第2話 《クリワイ》での初戦闘
おかしいなぁ。
確かに私は、このハンターメイルの装備を設定したはずだ。
それがどうして床に転がっているんだ?
不思議に思い、もう一回装備を設定するも、
カラン……。
また落ちた……何で?
……仕方がない。次は武器のハンターソードだ。
それも設定を完了させた後、手元に出現するはずなのでキャッチを……、
カロン……。
「…………」
ハンターソードも床に落ちてしまう。
というか今、手から手品のようにすり抜けた?
仕方なく身を屈んで拾おうとするも、手がすり抜けて一向に掴めない。
根気よくやっても同じなようで……。
スカ……スカスカ……。
「………………チッ!!」
開始早々アクシデントか!? クソゲーかこのゲーム!?
ああやっぱり買うんじゃなかったよ!!
姉さんに
……いやいや、落ち着け落ち着け。
ここでキレても何も得にならない。一旦整理をしよう。
武器も防具も装備出来ないなんて、普通ではありえない事だ。
となると考えられるのは1つ――バグだろう。
現にアバター姿が完了した時にモザイクが掛かっていたし、それと関係があったりするのかもしれない。
「分かったところで装備が付けれないのはなぁ」
この《クリワイ》は、武器と防具が必須なファンタジーVRMMOだ。
どちらも持っていかないんて丸裸で行くようなもの。すぐに敵にやられてアボンだ。
さてどうするか……。
「……いや待った」
その時、私に逆転の発想が閃いた。
武器が使えないなら、徒手空拳で戦えばいいのでは?
私は中学の頃までは空手部に入っていて、何度も大会で優勝している。
高校に入ってからはバイトを優先したいので帰宅部になってしまったものの、未だ身体作りとして鍛錬はしている。
その空手を応用して、敵と戦う事が出来るはずだ。
問題はそれで敵にダメージを与えられるかどうかだが……。
「……まぁ、とりあえず考えていても無駄だし、外に出てみるか」
バグに関しては、後で運営に連絡すれば何とかなるだろう。
なのでこの問題は一旦置いておく。
私は外に出る事を決意し、キャンプの出入り口を覆う布を上げる。
その布を通過した瞬間、私の喉から感嘆の声が出た。
「へぇ……」
隅々まで広がる、ファンタジー感ある草原と山々の世界。
何でも《クリワイ》は「プレイヤーが未知の異世界に転移される」というコンセプトらしいが、なるほどマジで異世界に来ているような感触だ。
ちなみにこのVR世界、現実に例えて地球8個分あるという超広い大陸らしい。
いわゆる未開の地で、ファンタジーによくある村とか城は存在しない。
そして私達は調査の為に遠路はるばるやって来た『調査員ハンター』という設定であり、それ故かプレイヤーを《ハンター》と呼ぶ風潮が《クリワイ》内にあるらしい。なので今後はその風潮に見習おうと思う。
《クリワイ》の目的なのだが、とにかく敵を倒す事。
敵を倒すとそれ相応のドロップを落とすので、それを元に強力な武器や防具、そしてアイテムを作る。
そしてそれらを元手にさらなる強敵を倒し、また武器や防具を作り……その繰り返しという訳だ。
さらに突如としてダンジョンが発生したりするので、そういった攻略もあったりするらしい。
ここからは姉さんの受け売りなのだが、有名配信者はそうした強敵を倒していく様子をリスナー達に見せ付ける事で収益を得ているとか。
まぁ、弱い奴のゲームプレイなんて誰も興味ないからなぁ。そりゃあ当然。
《クリワイ》に興味を持ってから動画をサラリと見てはいるが、実際に手練れだろう配信者の再生回数が100万以上行っていた。
それだけ、配信者にとっては《クリワイ》は理想の舞台なのだろう。
「まぁ、全然配信とか興味ないんだけど」
私はというと、配信なんかやる気しない。
理由? めんどいから。
実況なんてかったるくてやってられんし、そもそも周りからチヤホヤされたいとか思っていないし。
一応、VR機器をネットに接続すれば機材なしで配信出来るらしいが、私からすれば凄いどうでもいい事だ。
「さてと、行きますか」
ともあれ敵を探さない事には始まらない。
私は草原を駆けていき、バトれるだろう敵を探していく。
――ギュルオオオオオ!!
すると、とある方向から獣の咆哮のようなものが聞こえてきた。
すぐにその発生源に向かってみると、どうも岩場の近くで戦闘が行われているらしい。
「ヒイイ!! コイツらヤベェ!! ヤベェって!!」
片方は男性のハンター。
私みたいな初心者だろうか、動きにキレがない。
そしてもう片方は3体の怪物。
前脚しかない黒い巨大トカゲといった外見で、その頭上に《ダークリザード》と書かれたウインドウが表示されている。おそらくそれが名前なのだろう。
アイツらが《クリーチャー》と呼ばれる《クリワイ》の敵だ。
この大陸に古くから生息する人知を超えた獣達らしいが……まぁ異世界ものの魔物だと思えばいいんか? よくWEB小説読むからその辺分かるし。
――ガアアアア!!
「うわっ、やめっ!! ギャアアアアアアアア!!」
ダークリザードの鋭い鉤爪が男性ハンターの腹を抉り、血がドバーッと。
おー、リアルだね。そんでもって熾烈。
痛みは感じはすれど現実に全く影響ないらしいが、これは中々のハードだ。
その一撃が致命傷になったのか、男性ハンターが塵のように消滅していった。
で、私に気付いたダークリザードらが一斉に振り向いた後、1体目が前脚を使って接近してきた。
――グオオオオオオオ!!
「それじゃあ景気づけに……」
さっきの戦闘から分かるだろう。やらなければやられる。
だったら返り討ちにするまでだ。
武器を持てない私が繰り出せれるのは、空手で培ってきた身体ただ1つ。
奇声を上げながら鉤爪を振るおうとするダークリザードに対して、私は正拳突きをかまそうとした。
……まぁ、武器所持前提のゲームで腕力なんて大したダメージには……、
ドゴオオオオオオン!!!
「はっ?」
私がダークリザードを殴った瞬間、まるで砲弾が喰らったような凄まじい音が響き渡る。
そして背後にあった岩場に激突し、
――グアアアアアアアアアアア!!
ガラガラと崩れる瓦礫と共に、ダークリザードのものと思われる血しぶきが舞った。
…………。
……………………。
……………………最高じゃん!!
何でここまで威力があるのか知らないが、武器なしでも十分やれるじゃん!!
しかもこれなら……これなら!
敵を八つ裂きに出来るじゃん!!
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