第6話 アカネに起こったバグの詳細
「ふぅ、今日も疲れたなぁ」
学校が終わってからの夕食と風呂。
それらを全て済ませてから、私はドカッと自室のベッドに座り込んだ。
「さて、そろそろ《クリワイ》を……ん?」
いざ《クリワイ》の世界へと意気込んだところ、スマホからの着信音だ。
一体誰だこんな時に……ってまた姉さんのラインかよ。いい加減ウザいしミュートしてやろうかな。
〈姉さん:朱音、アンタ武器なしでプレイしてるって言ったよね? 昨日に〉
〈朱音:言ったけどそれが? ちなみにバグのせいでそうなったっぽいけど〉
〈姉さん:じゃあコレを見て。今ツイックスとかヨーツベで話題になっているやつ〉
「姉さんもかよ。一体どの辺りが人気なのかね?」
教室の友達だけではなく姉さんも勧めてくるとは、そのハンターどんだけ化け物なのやら。
送信された動画のサムネからして《クリワイ》で間違いないが、これだけでは何が起こっているのかは分からない。
私はその動画を再生しようと……、
~~♪
「あっ、電話」
この電話番号は《クリワイ》の運営さんだ。
すぐに動画を再生させようとした指で電話アイコンを押し、スマホを耳に付けた。
『もしもし! 《クリーチャーズ・オブ・ワイルド》の運営スタッフの
「はい、大丈夫です」
『ありがとうございます! 早速ですが、昨日におっしゃいましたバグの解析が終わりました! 説明に5分ほど要しますがよろしいでしょうか!?』
「……お願いします」
実際のところ、こういう「○○分くらい説明します」って前置きは嫌いなのだ。
5分くらい時間下さいと言っておきながら、10分以上かかった事があるし。
もっとも内容が内容なので、背に腹は代えられないのだが。
『それで辻森様、確か「オートスキャン」を使った際にモザイクが発生したとおっしゃいましたよね?』
「まぁはい」
『お調べしたところ、どうもその「オートスキャン」にバグが発生したみたいでして。これが主に二通りの事例が確認されております』
「二通りの事例?」
『はい! まず一つ目は、武器や防具を掴めなくなってしまうバグです。これによって辻森様は強化出来ず、ある意味ペナルティだらけで最弱な状態となっております。何せクリーチャーの攻撃を喰らっただけで即死なのですから』
「ああ、なるほど」
あの時、ハンターソードを掴めなくなったのはそういう事だったのか。
それに防具もダメとは。つまり裸同然で戦えって事だ。
『続いて二つ目なのですが、コレをご説明する前にお聞きしたい事がございまして。辻森様は何か格闘技など習っていましたか?』
「あー、実は中学まで空手をやっていました。最近でも一応鍛錬してまして」
『なるほど。実はですね、その際に辻森様ご自身のアビリティまでスキャンしてしまい、その戦闘能力が《クリワイ》に反映されておられるのです。これは他ハンターには存在しない事例であり、今の辻森様はその戦闘能力を備えた唯一のハンターとなっております』
「唯一の……」
今ので大体の疑問が解消された。
武器が持てなくなった理由や、ダークリザードを武器なしで倒せた理由も。
しかしペナルティで最弱か。
武器や防具で強くなっていく《クリワイ》において、それは痛い話かもしれない。
……でもまぁいいか。
そんなの、持ち前の空手で何とか補えるだろう。
『もちろん弊社もバグの修正に尽力していますが、ご存じの通りバグというのは1日2日では直らないものです。ですので辻森様には、しばらくその状態になるとは思いますが』
「いや大丈夫です。そういうのは気にしませんし、何だったらそのままでも結構です」
『あらそうなのですか? でしたらバグはそのままにしますが、もしすぐに直したいのでしたらご連絡下さい。いつでもバグの修正が出来るよう準備しておきますので』
「分かりました。ありがとうございます」
『いえこちらこそ! それでは《クリワイ》をどうかお楽しみ下さいませ!』
運営の人との話が終わったところで動画の再生を……と思ったが、急に面倒臭くなったな。
仕方がない。これは《クリワイ》を終わらせた後に見ておこう。
〈朱音:その動画は後で見るよ。って事でよろしく〉
