第10話 造船所
「とうとう来たな」
苫小牧観測所からおよそ3km。
檻を持ち上げ、道を作りここまで来た。
檻3つ向こうは造船所の敷地で檻はない。
造船所は本来、製鉄所や鉄板を鋳造する工場、部品の製造工場が隣接してたりするのだろう。
だが灰色どもの造船所はガラスと鉄筋で作った風避けの建築物の中に、谷のようなドッグがあるだけだ。
ドッグは小高い天然の断崖をコンクリートで整形して作られているので最初は本当に谷だったのだろう。ドッグの底は入江を舗装してそのまま使っている。
建屋のそばには檻のない空き地があり、万を超えるような灰色人形が立ったり座ったりして待機している。灰色じゃない人形と違って歩き回らないが、疲れ知らずの人形が何を待機してるのかは境界守にもわからない。
ドッグの入口には屑鉄の山が築かれ、谷底には建造中の船の船底が横たわる。灰色達の作業から出る赤い光が周囲を照らす。
船体を作る金属は周囲の廃墟や砂鉄など、檻と同様だ。檻の場合はその場で鋳造されるが、船の場合は古くなった檻や砂に埋まっていた屑鉄があらかじめ集められている。
だが、それはメインの材料ではない。条件が整うと、灰色は空き地から出ていき、ドックの入口に置かれた山から拳大の屑鉄を持って、建造中の船に降りていく。
適当な空いた場所につくと、くず鉄を両手のひらで包んで“こね”始める。
凄まじい圧力と摩擦熱で鉄が真っ赤に柔らかくなると、懐から「適正なパーツ」を取り出して、溶鉄の一部を接着剤にして船体とパーツをくっつける。幽霊船は連中の模造品を鉄で継ぎ接ぎしたものだ。模造品の強度は本体を離れるとある程度落ちるようで人間の武器でも一応破壊可能だ。
伝承にいう蜂はちょうどこのような形で、植物の身体に含まれるわずかな蝋を口で取り出してかき集め、自分の何百倍もある家を作ったそうだ。
蜂がどれほどで家を作ったのかは知らない。しかし、灰色の船が出来上がるのは季節1つ分だ。
「あの建造中の船ができ上がったところを狙って奪おう」
「それまでに食糧と燃料をここに集めていこう」
気が咎めないか。季節1つ使って作られた「他人の」建造物を何の対価も払わずに奪う。灰色も生前は人間で、自分の意思でああなったわけではない。
構ってられない。死体を肥料に使おうが肉にして食おうが生者の勝手だ。墓の備えは生者が食う。生前の意思の尊重は努力義務で、葬儀は他の生者へのポーズだ。
死者は生者のためにあるんだ。
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