第8話 コユミとの交渉
今先ほど、訳の分からない配信者とリスナーに迫られたと思えば、今度はコユミが現れるとは。
配信にあまり興味ない私でも存在くらいは知っているし、それほど有名な配信者でもある。
そんな彼女が何故私の元に?
「何でそのコユミちゃんがここに……」
「コユミでいいですよ。実はずっとアナタの事を探していまして……ほらっ、基本ハンターはログアウトした場所から再スタートするじゃないですか? それでもしかしたらと待機していたら、これがビンゴ! 予想通り、アナタが配信者さんに言い寄られていたのでサクッと助けたという訳です!」
「はぁ……」
「ところでアナタのお名前は? 人様のステータスは閲覧出来なくて」
「アカネだけど」
「へぇ、アカネさん! 今の髪色にピッタリな名前じゃないですか! でしたら今後アカネさんって呼ばせてもらいますね!」
テンション高いなこの子。配信者をやっているからだろうか?
まぁそれはさておき、私にはこのコユミに聞きたい事がある。
「というかアンタ、さっき私が配信者に言い寄られたのを予想通りって言ったよね? もしかしてあんな状況になった理由とか分かるの?」
「……はい?」
「はい?」
「……もしかしてアカネさん、ヨーツベとかツイックス見てないんですか? 今のやつ」
「あー、最近は《クリワイ》の情報とか見てたからあんまり」
「……実はアカネさんの活躍が切り抜きされてるんですよ。で、その動画がヨーツベやツイックスで大バズり中なんです」
「……マジ?」
「マジです。ログアウトして確かめて下さい」
「…………」
私は真偽を確かめるべく、《クリワイ》からログアウトして現実世界へと戻っていった。
――そして3分後。
確認を終えた私は、再スタートシステムを利用してコユミのそばへとログインし直した。
「マジだった」
「でしょ? アナタすっかり時の人ですよ」
「その発端は他でもないアンタなんだけどさ。さっき調べて分かったよ」
「ですね。それに関しては……本当すみませんでした」
そう指摘すると、コユミが私に対し頭を下げてきたのだ。
「知っての通り私は配信者をやってまして、切り抜きも事前にしていいと許可しているんです。なので、アカネさんの切り抜きの拡散は私でも止められず……その事で迷惑と思っているのでしたら……」
「別に気にしていないよ。謝んなくてもいいって」
「本当ですか……?」
「うんまぁ。今さっきのはさすがに戸惑っていたけど、余裕があればハイハイって受け流していたし。それにいざとなれば髪色とか変えられるからさ」
ベースキャンプには、そういった髪色や髪型を変える化粧室(と言う名のシステム)が存在する。
もしもの時はそれを使えばいいはずだ。
「…………」
「何? じっと見て」
「あっいえ、結構あっさりしてるなぁって。バズりやトレンドだなんて、配信者でもそう簡単に出来ないんですけど」
「普通にどうでもいい。というか知ったこっちゃない」
「
いや、別に人気者になろうだなんて思っていないんだから当然でしょうが。
というかあの時に何らかの視線を感じていたが、それはどうもこのコユミだったらしい。
それで私とダークリザードとの戦いが切り抜きされて大バズするとは……世の中には物好きな人間がたくさんいるもんだ。
「……でも、それならよかったです。アカネさんって優しいんですね」
「別に……それで話は終わったの? そろそろお暇するけど」
「ああ、すいません。今さっき言ったように、アカネさんが大バズしたのは私の責任でもあります。それにああやって見も知らない配信者がコラボしてくれコラボしてくれと迫ってくるのも、アカネさんにとっても不本意じゃないかと」
「まぁ、確かにそうだけど……」
「という訳で、私とコラボしませんか!?」
「……今さっきの自分の台詞、ちゃんと覚えてる?」
思わずツッコんでしまうくらいぶっ飛んだ要求をしてきたよ、この有名配信者。
この人のやっている事、キリオって男とあまり大差ないんだけど。
「何度も言いますけどこれは私の責任で、私なりに筋を通す為アカネさんに接触しました。さらにアカネさんはもう有名人なんですから、さっきみたく配信者が迫ってくるのも時間の問題。ならば、アナタがよく知っている私と一緒にいた方が安全かなと思いまして。それにアカネさん、アナタ素質がありますよ」
「素質?」
「はい! あれだけリスナーさん方を賑やかしたんですから、アナタが活躍するだけで配信は祭り状態になります! もちろん収益だってガッポガッポ! この際チャンネル作って、配信やっても損はないかと!」
「私が配信やれる人間に見える?」
「はい、そう見えません!!」
うわっ、ハッキリ言いやがった。
いや事実だけどさ。
「なので私の動画に出る形でも構いません! さらに口座番号さえ教えてくれれば、収益の5割を振り込ませていただきます!!」
「随分と破格な」
「ですから言ったでしょう? 私なりの筋を通したいって」
「……ふむ」
収益の5割をこちらにか……確かに悪くない話だ。
いやそれよりも、彼女はあの有名配信者のコユミだ。
彼女の動画はあまり見ていないが、それなりにあらゆるゲームを網羅しているらしい。
つまり《クリワイ》の事を知り尽くしているし、実力もあるに違いない。
「コユミ」
「はい!」
「《クリワイ》、かなりやり尽くしているんだっけ?」
「はいもちろん!」
「強いクリーチャーと戦ったりするんだ?」
「もちろん!」
「……それならアンタに付いていけば、クリーチャー殺し放題じゃん……」
「……アカネさん、顔がこれから人殺そうとしているシリアルキラーみたいで怖いんですが」
私の笑顔を見て、コユミがドン引きしている。
しかしすぐに平常心を保って、
「でもまぁ、リスナーの方々はそのプレイを求めてますからね! となるとアカネさん……」
「交渉成立だね。ただバズりとかなんて興味ないから、こちらの好きにやってもらうけど」
「そこは全然構いません! これからもよろしくお願いしますね!」
と言って、彼女が私の手を握り出す。
何か変な事になってしまったが、まぁ別にいいか。
このまま行くところまで行くとしよう。
「それじゃ、早速フレンド交換しましょうか! 色々便利な事があるので、やって損はないですよ!」
「ああうん。……その前に1つ聞きたいんだけどさぁ」
「はい何でしょう!?」
「私を引き入れたの、さっき言った通り以外にも登録者数を増やしたいとかあるんじゃないの? 疑う訳じゃないけど」
「…………」
「…………」
「…………今後もよろしくです!!」
「図星したな、絶対」
やはり配信者は登録者数を増やすのに必死らしい。
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