〈姉さん:いやいや、今見なさいよ! 絶対に驚――〉
はいはい、どうせ後で見るんだから別にいいでしょうが。
姉さんのラインを放っておいた後、すぐにヘッドギアを使って《クリワイ》の世界にログイン。
スタート位置を『前回ログアウトした場所』か『ベースキャンプ』かを指定されたので前者を選択した後、昨日に見た草原が視界に広がっていた。
「……もう一回試してみるか」
ふと私はある事を思いつき、素材一覧を開いていく。
目に付いたのは、ダークリザードから回収出来た《
これを3つ手に持った後、私は小さく呟く。
「《ビルド》」
それは私達ハンターが、初期から持っている
その2つのスキルを利用して攻略していくのも、《クリワイ》の醍醐味でもある。
で、《ビルド》というスキルは「クリーチャーの素材を武器や防具などに作り替える」といったものだ。
例えば《クリーチャーの爪や牙》×《木の棒》で《短剣》が出来上がるし、そこに炎を吐くクリーチャーの素材を付加すれば炎属性攻撃が発現する。
周りから採集できるキノコといった食べ物なども、やりようによっては回復薬などにも出来るのだ。
その《ビルド》によって《
それを装備出来るよう設定するも、
ドサッ……。
プレイ初日と同じように、悲しく地面に落ちる。
「さすがに作った防具でも駄目か」
《ビルド》で作った防具でなら……と思ったが、結果は同じようだった。
捨てるのももったいないので、ひとまずリザードメイルをしまう事にする。
それから私は自身のステータスを開き、その確認をとった。
「……運営の人が言ってた通り、防御力は紙以下と。対し攻撃力と俊敏力はそれなりにあるけど、多分これよりも強い奴はいるんだろうなぁ」
防御力は10と、《クリワイ》初心者の私でも分かるくらいに貧弱である。
確かにこのまま一撃攻撃を喰らったら、即死は免れないだろう。
どんなに最弱なクリーチャーであってもだ。
頼みの綱はこの攻撃力と俊敏力。
装備ありの熟練者より弱いだろうが、贅沢は言ってはいられない。
なお死亡したらペナルティとして装備や所持品のいくつかを落としてしまうので、何が何でも避けたいところ。
……って、所持品はともかくとして装備は失っても痛くないか。こりゃあ失敬した。
「とにかく戦闘をしない事には始まらないし、さっさとクリーチャーを……」
「うわあああああああああ!!!」
「ん?」
途端、情けない悲鳴が聞こえてくる。
振り向いてみると、1人の男性ハンターが巨大な化け物によって追われているようだった。
化け物の正体は巨大な角を備えた猛牛で、小屋ほどの大きさはある。
「……探す手間が省けたよ」
嬉しいねぇ、早速
思わずニヤリと笑ってしまったよ、ハハハハ……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
この時、アカネは装備品所持の熟練者よりもステータスが劣るだろうと自嘲していたが、それは大きな間違いである。
アカネは空手の有段者であり、いくつもの大会を優勝した類まれなる戦闘センスの持ち主。
その戦闘センスすらオートスキャンによって上乗せされた事で、今の彼女のステータスはどんな熟練者のものよりもはるかに凌駕していたのだ。
それをアカネが気付かなかったのは、単に熟練者のステータスをあまり見た事ないから。
熟練者の配信動画を閲覧している際にも、早めに見終わろうとステータス披露とかをスキップしていたのだ。
さらにアカネは武器や防具を装備出来ないというペナルティを持っているが、実は
これが後々手助けになるのを、彼女自身が知る事となるのである。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
《クリーチャーズ・オブ・ワイルド》は『モン〇ター〇ンター』と『ブレ〇・オ〇・ザ・ワ〇ルド(あるいはティ〇キン)』を足して2で割った仕様です。あとは『マ〇クラ』も少々足していますね。
「面白い」「続きが気になる」と思った方は、ぜひとも☆や応援コメやレビューよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます