第23話 VSヌシオーク

「オイオイオイオイ!! 何だコイツ!!?」


「オークの3倍くらいでかいぞ!!」


「しかも同種を喰らってやがる……一体何なんだよコイツ!!」


「も、もしや……!」


 動揺するハンターの中、背後から男性の声が響き渡る。

 私とコユミが振り返ると、さっきまで話していた情報屋がいつの間にか立っていたのだ。


「知ってるんですか、情報屋さん!?」


「ああ。もう目の前にいるから隠す必要はないが、ソイツは恐らく《ヌシ》へと進化を遂げたオークだと思われるぜ」


「ヌシ!?」


「他クリーチャーとの生存競争によって群れが絶滅しないよう、同種を共食いしたりしながら進化を遂げる個体が出てくる。それが俺ら情報屋がヌシと呼ぶ個体で、場合によってはドラゴン系と同等の危険性を持っているんだ!」


「それは初めて知ったなぁ」


「最近になって確認された現象だからな! 未知の生態系で構成された《クリワイ》ならではのクリーチャーだよ!」


〈そんなクリーチャーが出てくるとかおかしいやろ《クリワイ》……〉

〈最先端のAIで生態系構築していったらしいからな。そんな事があってもおかしくはないさ〉

 

 私のつぶやきにそう答える情報屋。


 こんな現象が起こるなんて、ほんとどうやったらそんなゲームが作れるのやら。

 まぁ、そういう知識がないからアレコレ考えてもしゃーないけどさ。


「そんな珍しい個体だったらレア素材が出るんじゃ……」


「だったら倒さない訳にはいかないなぁ!!」


「おい、抜け駆けは許さねぇぞ!!」


 情報屋の話を聞いた何人かのハンターが、ヌシオーク(今命名した)へと向かって行った。

 

 ――ブグオオオオオオオオオオオオンン!!!


 するとヌシオークが雄叫びを上げ、それを聞いたオークの群れがハンターへと襲いかかっていく。


「クソッ!! お前ら邪魔すん……アガアアアアア!!」


「ギャアアアアアアア!!」


「オゴッ!!?」


 殴られ、噛み付かれ、果ては脚で踏まれたり。

 現実に帰ったら間違いなくトラウマになりそうな惨い殺され方をされた後、ハンター達がもれなく消滅していった。


「気を付けな!! 仲間から聞いたんだが、ヌシ化したダークリザードが咆哮で同種を扇動したらしい。恐らく同種の恐怖を煽って前進させているんだ!!」


「情報ありがとうございます!! となると接近が難しくなります……ね!!」


 ついさっきやった眷属氷柱攻撃(これも今命名した)で、1体のオークを倒すコユミ。

 

 確かにヌシオークの登場で群れが活性化されているような感じだし、その群れが私達に襲いかかってくるので奴への接近もままならない。

 他ハンター達も群れの猛攻に成すすべもなくやられてしまっているし……さてどうするか。


「……そうだ」


 思い出した。

 今さっき情報屋に売ろうとした《暴甲龍の魔石》がある。


 魔石はスキルを獲得出来る手段。

 もしかしたら、この場を切り抜ける事が出来るかもしれない。


 ……まぁ、駄目なら駄目で片っ端からオークを倒せばいいんだけど。


 ――ブオオオオオオオオオオオ!!


 1体のオークが迫ってきたので、すぐさま回し蹴りして首をへし折ってやった。

 オークが倒れる中で魔石に視線を向けると、そこから文字付きのウインドウが出てくる。


『《暴甲龍の魔石》を使用しますか?』


「使用する使用する。だから早くして」


〈あれは……タラスクの魔石?〉

〈ついにスキルを獲得するのか!?〉


 するとその時、粉々に弾ける魔石。

 中から出て来た光の粒子が私の身体に取り込まれていった後、再びウインドウが表示された。


・《暴甲龍の衝撃波》

『《暴甲龍の魔石》に秘められた《ユニークスキル》。スキル名を唱えてから一定時間、攻撃時に強力な衝撃波が発生するようになる』


〈うおっ、狂拳先輩が陰になってて説明が見えない!?〉

〈せんぱーい!! こっちに! こっちに見せて下さい!!〉


《ビルド》や《ワープ》といった初期のとは違い、こういった魔石で手に入れた仕様のやつを《ユニークスキル》と呼ぶらしい。


 効果はまぁ凄いとは何となく分かるが、問題はこの後。

 拳で戦っているという通常ではありえない状況になっている自分が、まともにそのスキルを発動出来るかという事だ。


「……まぁ、試した方が早いか。《暴甲龍の衝撃波》」


〈コメントに気付いてねぇ……!!〉

〈気にする余裕というか興味ないんだろうなぁ。でもそんな自由奔放じゆうほんぽうな先輩も素敵だぜ!!〉


 一か八か。

 私はスキルが発動する事を願って、ユニークスキルを唱えた。


「……おっ?」


 その瞬間、青白いエネルギーが右腕に纏われる。

 これはもしかして……。

 

 期待を感じる私だが、そこにオークが剛腕を振るおうとしてくる。

 すぐに私はカウンターとして、エネルギーが纏った右腕を腹に殴り付けた。


「フン!!」



 ドオオオオオオオンン!!!



