第7話 アカネはこんらんしている!
「ヒイイイイイイイ!! 同接増やそうと《サヴェージバッファロー》に挑戦したのが運の尽きでしたああああ!! ただいま《キリオ》はそのクリーチャーに追われていまあああああすうううう!!」
〈草〉
〈あーあ、こりゃあ角で串刺しエンドだな〉
〈負けたな、風呂入ってくる〉
〈あばよ、骨はちゃんと拾っておくから〉
「そんな事を言わずにいいいいい!! だ、誰かこの状況をどうにかしてえええええ!!」
「ダラアアア!!」
どうにかしてくれと男性ハンターが言っていたので、私はサヴェージバッファローに飛び蹴りをかました。
――ブモオオオオオオ!!?
頬に喰らったサヴェージバッファローが強く横転。
それでも体勢を立て直して私へと向かいだすが、その顔面にすかさず蹴りをお見舞いする。
ドスッ!!!
空手の基本技――前蹴り。
顔面で受け止めたサヴェージバッファローが鼻血を出した後、事切れるようにパタリと倒れ消滅をした。
「チッ、すぐに撃沈とかしけてんな。もっと私を楽しませてもらえないものかね」
消化不良もいいところ、まさか図体の割には雑魚だったとは。
不満を覚えたものの、気を取り直してドロップした素材を拾う事にした。
回収出来たのは以下の通りだ。
・《
『まるで
・《凶猛牛の角》
『いくつもの敵を葬り続けた、鋭く太いサヴェージバッファローの角。武器の素材の他、薬の強化材料にも使用出来る』
・《凶猛牛の心臓》
『微かに鼓動を続けているサヴェージバッファローの心臓。薬にすれば防御力が上がる』
「ふぅ……というかアンタ、腰抜かしてるけど大丈夫なん?」
「はひ……?」
それから腰を抜かしている男性ハンターへと振り向いた。
同接とかの台詞からして、男性は配信者で間違いないだろう。
さっき男性の横にコメントが流れていたが、それはどうも同接のコメントをリアルタイムで表示させる機能らしい。以前にそういうのを聞いた事がある。
つまり男性はライブ配信をしているという事で、先ほどの戦闘がバッチリ映ってしまっているはずだ。
まぁどうせ、私のプレイ姿が映ったところでどうこうなる訳でも……、
「も、も、も、もしかして!! 今SNSでバズっている《紅蓮の狂拳》でしょうか!!?」
「…………はっ?」
「やっぱり!! 皆さん、このキリオの前に《紅蓮の狂拳》が現れました!! 何て幸運!! 何て
〈えっ!? 本物!?〉
〈いやそうだわ!! 切り抜きに出ていたのと同じ人だ!!〉
〈ヒャッハアアアアアアアア!! 《紅蓮の狂拳》だああああああああ!!〉
〈拡散拡散!! 《紅蓮の狂拳》が現れたぞぉ!!〉
〈初めまして!! 《紅蓮の狂拳》を見に参りました!!〉
〈同じく初めまして!!〉
〈おおおおおおお本物だぁ!! 今日も虐殺プレイしてるかぁ!?〉
「ぬほおお!! 同接が10人から100人……いや300人!! 500人!! 徐々に上がっている!! さすがトレンド入りした方はレベルが違う!! ヤバい!!」
「…………」
何言っているんだろうこの人ら……。
しかも私に対して何て言った? 《紅蓮の狂拳》?
誰だよ、そんな厨二臭いあだ名を付けたのは。
「あの! 助けていただきありがとうございます!! まさか、このキリオの元に《紅蓮の狂拳》が現れるとは思ってなくて!!」
「はぁ……それよりもその紅蓮何たらって一体何……」
「ここで出会ったのも何かの縁だと思いますし、よかったら一緒にプレイしませんか!? いや、むしろコラボだな!! うん、どうでしょうリスナーの方々!?」
〈えっ? コラボ?〉
〈《紅蓮の狂拳》はともかく、キリオのプレイを見せられてもなぁ〉
〈ぶっちゃけキリオはどうでもいいから、《紅蓮の狂拳》の虐殺プレイを見せてほしい〉
〈ていうかこの際チャンネル作った方がいいぞ、《紅蓮の狂拳》!!〉
〈はよ虐殺!! はよ虐殺!!〉
「ええええええええ!!? 俺まさかのノケモノ!? あんまりじゃないですかリスナーさあああん!!」
……どういう事なの……。
気持ち悪いくらいに迫ってくるこの男性と言い、リスナー達と言い、異常しかない。うん異常だ。
どう断ればいいのやら……こういうパターンなんて初めてだから対処が分からないし……。
「……ん?」
そう思案していた時、ふと私の足元に何かが当たったのだ。
見下ろすと、まるで手榴弾のような物が……と思ったら本当に爆発してしまい、辺り一面に煙が立ち込める。
「ふわあああ!!? 何、煙幕!? ……って、キリオの足元に《ネンチャクダマ》が!! う、動けん!!」
さらに男性の足元に、まるでトリモチのような粘着性の液体がくっついているようだった。
彼が足掻いているのを呆然と見ていると、不意に何者かが私の手を掴んで走ろうとしていく。
「こっちです!」
「はぁ? 今度は何……」
「説明は後です、早く!」
「あっ、そんな!! カムバック《紅蓮の狂拳》~~~!!!」
未だ動けない男性ハンターが呼び止めようとしたが、またたく間に私達は離脱してしまう。
やがて私達が着いたのは、樹木に囲まれた湖前。
その何者かは私の手をほどき、こちらへと顔を合わせてきた。
「ここなら、先ほどのハンターも追って来ないでしょう。あっ、私は敵とかじゃないので安心して下さいね」
「……アンタは……」
その顔……見覚えがあるな……。
ふわりとした明るい青色のショートボブに、同じく青い瞳を持った可愛らしい小顔。
そして全身を覆う魔女を思わせるような白いローブ。
……そうだ、帰省した姉さんと一緒に見ていたVチューバーと瓜二つだ。
そして名前は……、
「えっと確か……小指ちゃん?」
「コユミです」
その女の子のツッコミが、湖の中で静かに響き渡った。
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