第10話 どうして
結局、蓮くんは『俺が居たら一花が休めないだろうから』と、荷物を運んだ後は長居することもなく、拍子抜けする程あっさりとそのまま帰って行った。
(わたしが警戒し過ぎなのかな……)
なんだか申し訳ない気分になりながら、冷蔵庫に荷物を入れて、ずるずると二階まで這い上がってベッドに寝転ぶ。熱はそんなに大したことはないはずなのに、なんともいえない疲労感がわたしを襲っていた。それでも頭に占めるのはやはり彼のことだ。
(大体、なんで蓮くんはわたしと付き合おうと思ったのかしら?)
恐らくわたし達に接点はなかった。記憶違いとかではなく、これは間違いないはずだ。彼のような目立つ存在と関わっていたら忘れるはずがない。
次に考えられるのは単に容姿が好みだったか――と考えてすぐにその可能性を思い至った自分に恥ずかしくなる。
だってわたしは特に目立つ顔をしていない。鏡を見てもこれといった優れた部分もない代わりに特別ひどい欠点もない。だからこそ人から忘れやすい顔をしているなと自分でも思っている。化粧をしてもそこまで変わるわけでもなかった。
スタイルだって以下同文だ。ただ胸くらいはもう少しあってもいいと願うだけで、恐らく十人中十人がわたしの容姿を普通だと答えるだろう。
こんな地味でそこら辺に埋没してそうな女に一目惚れなんてしてしまったら蓮くんに地味専疑惑まで出てくる。
(それに蓮くんと噂になるのって学校のミスマドンナになった子とか才色兼備の生徒会長とか他校の読者モデルの子とかのキラキラしている子ばかりだしなぁ。しかもその子達ですら一緒に『遊ぶ』だけで『彼女』になっていなかったはずだし)
本当にどうして自分なのか。さっぱり分からない。というより罰ゲームだと勝手に決め付けていたからわたしのどこが良かったのか聞こうともしていなかった。っていうか『わたしのどこが好き?』だなんて恋愛お花畑な質問が難易度高過ぎて聞きにくい。
そしてその質問をする前にわたしは蓮くんのことをどう思っているのだろう。
罰ゲームだと思い込もうとしていたから不誠実にもちゃんと考えてこなかった気がする。
(うーん。顔は格好いいとは思うけど、好きでは無いと思う。だってそう思う程、葉山くんのこと知らないし。どっちかというとグイグイこられて怖いっていう気持ちが強いかな)
恋愛初心者にあれはないだろう。と、思い返してはたとある事実に気が付く。
(あれ? でも、あんなに色々されたのに生理的嫌悪はなかったような……)
彼に触られて突然の展開が早過ぎるとか怖いとかは思っても、触られて気持ち悪いとはならなかった――ただしその代わり恋愛的な意味でドキドキもしなかったけれど。
(蓮くんはちゃんと告白をしてくれたのに、すんごい不誠実なことしているわよね)
こんなこと彼のファン達に知られたら、容赦なく校舎裏でタコ殴りコースに違いない。
そこまで考えて、今更ながらあることに気が付いた。
――そういえば人の居るところではまだ蓮くんと話したことがない。
告白の時の土田くん達はノーカウントとして、確かに家まで迎えに来て一緒に登校しそうにはなったけど結局してはいないし、お昼休みと放課後はこっそりと空き教室で待ち合わせをしたから目撃者は居ないと思う。
彼が今までしてきた行動を考えたら、教室に突撃とかしてもおかしくない。
もしかして蓮くんなりにファンクラブの子達に見つからないようにしてくれたのか。
(もう考えすぎて頭がグルグルする)
もう、いいや。とりあえず今は寝て、月曜日になったらきちんと話し合おう。
(あとお金も払わなきゃ)
蓮くんが熱のわたしに気遣って色々と買ってきてくれたものはお見舞い品として受け取るには、金額が大き過ぎる。
だからそこはきちんと精算すべきだ。
その後に、ちゃんと誠実に向き合おう――たとえ彼がどんなことをしても。いつまでも逃げてないできちんと向き合うべきなのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます