第11話 呆然としたコユミ Side
「いや、やっぱり私だけが素材拾うのも失礼だしさ。どうせ私、武器も防具も装備出来ないんだから受け取ってほしいんだわ」
「は、はぁ……ではお言葉に甘えて」
私はアカネさんに言われ、アイアタルの素材を回収する事にしました。
・《
『鱗による強靭さと伸縮性のしなやかさを併せ持ったアイアタルの皮。防具の素材に使用出来る』
・《邪獄蛇の牙》
『相手を腐食させる毒が仕込まれているアイアタルの鋭い牙。武器の素材にすれば毒属性が付加される』
・《邪獄蛇の肝》
『相手を腐食させる毒が内包されているアイアタルの肝。薬の素材にすれば解毒薬に出来るが作成率が低く、相手に投げる戦法が推奨されている』
「さて、先に進むか」
「え、ええ……そうですね……」
「……? 何か元気なさそうだけど大丈夫なの? いつもはテンション高めなのに」
「あっいえ、大丈夫です! 少し調子が崩れただけでして!」
「ふーん、まぁいいけど」
私の言葉にアカネさんは納得したようですけど、すいません割と調子が崩れないです。
別に敵を横取りされたり素材を押し付けられたりした事に不快感はないんですよ。
先ほどの戦闘だって頼もしいとは思いましたし、ドロップ素材も今後の役に立ちますので非常に助かります。
それに彼女が活躍しただけで、リスナーさんの方々は大盛り上がり!
現在の同接だって、今までの平均10万人を突破して15万になっているんですよ! そう15万!
配信に全身全霊をかけている私としては、嬉しいこの上ないです!
……ただね、怖すぎるんですよ!!
何あの殴りながらの笑顔!? 完全に殺しでハイになっている精神錯乱者ですよ!! ジャンキーどころの話ではないですって!!
しかも今のアカネさん、アイアタルの返り血を浴びていて危ない人しか見えません!! いや実際危ない人ですけど!!
一緒に配信するという事でこうなるとは覚悟していたはずなのに、喜びよりも恐怖が勝りますよ!!
勝手な言い分をしているのは重々承知していますが、このまま一緒に配信できるか不安になってきました。
もしかしたらアカネさんの残虐さに精神が汚染されて……って、これじゃアカネさんが旧支配者のような感じじゃないですか!! 何言ってんですか自分は!!
〈何かコユミちゃんが頭抱えたり表情を強張ったりしているな〉
〈おーい、大丈夫かコユミちゃん?〉
「えっ……あっ、すいません! ちょっと考え事をしていまして!」
〈まぁ大方、さっきの狂拳先輩の虐殺が目に焼き付いているからだろうなぁ〉
〈あれはおぞましかった〉
〈でも何だろう……ドン引きするはずが逆に魅力的に思えてきた〉
〈分かる。俺、狂拳先輩の虐殺なしじゃ生きられない身体になっちまった……〉
〈俺、もっと狂拳先輩の虐殺が見たいです!!〉
〈虐殺!! 虐殺!!〉
〈
ああああああああああ!! 私より先にリスナーさん方が精神汚染されてるううううううう!!
このままじゃ、私のファンの皆さんが虐殺大好きシリアルキラーになってしまうううううう!!
……っと、いけないいけない!
今の自分は有名配信者のコユミなんです! この程度で取り乱す事など言語道断!
こういう事態をどうするかは後々考えておきましょう!
とりあえず気を取り直した私は、妙にウキウキとしているアカネさんと共に先を進みます。
きっとアカネさん、次の獲物が現れるのを待っているんでしょうね。
完全に目に殺意がこもってますし。
――ギチギチ……。
ふとその時、目の前から虫の鳴き声のようなものが聞こえてきました。
さらに私達は広い空間の中へと入り込みますが、光を発する
その空間に目を凝らしてみると、
――ギチイイイイ!! ギチイ!!
――ギチイ!!
巨大蜘蛛の姿をしたクリーチャーが、空間にぎっしり詰め込まれています!
まさしく虫嫌いにはたまらない絵面! それなりに耐性がある私でも、背中がゾクゾクします!!
「《ヴェノムスパイダー》ですね! アイアタルほどの脅威はないですが、数の暴力が厄介です!」
このクリーチャーは以前に会った事があるので、生態とかは分かっています。
名前通り毒液を内包していて、それを口から放つ攻撃を得意とする奴らでして。
ちなみにヴェノムスパイダーのように下級~中級のクリーチャーは『○○+動物名』で、上級以上のクリーチャーは『幻獣名』とある程度統一されています。
幻獣の名前を持っているのでしたら要注意ですね!
「コイツらを避けて素通りは出来ないですし、二手に分かれて殲滅しましょう!」
「分かった。そういえば持っているように見えないけど、コユミの武器ってどこ?」
「それでしたらご心配なく! すぐに取り出せれますので! 《フェンリルケイン》!!」
私が唱えると手元に光が集まり、それが実体化して武器となります。
フェンリルケイン。
かつて勝利した上級クリーチャー《フェンリル》の素材で作った武器で、先端に鋭い刃を備えた魔法杖と言った様相をしています。
これを《ビルド》で作るのにそれなりの苦労がありましたが、まぁ割愛しておきましょう。
〈おおお出た! 未だコユミちゃんしか持っていないというフェンリル素材の武器!!〉
〈やっとコユミちゃんの戦いが見れるな!〉
〈
「いやいや、私は虐殺しませんって! では行きますよ、狂拳さん!」
「うん」
私はアカネさんと二手に分かれた後、ヴェノムスパイダーの群れに突入していきます。
こちらに気付いたヴェノムスパイダーが一斉に毒液を発射しますが、それを私はジャンプでかわし、
「ハアア!!」
フェンリルケインを振るい、先端から数本の
複数のヴェノムスパイダーを串刺しにしていきます!
――ギイイイイイイイイイイ!!
体液を飛び散らせながら力尽きるヴェノムスパイダー。
さらに私が着地した時に1体が迫ってきますので、すかさず氷柱を発射!
顔面をまともに刺されたその個体も行動不能に!
上級クリーチャーの中には特殊能力を持っている個体が多いのですが、フェンリルのそれはズバリ「氷を操る」というもの!
その能力が、このフェンリルケインに反映されているという訳です!
あとついでなのですが、現在羽織っているローブはフェンリルの毛皮、その下の鎧はフェンリルの縄張り周辺にあったレア鉱石《ミスリル》で作られていると、防御力も申し分なしですね!
〈おお、やっぱコユミちゃんつえーわぁ!!〉
〈この華麗な戦い方は凄く推し!!〉
「ありがとうございます!! こんな調子で次々と……」
〈一方で狂拳先輩はイキイキですなぁ!!〉
〈コユミちゃん、狂拳先輩を見てみなよ!〉
「えっ? 狂拳さん?」
そのコメントに対して、私はアカネさんの方を見ました。
ブチイイイイイイ!!!
――ギィイイアアアアアアアアアア!!
「この脚を引き抜く感触がいいじゃん!! じゃあ次は頭を……」
ブチブチブチブチィ!!!
――ギガアアアアアアアア!!
「ダハハハ!! 贓物も一緒に出てらぁ!! マジウケるわぁこれ!!」
……アカネさんがヴェノムスパイダーの脚や頭部を引き抜いてなぶり殺しているようです……ってだから怖いですって!!
目がイッちゃってるし笑ってるし……本当にどんな経緯があって、そんな趣味に走ったのやら……。
〈コユミちゃーん!! 後ろ後ろー!!〉
「えっ?」
と、私が悶々としていた時でした。
自分のいるところが暗くなったので見上げると、ヴェノムスパイダーが目と鼻の先にいたのです。
その個体が鋭い先端のある脚を、私めがけて振り下ろし……、
――!!?
私は脚の串刺しに……という訳にはなりませんでした。
どこからともなく飛んできた……多分同族の脚? それらしきものがヴェノムスパイダーの身体に突き刺さったのです。
ヴェノムスパイダーが怯んだ瞬間に、横からの影がその個体の頭部を蹴り飛ばしました。
「お前サッカーな!! ……っと、コユミ大丈夫?」
分離したヴェノムスパイダーの頭部がボトリと落ちる中、私に声をかけたのはアカネさんでした。
そう、私を救ったのは他ならぬ彼女だったのです。
〈おおおおお!! 狂拳さんがコユミちゃんを助けてくれた!!〉
〈キャー!! 狂拳さんイケメーン!!〉
〈よかったね、コユミちゃん!!〉
「…………」
〈コユミちゃんどった?〉
〈フリーズしてる?〉
……カ、カ、カ、カッケエエエエエエエエエエエエエ!!
こんなにもアカネさんがカッコいいだなんて盲点でしたよ!!
精神錯乱者とか旧支配者とか言っていた今さっきの自分にカスやと罵りたいくらいです!!
「……コユミ?」
「あっはい!! 大丈夫ですはい!!」
アカネさん、先ほどは不安に思ってしまってマジすいません!!
私、アナタに一生付いて行きます!! もう舎弟でいいです!!
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