 すると拳からソニックブームのような衝撃波が発生し、それを受けたオークが声を上げぬまま肉片へと還っていった。

 さらに後方にいた数体までもが、衝撃波の余波を喰らってバラバラに引き千切れていく。


 ――ブアアアアアアアアア!!!!??


 そうして悲鳴の後に残ったのは、元々オークだった細切れの肉片だけ。

 よく見ると地面が大きく抉られていて、衝撃波の威力の凄まじさを物語っている。


〈…………えっ?〉

〈…………えっ??〉

〈……ええええええええええ!! 狂拳先輩が殴った瞬間、オークがバラバラに!!?〉

〈ファアアアアアアア!!?〉

〈えっ!? 一体何があったの!? マジで何があった!?〉

〈どうも狂拳先輩の拳から衝撃波が放たれて、それが複数のオークを細切れにしたらしい。仮にも上級の群れを一撃とかチートだろ……〉

〈よくよく見たら、タラスクが放っていた衝撃波に似てね?〉

〈あっ、言われてみれば。という事は、威力もタラスク由来なのか〉

〈タラスクの魔石なら、この威力も頷けれるけど……〉

〈ていうか、こういうのって普通武器から放つよな? よく拳から出たもんだ〉

〈確かに……拳で戦っているから、拳が武器だと認定されたのかな?〉


「……………………」


〈……あれ? 狂拳先輩がフリーズしてる?〉

〈先輩どうしやすた!?〉

〈あまりの威力に呆然しているとか……?〉

〈まぁ、気持ちは分からなくも……〉


「――ダハハハハハハハハハハハハハハ!!! ハハハアハハハハハハハハ!!!」


〈ヒ、ヒイイイイイイイ!!?〉

〈わ、笑ってやがる!!?〉

〈スイッチが入ったああああああ!!〉

〈すっげぇ笑い方汚っ!!!〉


 何これ!? すっげぇおもしろ!! 最高じゃん!!


 アレだ!! 残虐系にハマるキッカケになった犯罪者主人公のゲーム!!


 そこで入手出来た無限ロケットランチャーで、敵の雑魚どもを皆殺しにした快感とよく似ている!! 

 あれ、めっちゃバンバン死んでて面白かったなぁ!!


「ハハハ……フウ」


 なるほどなるほど、これでオークの群れを殺れって事か。


 確かに、このユニークスキルを披露するには絶好の機会でもある。

 事前に感じていたスキル発動の心配も、問題なしだと分かった事だし。


「フフ……来いよ豚どもぉ!!」


 私は高らかにオーク達へと叫んだ。

 遠慮なく奴らをひき肉にする為に!!


 ――ブオオオオオアアアアア!!!


 私の挑発に乗るかのように襲いかかってくるオーク達豚ども

 しかもコユミ達と戦っていた奴らまで加入しているので、かなりの数を誇っている。


 もっちろん、私は空振りの正拳突きをかます!

 それによって発動した衝撃波が奴らに襲いかかる!!


 ――ブオギャアアアアアア!!


 ――ア゛アアアアアア!!


 ――ブアアアアア!!???


 あれだけ数十体いた、それも数の暴力でハンターを潰していったオーク達が、宣言通りひき肉へと早変わりだ。


 それでも残りが襲いかかって来るので、それも衝撃波で木っ端微塵!!

 そして情けない声を上げながら逃げようとする奴らもいるので、それもそれも木っ端微塵!!!


 ――ブビャアアアアアアアアア!!!


〈ヒイイイイイイイイイ!!! あれだけいたオークがああああああ!!!〉

〈こんな光景、滅多に見た事ねぇえええええええええ!!〉

〈タラスクの魔石は当たりだったんだな……まさに狂拳先輩の為のスキルなんだ……〉

〈鬼に金棒……〉

〈それをたかが交渉の為に売り出そうとした狂拳先輩って……()〉

〈すげぇ……狂拳先輩最高ですわ……でも恐怖が勝るっす!! コワイ!!〉

〈ツイックスから来ました!! ……って、轟音と笑い声で耳がああああああああ!!!〉


「お、おお……同接が30万!! やっぱり狂拳さんは凄いです!! めっちゃ怖いですけど!!」


「ハハハアハハハハハ!!」


 ヤベェ!! 超ヤベェ!!

 もうコメントとかコユミの言葉とか気にする余裕がないくらい、エンドルフィンがドバドバ出ているわ!!


 そうこうしてたら、敵がヌシオークしかいなくなったよボケ!!


 ――グウウルウウウ……ブグオオオオオオオ!!!


 もはや自分が出るしかないと悟ったのか、ヌシオークが吠えながら前進してくる。

  

 通常よりも巨大な身体が迫って来る図は、かなり威圧的。

 ……が、私はそんな事をお構いなしに衝撃波を叩き込むけどね!!


 ――!? ブゴオオ!!?


 いかに巨大な体と言えども、強力な衝撃波には全くの無意味。

 左脚と左腕が引き千切られ、大きく倒れるヌシオーク。


 そして、私はすかさず奴の前に立って、


 ――ブルウウ!?


「私は敵意のない対象には手を出さないけど、今回はそっちから襲いかかってきたんだ。……まぁ、運が悪かったって思いなよ」


 見上げてきたヌシオークに対して、お見舞いするのだった。


 ――ブアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


〈……これどう見ても立場逆だよな()〉

〈↑確かに()〉

〈↑普通オークに対して、女性が悲鳴上げるもんなぁ()〉

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