第13話 幽霊船
今は海上倉庫と化してる「さんふらわあ」もかつては客船だったそうだ。在りし日は豪華な内装だったことを思わせる腐った木の板や家具の残骸が船の隅に寄せてある。
「さんふらわあ」よりはずっと小さなこの幽霊船も、模倣元の船には様々な調度品が並んでいたのだろう。船内はそういった物を置くべきスペースばかりだ。壁も床も天井も、全てが真っ白に塗られているので差し込んだ月明かりだけでかなり奥まで見える。
船の中心部に階段があり、甲板のある階を2階とするなら、1階が機関室や貨物室で、3階が操舵室だろう。本当をいえば操舵室も見て回りたいが、朝になると彼らが動き出す。
川内船長も私も、事前の打ち合わせ通り1階に降りて機関室を探す。
どんなに壁が白くてもさすがに窓のない場所は真っ暗だ。彼らにはこの暗さは苦痛だろう。
カチッ
青白い光が通路を照らす。もちろん、幽霊船に照明設備などない。
“乾電池”を生産する技術も設備も失われている。充電式の物だけがわずかに生き残り、このような有事の時だけ使用される。電灯をこうやって持ち運ぶ状況は感動よりも恐怖を覚える。
階段を降り、船底にある機関室までたどり着いた。
本来の機関室は腐った魚油が焼かれる臭いがしないものらしい。機械の潤滑油は燃料に似た臭いのする物が詰められている。
「どんな生き物から取るとこんな臭いに?」
「石油を加工した油に金属を混ぜて作るらしい。新品は俺も初めて見たよ....」
機関室内に人形がいないことを確認してからドアを閉め内側から施錠する。少なくとも進水まで機関室に彼らの用はないはずだが、施錠していなければ入ってくるかもしれない。彼らの怪力なら鍵を壊すこともできるが、「物を壊さない」ルールにより侵入を諦めさせる効果がある。
「便所はどうしよう」
川内船長が申し訳程度の砂が入ったビニール袋を差し出す。
「他にないものね....」
「6時間起きて外に出て様子を見てから交代としよう。ユーリが先に寝ろな。消すぞ」
機関室に耳が痛くなるほどの静寂が訪れた。
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