第6話 相巣山スキー場

 同時刻。大学生グループの権藤紘一と瀧美鈴は、相巣山スキー場のゲレンデをリフトで上っていた。装備はスキー場のレンタルを利用したので、旅の荷物はそこまでかさばらなかった。仲間の番井信彦と鳥海風花もゲレンデにいるが、風花が初心者なので、ロッジ近くの初心者コースで、経験者の信彦が手取足取り指導を行っている。同じく経験者の紘一と美鈴は少し体を慣らした後、早速リフトで、より高さと傾斜がある上級者向けコースへと向かっている。


「雪崩で道が塞がれちゃったらしいけど、大丈夫かな?」

「こんなに天気も良いんだし、直ぐに復旧作業も始まるだろ。俺らが帰る頃には問題ないって」


 スキー場に到着して程なく、大学生グループも勢能オーナー経由で、村への道が雪崩で塞がれてしまったことは聞かされている。日帰りの予定で車で訪れていたスキーヤーが帰宅困難となり、その対応でロッジも慌ただしいが、普段は雪害に瀕する機会が無いこともあり、大学生グループは状況を楽観視していた。三泊四日の旅行だし、滞在中には流石に道路状況も改善し、帰りの日程には差し支えないだろう。混乱の続くロッジにいても気が滅入るので、今は素直にスキーを楽しむことに決めた。


 不謹慎かもしれないが、雪崩による帰宅困難で他のスキーヤーはスキーどころではなくなってしまったので、広大なゲレンデは現在、大学生グループの貸し切り状態となっている。


「紘一。あそこに誰かいない?」


 リフトから景色を眺めていた美鈴が、雪化粧した遠くの林を指差す。ゲレンデのコースから外れた木々の合間に、真っ赤なスキーウェアを来た男性の姿が見えた。


「あそこってたぶん、立ち入り禁止だよな」

「……何だか不気味」


 真っ赤なスキーウェアの男性その場に静止し、遠目にジッとリフトの二人を見つめている。ニットキャップにゴーグル。口元もネックウォーマーで覆っているため、容姿を確認することは出来ないが、遠目でも分かる長身とガッシリした体つきの持ち主だ。誤ってコースを外れたという雰囲気ではないし、バックカントリースキーを求めてきたのだろうか?


「あれ? 消えた」


 ほんの一瞬で、真っ赤なスキーウェアの男性は二人の視界から消えた。リフトの動きは緩やかだし、男性が滑り降りるにしても初速ではそんなに長い距離は移動しまい。景色に馴染む白色ならともかく、遠目とはいえ、あんなに目立つ赤いスキーウェア姿を一瞬で見失うだろうか?


「気まずくて、木の影にでも隠れたんじゃないか?」

「確かに。あそこは立ち入り禁止エリアだものね」


 紘一の言い分に美鈴は納得した。立ち入り禁止の場所にいるところを見られて一瞬フリーズし、疚しさから木の影に隠れた。それで全て辻褄が合う。


「よし、一本滑るか!」

「負けないからね」


 リフトの終点に着くころには先程目撃した真っ赤なスキーウェアの男性のことなどすっかり忘れて、二人はスキーでの滑走を満喫した。

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