャとやっていた。
「それで、その神社にブランコがあったの?」
なかなか話が進まないことに業を煮やしたのか、ずっと静観を決め込んでいた海堂が口を挟む。
意外なことに海堂は、この話に興味があったのだ。
へえ、海堂くんはオカルティックな話が好きなのね。わたしは心の中のメモ帳の海堂プロフィール欄にそのことを追記した。
「なかった」
「あった」
そこでわたしと梨乃が同時に違う言葉を発した。
なかったと言ったのはわたしであり、あったと言ったのは梨乃である。
そして、お互いに「えっ?」と顔を見合わせた。
「無かったでしょ、ブランコ」
「あったでしょ、ブランコ」
また二人の言葉が重なる。
「ちょ、ちょっと待って、ふたりとも。ふたりは同じ神社のことを話しているよね」
海堂が少し困惑したかのように言う。
「小学校の裏手にあった、山の上の神社でしょ」
梨乃がそう言い、わたしは頷く。
それは間違いない。
しかし、ふたりの記憶は大きく違っているのだ。
「じゃあ、帰りに確認しに行こうよ」
「いいけど」
「あんたも来るでしょ、海堂」
「え? なんで僕も?」
「一度乗った船なんだからいいでしょ」
なんか少し言い回しが違うようだけれども、梨乃は強引に海堂も一緒に小学校の裏山にある神社へと誘うことに成功したのだった。
放課後、三人は自転車に乗り、小学校の裏山にある神社を目指した。
高校から小学校までの距離は自転車で四十分弱。わたしと梨乃にとっては帰り道であるから問題なかったが、海堂は自宅と少し方向が違っていた。
「なつかしー」
梨乃が小学校の校舎を見上げながら、つぶやく。
わたしと梨乃が通った小学校。いまは児童数が減ってしまったということもあり、廃校となっていた。
誰もいない小学校。大勢の人が集まる場所に誰もいなくなってしまうと、途端にそれが不気味な存在に思えてくるから不思議だ。
「あった、あった。ここ、ここだよ」
わたしたちは小学校の裏手に自転車を止めて、裏山へと続く石段を見上げる。
この石段の先に神社がある。
しかし、その石段は何年もの間、誰も通ってこなかったかのように、苔むした状態となっていた。
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