第34話 はわ~ん

 すっかりクリーチャー扱いにされてしまった私だが、特に反論の余地もないのでスルーする事にした。


 それから私達は、この渓谷に向かうきっかけとなった「もう1つの目的」を見つける為に捜索。

 そうして渓谷の奥深くにたどり着いた時、エリが前方へと指差した。


「あっ、あれ……あれが情報屋が言ってた《ハッピーチ》」


 岩肌だらけのこの渓谷に、一際目立つ木がそびえ立っている。

 その木の枝に、ピンク色に光る桃のような果実が実っているようだ。


・《ハッピーチ》

『幸せな気分になれるくらいに甘い甘い果実。食べる事で一定時間、体力が減らないようになる』


「なるほど。珍しい果物だけあって、強い効果があるんですね」


「そうみたい。ちょっと採りに行ってくる」


「大丈夫ですか?」


「《クリワイ》内でなら、木登り出来るから」


 エリがジャンプして枝に捕まった後、すいすいと登ってハッピーチを数個回収した。

 すぐに私達の元に着地してから食レポ……かと思いきや、


「狂拳先輩、コユミちゃん、本当にありがとう……。ハッピーチを回収出来たのも2人のおかげで……本当に感謝してもしきれないよ……」


 深々と頭を下げて、私達にお礼を述べてきた。

 そこまでされると、こそばゆく感じるなぁ。


「私はただオーガを倒しただけだよ。それよりも早く食レポした方がいいんじゃない? リスナーが見ているんだし」


「そうですよ。ぜひとも今のリスナーさん方に、食レポ披露してみて下さい。私達、応援しますんで!」


「……うん、じゃあいただきます」


 エリが1つのハッピーチをかじっていった。


 しばらく味わっていくと、次第に花が開いたかのように目を輝かせていく。

 うわっ、可愛いなぁ。


「うん、うん! 何これ凄い! 確かに甘いんだけどしつこくなくて……それでいてリンゴのような酸味があって……こんなにも美味しい果物、現実で味わった事ない!」


〈あら~、目を輝かせちゃって、あら~〉

〈食べている時のエリちゃん、可愛いなぁ~〉

〈あ~~~~~~~~脳が蒸発シュル~~~~〉

〈リバーノース:エリちゃんかわええぞ!! ええぞ!!〉


「えっ、同接が増えて……凄い、もう3万!? 何これ!?」


「だから言ったでしょう? コネは目の前にあるって。それで食レポはもう終わりですか?」


「あっ、ううん。実はこんなのがあって……《お料理上手》」


 エリがそう唱えると、彼女の手元から物体が出現した。


 その正体は、何とフライパンとフライ返し。

 しかもいつの間にか、足元に焚火まで用意されているではないか。


「食べ物を食べ続けてたら、こんなユニークスキルが出てきた。フライパンで食べ物を炒めると、料理が出来る感じ」


「へぇ、そんなスキルがあるんだ」


「よかったら食べ物を入れて。色んな種類を入れると美味しくなるから」


「いいの? じゃあ、この間ヌシオークから出てきた上質ロースを」


「私も私も! エリちゃんの分も入れておきますね!」


「ありがとー。そしてここにハッピーチを入れてっと……」


 ハッピーチとオークのロース3個を入れた後、手際よく料理をするエリ。


 するとすぐに、フライパンが皿に盛られた料理3つへと変わっていった。

 フルーツソースをたっぷりかけたステーキという、フランス料理を思わせるような一品。しかもご丁寧にフォーク付きだ。


「《ロースのフルーツソースがけ》出来上がり~」


〈おお、美味そうじゃん!〉

〈こんな事も出来るんだなぁ。《クリワイ》最高やんけ〉


「はい、先輩達もどうぞ。口に合うか分からないけど」


「おお、ではいただきます! ……うん! 凄く美味しいです! 高級なフランス料理を食べている気分です!」


「どれ……うんイケる。高そうな料理店とかにあっても違和感なさそう」


 肉の旨味とフルーツソースの甘味が良く絡んでいるし、本当に美味いと来た。

 こんな美味しい料理をも作れるなんて、つくづく《クリワイ》は色んな意味でおかしいゲームだ。


「よかったぁ。じゃあボクも……」


 エリもまたロースを味わっていくと、次第に幸せそうな笑顔を浮かばせてきた。

 表情乏しかったのにこんな表情すんだ。そんでもって可愛い。


「はわ~ん幸せ~。もう食べただけでハッピーになれる~」


〈はわ~ん可愛いいいいいいい!!〉

〈あーあー!! 脳がぁ!! 脳がぁ!!〉

〈こっちまでハッピーになれるよぉ……最高だよぉ……〉

〈もうこりゃあ、エリちゃんのファンになるしかないな!! これからも頑張ってくれ!!〉

〈もしスパチャ可能になったら、1万円払うからね!! 応援しているよ!!〉

〈エリちゃん頑張ってね!!〉

〈頑張って!!〉


「もう6万も…………ありがとうリスナーの皆さん! ボク、これからも食レポ頑張っていくね!」


 増えていく同接数に感極まりそうになりながらも、可愛いらしい微笑みで宣言するエリ。

 どうやらファン獲得という目的は成功したらしくて、私は安堵の息を吐いた。


「ほんと、コユミのコネは凄いね。エリの動画、すぐに人気になってさ」


「いえいえ、私は大した事してないですよ。むしろこれは狂拳さんのおかげですって」


「私?」


「あのオーガを退けてハッピーチを回収……なんて、狂拳さん抜きでやれるのか分からなかったんですから。狂拳さんがオーガを倒してくれたからこそ、エリちゃんの食レポが上手くいったんです」


「そういうもんかねぇ」


 でも言われてみれば今回のオーガ、今までのクリーチャーとは比べ物にならないくらい強かったと思う。

 カワセンから教わった心眼がなかったら、倒せたかどうか微妙だったし。


 しかしその戦闘に勝ったおかげで、《獣身一体》なんていう強力なスキルを手に入れた事だし、これでもっともっとクリーチャーをぶち殺せるだろう。

 うん、今から楽しみだなぁ。ワクワクする。


「どうしました狂拳さん、考え事ですか?」


「えっ? ああまぁ、そんなところ」


「大方、クリーチャーをなぶり殺す事を考えてたと思いますけど。……それよりも1つ、私思う事がありまして」


「何?」

 

 コユミがじっとエリの事を見ている。

 エリは未だ「は~美味しい~」と幸せそうに笑っているのだが、それに対してコユミが一言。


「エリちゃんの笑顔可愛くてですね……凄いキュンキュンなんですよぉ……ウヘヘヘ……」


「…………」


 リスナー達のエリに対する反応がヤベェとか思っていたものの、コユミもコユミで大概であった。

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