第9話 選定

三刀谷の爺さんが始めた時代から、灰色領域に行くこと自体はそう珍しいことじゃない。爺さんは部品収集どころか、領域の奥にいた灰色の主人と対面し、いわゆる「諸尾蔵書」の金属板を生存者領域に生きたまま持ち帰っている。


しかし爺さんが同化されず、土に埋まることができたのはただの幸運だ。真似をした奴は誰も戻って来なかった。


灰色は、主人の命令を受けているわけではなく、あくまで植え付けられた主人の自我を当人のものと誤認し、各々が「自分のために」行動することであの領域が形成される。つまり、奴らには「自分たちは灰色人形」というアイデンティティ自体が存在しない。


なので、灰色が侵入者を警戒することはないので、領域に入ること自体は難しくない。問題は、入ってからの安全確保だ。連中がこっちに注意を向ける条件は、完全に予想することはできない。日本海組合の手順書を守れば安全というわけではない。


「これはだいぶ傷んでるな。交換される可能性がある」


こんな風に言ったが、灰色が「作り直す」檻がどんな物かは、境界で灰色を観測し続けてる私達にもはっきりと言い切れるわけではない。


「交換されなかった檻で1番劣化してたのがこの程度であるから、ぱっと見で大きな錆びが数えれる範囲...そうだな6くらいか?6を超えてたら使えないと思ってくれ」

「だいぶ厳しいな。ここいら一帯、全部やばいんじゃないか?」

「リフォームがここまで来たら観測所はたたむことになるかもなぁ」


リフォームというのは昔、家を壊さず内装を新品にするという素敵な話で、「来ることがわかっている災害」の名前ではなかったそうだ。

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