第12話 月明かり

日中の人形達は休み知らずだが、日没になるとその場でしゃがんだり寝そべったりする。


造船作業もいよいよ大詰めで、フェリーの屋根周りの工事中に日没を迎えた。このため、屋根の上には20人くらいの人形が作業途中でそのまま眠り、日出と共に作業を再開する。


眠っているといっても目は開いたままで、呼吸からくる身体の伸縮もなく、寝息も立てない。しゃがんだ姿勢で時間が止まっているようだ。


他者が動いても基本的に意に介さない。しかし、認識はしている。しゃがんだまま顔や目だけをずっとこちらに向けてくる者もいる。


早ければ明日、遅くとも3日以内に進水が行なわれる。あらかじめ侵入しておく必要がある。


川内船長と私は延々と歩いていく。目指すのは新造船の船内。屑鉄を抱えたまましゃがむ人形の間をぬう。おっかなびっくり歩くと注意を引く。ジロジロ見てても注意を引く。かといって少しでもぶつかれば同化されるので見ないわけにもいかない。


造船所の建屋はガラス製なので月明かりが内部を満遍なく青白く照らしている。

砂地の上に規則正しく、船までの道を示すように間隔を空けて、うずくまった人形が列を成している。


人形と人形の間は人一人分なので並んで歩けない。船長が先に、私が後からついていく格好になる。誰も歩いていないので相当目立つはずだが人形達は気にしない。異質であることが注意を引くのではない。困ってるように見えると注意を引くのだ。


道に迷ってたら助けたくなる。

人を探してたら助けたくなる。

物が見つからないなら助けたくなる。


彼らはとても親切なのだ。

触られたら私達が死ぬだけだ。

悪意はなく、私たちを助けたいだけだ。


ジャリ....ザッ...ジャリ....ザッ....


彼らは泥棒に入られるなどと夢にも思ってない。それどころか、自分達が造船所で船を築いてきたことさえ分かってないかもしれない。


ボッ…ボッ…ボッ...


ドックの地上階からフェリーの甲板へと架けられた簡易の橋を歩く。彼らの姿勢制御ならただの棒でもいけるはずだが、生前の癖なのだろう。


甲板にたどり着いた。

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