第28話 バラエティのドキュメンタリーっぽい感じ
ジョギングを終わらせて朝食を食べた後、コユミの合流してほしいというDMがツイックスアカウントに届いた。
言うまでもなく新種ドラゴンの捜索の続きだろうが、あれだけ時間が空いていればさすがに誰かに倒されているではないだろうか。
そういった趣旨をメッセージを送ってみたところ、しばらくしてコユミの動画付きの返信が返ってくる。
〈もしかしてこの動画見てないんですか!? こんな感じなのが流れてますよ!?〉
その動画はコユミ曰く、とある配信者の切り抜きらしい。
何かヨーツベのトップにこんなのがあったような気が。
とにかくそれを再生してみると、夜の《クリワイ》の世界を歩くハンターがドンと。
『ようやく到着しました!! 謎のドラゴンがいるという渓谷!! あとはドラゴンを倒してレア素材を回収するだけ!! いやぁ待ち遠しいね!!』
『あんまりはしゃぐな。夜だから周りが見えにくいし、奇襲されてもおかしくないからな』
『そうそう、やられるのはアンタだけで十分よ。その間に私達がレア素材回収すんけど』
『おいおい、そりゃあねぇだろ! こういうのは山分けが基本じゃねぇか!』
どうもその陽気そうなハンター、冷静そうな男性と女性と組んでいるらしい。
いわゆるクランだ。
そんでもって夜の渓谷らしき場所は薄暗く、ハンター達が持っている松明がないと歩く事もままならない。
朝まで待てばよかったのに、よほどドラゴンを早く倒したいらしい。
『とにかく、他のハンターに横取りされないようここまで来たんだ。常に気を引き締めて……』
ザッ……。
『待って、今の音……』
『ああ……近い。気を付けろ……』
『えっ、マジ? もう戦闘か?』
何らかの音が発したのを機に、3人が各々の武器を取り出す。
画面が辺りを見回していくが、暗すぎて音の発生源すら分からない。
――するとその時、
『ギャアアアアアアアアア!!!』
『どうした!? ……っていない!? おい、どこに行った!?』
『アイツ、一体どこに……ってキャアアアアアアアアア!!!』
『なっ、そんな……嘘だろおい!!』
まずチャラそうな男性の、それから女性の悲鳴が響く。
残りの慎重そうな男性ハンターが振り返るも、その両人の姿が影も形もない。
どうも男性ハンター1人だけになってしまったらしい。
『クソッ!! やっぱり真夜中に来るんじゃなかった!! どこから……一体どこから……!!』
……ザッ!!
『……!! そこか!!』
男性ハンターが音がした方向に剣を振るうが、そこには何もなかった。
……ただ一瞬だけ、映像に尻尾のようなものが見えた気が。
……ザッ……ザッ……ザッ……。
その間にも……足音だろうか? それらしき音が響き、男性ハンターは一心不乱に辺りを見回していた。
足音は絶え間なく響いていたが、やがてそれが不意に収まる。
――グオオオオオオオオオオオ!!
『ウワアアアアアアアアアアアア!!!』
その瞬間、目の前から『何か』が現れて男性に襲いかかる。
彼の悲鳴が上がったところで映像が暗転。動画は終了となった。
「…………何かアレだ、うん。バラエティのドキュメンタリーみたいだな」
とまぁ、私はそんな事を思っていた。
いや、自分で言うのも何だが、薄情とかそんなんじゃないよ?
だってこれあくまでVRゲームの中の話だし、そもそもやられたところで現実で死ぬ訳でもないし。
そんなデスゲームのような事があってたまるか。
それよりもだ、男性ハンターを襲った『何か』は動きが速すぎて姿とかが分からなかった。
試しに男性ハンターが襲われた瞬間をスロー再生してみたものの、完全にブレッブレ。
輪郭がぼやけてしまっていて、結果何も分からなかったとしか言えない。
〈動画見ました?〉
〈これに出てきたのが恐らく新種ドラゴンだと思いますが、こんな感じにハンター達を返り討ちにしているみたいなんです。既に何十人辺りがリスポーンされてますね〉
〈という事でどうします? 行くのやめたりします?〉
動画を拝見した後、コユミの追加のメッセージが送られてくる。
彼女なりにドラゴンを警戒しているらしいが、残念ながら私の答えは決まっているのだ。
〈やめるどころかめっちゃ行きたいんだよね。凄いワクワクするわコレ〉
あんなものを見せられて
誰にも倒せないような凶暴で強力なクリーチャー。
確かに警戒して越した事ない存在であるが、それがかえって殺り甲斐を起こさせる。
恐らくタラスク以上の戦闘になるはずだ。
それこそ、現実では味わえない血で血を洗う殺し合いを!
という訳で、他ハンターに横取りされる前に急いだ方がよさそうである。
もっとも、この分だと誰かに先を越されるという事はしばらくないだろうが。
〈そう言うと思いました! それでこそアカネさんですよ!〉
〈どの辺がそれでこそなのか分からないんだけど〉
こうして私達は
いち早く目的地へと向かう事となったのだ。
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