第14話 船長

人形が現れる前の世界では、組合よりもずっと大きな組織があって、言語や何やらよくわからない理由でさらに大きな集団を作ってて、人形が今作っている道具も人間が組織的に生産していたそうだ。


船長という存在も、今ほど重いことではなく、その船で指揮を取る1番えらい人間くらいの物だったようだ。


「俺はお前、この幽霊船の船長になるから、はいだら号はユーリが船長しろよ」


この人には船長というのはさして重いものではないらしい。


暗闇の中で突然告げられた。表情はわからないが、いつも通り眠そうな顔をしてるのだろう。


「気が早いですね」

「終わってから言うんじゃ遅いさ」

「勝手に決めていいんですか」

「この船に責任もてる奴が他にいねえだろ。組合にも言ってはある」

「はいだら号のみんな認めますかね」

「年長なんだから大丈夫だろ。そこまで俺が俺がって奴もいねえし。お前ならだいたいのことはできるしな」


どうだろう。迫田など同い歳だし、「なんでロスケのモヤシめが先なんだ」などと罵ってつかみかかって来そうだが。


「そもそもだな。しくじって俺が“アッチ”に行ってしまった時のサブにお前を選んだ時点で誰からも異論はなかっただろ。次の船長を狙ってる奴がいたならこのチャンスを掴みに来なかっただけで資格がねえのさ」

「そこまで考えて船長になったんですか?」

「全然」

「お父さんから継いだからですよね」

「かといって、3歳の隆太に継がせるわけにもいかんからな。早江は船のことはわからんしよ」

「早江さん船に乗っちゃうと事務局に空きが出ますね」

「やれる奴がやる。やるべきことをする。だからお前」


ここに来る前にそうなるだろうなという気はしていた。船長は船のことだけではなく、組合員として自分の船に乗る生存者たちをまとめて生存させる責任を持つ。大抵はこの責任を敬遠して立候補を渋る。

一方で、船長は船の資源や水産物の配分の決定権も持つので、責任を敬遠するタイプが多いとこんな風に簡単に決まるが、権利にガメツいタイプが多いと暴力沙汰になる船もあるそうだ。


「前から気になってたんですけど、はいだら、って何なんですか?」

「俺も知らないんだ。親父によれば気合いのようなもんだと。由来も何も詳しいこと教えてくれないまま死んだよ」

「きっと、船の名前にするほど縁起の良い何かなんでしょうね」

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