第14話 ダンジョン攻略を終えて

 タラスクの素材を回収し終わった後、私達は《ワープ》を使ってダンジョンから離脱をした。

 ダンジョン前へと到着するなり、コユミが笑顔で実況をする。


「皆様の応援のおかげで、無事ダンジョンを攻略する事が出来ました!! 今回、私の活躍が少なかったのですがいかがだったでしょうか!?」


〈いやもう最高だった!!〉

〈狂拳先輩のプレイが見れて満足だよ!!〉

〈狂拳先輩カッコよかった!!〉

〈狂拳先輩サイコー!!〉

〈あっ、もちろんコユミちゃんも強くて安心した!!〉

〈アイアタルを2体同時撃破なんて、コユミちゃんくらいしか出来んもんな!!〉


「ちょっとちょっと!! 何か私がサブっぽい感じになってますって!! この配信が私のチャンネルのものだって事を忘れないで下さいね!!」


〈分かってるってコユミちゃんww〉

〈怒ってるコユミちゃんもかあいいなぁ!!〉


「もういじめないで下さいよぉ!! とにかく今回の配信はここまでにしますが、最後は狂拳さんの一言で終わりにしたいと思います! 狂拳さん、今回はいかがだったでしょうか!?」


「あー、タラスクの顔面を剥がすのが凄い良かった」


「おおおおっと!! まさかのサイコパスな発言!! 他の配信者さんでは考えられません!!」


〈もし狂拳先輩を怒らせたら、顔の皮剥がされるかもなぁ〉

〈そこから「目だ! 耳だ! 鼻!!」ってされるんですね、分かります〉

〈↑狂拳先輩、ゲッ〇ーパイロット説浮上〉


 何かリスナーの間で、私が殺人鬼扱いされている件について。

 わたしゃ、そんな狂人じゃないやい。少なくとも現実世界では。


「という訳で、配信はこれにてお開きになります! 次回のご予定は随時ご報告しますので、チャンネル登録及び高評価よろしくお願いしまーす!」


〈了解でーす!〉

〈次回も待っておりまーす!!〉


「ありがとうございまーす! それでは配信はここまで! また今度でーす!!」


 長かった配信がようやく終わったらしい。

 コユミが一息を吐かせた後、今さっきと同じようなニコニコ顔を私に向けてきた。


「お疲れ様です、アカネさん! 初コラボ回は大成功でしたね!」


「そうみたいだね。あんま気の利いた事は出来なかったけどさ」


「とんでもない! 今の配信で同接が20万行ったんですよ! そう20万! 10万の2倍ですよ2倍!! このまま一気に、50万行くんじゃないかってくらいの勢いでしたよ!!」


「ふーん、それはよかったじゃん」


 ごめんコユミ。

 私は同接の事をよく分からんから、10万と20万の違いにチンプンカンプンなんだ。

 

 とりあえず人気度が上がったというのは理解出来るのだが。


「それに1日経ってないのに、私達息ピッタリでしたし! 本当に良いコンビになれるんじゃって思うんですが!?」


「それはいくら何でも早計すぎでは?」


「とにかく!」


 そのコユミが、突然私へと頭を下げてきた。


「トレンド入りしたりバズったりで戸惑っている中、私と一緒にプレイして下さって本当にありがとうございます! アカネさんのご厚意には感謝してもしきれません! そして最後に……」


「最後に?」


「交渉成立した後に言うのも何ですけど、今後ともどうかコラボしてくれれば嬉しいです! アカネさんとなら、この先ずっと一緒にプレイ出来ると思うんですよ!」


「……そうかもね。こちらこそよろしく」


 リスナー達に関しては閉口する時があるが、それを差し引いてもコユミと一緒にプレイする事自体は嫌だと思っていない。

 なんやかんやで彼女が良い子なのは見ていて分かるし、暇つぶしくらいにはなるだろう。


「さっき言いました通り、収益の5割をアカネさんの口座に振り込んでおきます。来月には届くとは思いますので」


「ん、分かった」


「あと連絡手段が欲しいので、よかったらツイックスの『KOYUMIちゃんねる!!』ってアカウントにフォローして下さい。DMダイレクトメッセージで合流とかの相談が出来ますよ」


「あー、実はアカウントを持っていないんだ。だから1から作る事になるけど」


「それだったら、いっそ《紅蓮の狂拳》のアカウント作ってみては? 絶対にフォロワー数が増えますって!」


「私はそういうの興味ないんで」


「もー、そんな事を言ってぇ!」


 コユミが頬を膨らますのはいいとして、そろそろ現実世界に戻る頃合いだろう。

 今日のところは戦闘とかで色々と疲れたし、続きは今度にしておきたい。


「配信終わったみたいだし、そろそろログアウトするわ。攻略に手伝ってくれてありがとうね」


「いえいえ、どういたしまして! アカウントのフォロー、くれぐれも忘れないで下さいね!」


「分かってるよ。それじゃあ、また今度」


「はい! 今日はお疲れ様でした!!」


 再び頭を下げるコユミの姿を最後に。

 私の視界は真っ白に染まっていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「あ゛ー、我が家に戻れたぁ」


 意識がハッキリすると、見知った私の部屋が視界に広がっていた。

 

 割と1時間以上はプレイしていたと思うが、しかし心配はいらない。

 どうもあちらの時間の流れは遅いらしく、時計の針はたったの数分程度しか動いていない。なんて便利な。

 

「さてアカウント作るか……って、姉さんの着信が来てるじゃん。あのデバコスバカ暇なのかね?」


 ツイックスのアカウントを作ろうとスマホを手にした時、姉さんの着信が履歴にある事に気付いた。


 しかも独り言ちた瞬間、電話の着信音が鳴り出す始末。

 すぐに電話に出ると、喜奈姉さんのやかましい声が耳をつんざく。


『ちょっと朱音! アンタ、動画を後回しにして《クリワイ》やっていたでしょう!? あの動画には……』


「私とダークリザードの戦闘が映っていたんしょ? ちゃんと見たから分かっているよ」


『あらそうなの? じゃあ、アンタがバズったりした事も?』


「まぁ。てかよく、そのハンターが私だって分かったね?」


『そりゃあ、妹の声をよく聞いているんだもの。にしても、コユミちゃんとコラボだなんてやるわねアンタ! すっかり時の人じゃない! しかも《紅蓮の狂拳》だなんてカッコいい異名を……』


 ――ピロン♪


 強引に通話を終わらせた私は、すぐにツイックスのアカウント作成に取りかかった。

 

 正直面倒なのだが、これ以外に連絡手段がない以上はやむを得ないだろう。

 こうでもしなければコユミも困るだろうし。

 

 そうして完成したアカウントで『KOYUMIちゃんねる!!』にフォローし、DMで本人確認を取らせるも、


〈アカネさん!! フォローめっちゃ嬉しいですけど、もうちょっとマシなネームにして下さいよ!! これじゃあ酷いですって!!〉


 何故かコユミに怒られてしまった。


 そんなに変かな? アカネの『ア』から取って『アアアアア』ってネームにしたんだけど。

 ……えっ、安直すぎ? 分かりやすくていいネームだと思うんだけどなぁ。

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